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森の賢者は話を聞く。

 『セイナ様、何やってるのー?』

 『悪魔』の首から取り外した、服従の魔術具をいじっていたら精霊にそう聞かれた。

 壊すだけなら、私は力技でも出来る。私にとっては解体より魔力つぎ込んで無理やり壊す方が断然楽なのよね。

 ただ、最近の服従の魔術具の事私はあんまり知らないから効果を失わないように解体はせずに慎重にとりはずした。それで、私は椅子に腰かけて、刻まれている魔術構築式とかを見て色々と考察していた。

 「魔術具のお勉強よ。昔のに比べて性能はよくなってるみたいね、魔術具の方は一応」

 でも考えてみれば私が最後に服従の魔術具見たのって、えーっと、200年~250年ぐらい前? かな。うろ覚えだけど。それだけの期間でこれだけしか進歩してないって事は、やっぱり魔術同様、今は昔の技術を使っているだけの状態になっているんだと思う。

 魔術具は魔術構築式を魔力を通す物体に刻んで魔石をはめこんで、構築式と魔石の間に回路を繋いでそうして出来上がる。魔術は人の持ってる魔力を使って行使されるけど、魔術具は魔石って呼ばれる石の魔力を使う。

 魔石は魔力が満ち溢れた場所には結構落ちてる。この森にもたまってる場所もある。

 ただ魔術は、魔術具作りよりも簡単だ。魔術具作りってめんどくさい。服従系の魔術具はその中でも断然難しい。人の精神に関与してどうこうするものでもあるから、作れる人って昔から多くなかった。今の時代だし、服従系の魔術具作れる人ってきっとあんまりいないだろう。

 ついでに服従系の魔術具は思うように動かすためにつけられた人間の自我を抑えるというか、まどろみに居るような気分にさせるような効果もある。だから操られている間は割と、夢を見ているかのような気分のまま、命令を実行させられる。

 そんな事を考えながら魔術具をいじっていれば、

 「ん……」

 ベッドに寝かしていた『悪魔』が小さな声をあげて、目を覚ました。

 「あれ…?」

 そして体を起こすときょろきょろと不思議そうにあたりを見回して、私を視界にとらえるとびくっと体を震わせる。

 その態度が何処までも脅えた子供のようで、私は『悪魔』という存在について益々わからなくなる。でもどれだけ王国側で残虐に伝えられていたとしても、目の前の存在が『悪魔』の本性なのだろうと思う。

 「『悪魔』」

 「……な、何って、あれ、普通に喋れて、る?」

 「あー。首についてた服従の魔術具ならはずしといたわ。だから、行動を強制される事はないはずよ」

 大体日本で言う高校生ぐらいの年に見えるのに、話してる限りもっと幼い印象を『悪魔』は私に与える。体だけ成長して、中身がそれについてきてないようなそんなイメージね。

 ベッドの上で戸惑いの声をあげ、明らかに困惑している『悪魔』は私の言葉に首元を確認して声をあげた。

 「え、あ、ほ、本当だ。ない…」

 「私がきっちり外したの。で、ちょっとあなたに聞きたい事があるから聞いてもいい? 『悪魔』はいつ、その魔術具付けられたの?」

 手にしていた服従の魔術具を机の上におくと、私はベッドに座りこむ『悪魔』に視線を向けて問いかけた。

 私の瞳と、『悪魔』の戸惑いに満ちたグレーの瞳が交わった。

 「え、あっと、わかんない…。なんか、大分前に、あれつけられて、頭がぼーって、してたから」

 ベッドに座りこんだまま、そういって戸惑ったように『悪魔』は声を上げる。

 「ふぅん? じゃああなたがつけられる前にしていた事は何?」

 「え、えーと…、あ、なんかお爺ちゃんに色々覚えさせられた? なんか魔術構築式っていうもの?」

 「ふぅん? じゃあ、あなた覚えてる限り最後の記憶で自分の年いくつかわかる?」

 「え、あっと、11歳?」

 そこまで聞いて何ともまぁ言い難い気分になった。おそらく子供の、色んな事がよくわかっていない『悪魔』に魔術構築式と詠唱を覚えさせたのだ。帝国は。そして服従の魔術具で『悪魔』を拘束し、『魔術を使え』という命令を出して唱えさせてたのだろう。

 よくもまぁ、11歳かそこらの子供にそんなものつけたものだと私は思わず呆れてしまう。

 『悪魔』は、アキヒサと対等に渡り合えると言われていただけあって、感じる魔力量は多い。

 魔力量が多いって事だから、この子ももう少し成長したら体の成長は完全に止まる事だろう。私やアキヒサみたいに。ある程度まで育ったら止まるのだ、寿命が長い私達は。

 この『悪魔』がどれだけわかっているのか知るべきだと思って、私は口を開く。

 「ねぇ、『悪魔』。魔術具のせいで空ろいで居たでしょうけど、帝国に無理やり人を殺させる行為をさせられてたのは理解してる?」

 「えっと……あ、う、なんか、魔術? をバーン、ってやったりして。悲鳴が、凄くて。怖い映像あって…。やめたくても、体勝手に動いて」

 そう口にして、『悪魔』は泣き出しそうなほどに表情を歪めた。そして、そのまま俯く。

 意識が曖昧でもちゃんと覚えているらしい。それにしても魔術についてよくわかってない様子なのは何故だろうか。子供でも割と魔術は知っているものだと思う。暗記さえすればいいと思って、誰も教えなかった? いや、それでもこれは…。

 そう思った私は一つの可能性に気付いて、『悪魔』に問いかける。

 「もしかして、『悪魔』。あなた地球ってわかる?」

 そう問いかければ、『悪魔』は顔をあげて驚いたようにこちらを見た。その顔には『何で知ってるの』とでも書いてあるようだった。

 ああ、とその表情から『悪魔』が迷い人か召喚かは知らないが地球の出だとわかってまた何とも言い難い気分になった。

 「…出身国、何処? ちなみに私は日本。日本ってわかる?」

 「ロ、ロシア。日本人? え、でも、髪が…」

 やっぱりビンゴ。この『悪魔』は地球のロシア出身らしい。

 「ああ。これはね。魔力に影響されて髪と目の色が変わったの。『悪魔』はロシア出身なのね?」

 「う、ん。基礎一般教育の、6年生で帰ってたら何か落ちた」

 そう言われても正直ぴんとこない。

 日本とロシアじゃ教育が違うのかと思いいたるが、基礎一般教育がどうたら言われても元女子高生の私にはわかるはずもない。でも服従の魔術具をつけられた時11歳なら、9,10歳ぐらいでこちらに来たっていう事だろうと結論づける。

 「あーうん、そうね。迷い人って足元がいきなりなくなるとかで来るみたいだからね。私もそうだった」

 いきなりどんっとこの国に落ちてきて、色々あったのだ。私も『悪魔』と同じように。アキヒサはまだ召喚だから、受け入れてくれる人間がその場にいて、『勇者』としての場所があっただろう。

 でも私や『悪魔』みたいな迷い人は保護されるまでは、受け入れてくる場所もない。落ちる場所がモンスターの溢れる場所だったら迷い人はすぐ死ぬだろう。

 大体保護してくれる場所があっても、その後の行動次第では疎まれる事もあるだろうし。実際私も手柄立てるまで王宮の中で文句言う連中も多かった。

 家族も友人もいない。知り合いもいない場所にいきなり放りだされた子供。それが、この子なのだろう。

 それで魔力量が多い事に帝国が目をつけて利用したって事だと思う。

 「……一番最初に落ちた場所って何処?」

 「え、あ、っとカルナ村って所? え、っと帝国の北の方に、あるって誰かが言ってた」

 「ふぅん?」

 私は頷きながらも、色々と結論づける。棚の中からさらっと覚えてる限りに書いた地球の地図とこの世界――とはいっても大陸の地図を机に並べて見比べる。

 王国は帝国よりも南に存在していて、帝国の広い領土の末端がカルナ村で……。日本から見て、北にロシアは位置していて、それで王国への迷い人や召喚は日本人ばかりな事を思うと……。

 「……丁度、地球がこの世界の上に乗っかってる感じ? これで考えると……、オーストラリアとかの位置は海だから、皆おぼれ死んでるのかしら、迷い人は。で、王国には迷い人の事は浸透してて…」

 ぶつぶつと色々と結論づける中で、

 「あ、あの、どうかしましたか」

 『悪魔』に戸惑ったように声掛けられた。

 「ああ、ごめんなさいね。ちょっと気付いた事があって。それであなたは此処が異世界だって事はわかってるよね?」

 「あ、はい」

 「それであなたは帝国の人間に操られて色々やってたわけ。でも今私があなたにとりつけられていた《服従の首輪》は外したわ。それで、どうしたい? 帝国に戻ったらまた利用されるわ。それは、あなたの魔力が膨大な限り、他の国にいっても利用されたりする可能性はあるわ」

 私は『悪魔』が座りこんでいるベッドに近づいて、ただ告げる。

 それにしても多分『悪魔』ってロシア語で喋っているつもりよね? 9、10歳のロシアの子供が日本語喋れるってないだろうし。となると、喋ってる言葉が全て一つの言語になるような法則もこの世界にあるのだろう。

 日本語だけが通じる状態なら、日本語だけが通じるようになるって可能性があるけれども、ロシア語も通じるって事は多分全部の言葉が一つの言語として変換されているのだと思う。

 この世界に入ったと同時に、喋っている言葉がこの世界の言語に変換されるようになるって事ね。多分だけど。そういえば文字も最初から読めるし書けたのよね。多分そっちもこの世界の法則でそう決まってるのだと思う。

 「…利用?」

 「そう。あなたには膨大な魔力がある。底が見えないぐらいの魔力。だから、利用される可能性もある。それで、あなたの寿命は既に変換されている。私のように長い時を生きていかなきゃいけない。殺戮兵器として利用されて生きていくか。それともうまく人間と付き合っていくかとか選択肢はあるわ。

 それでも、力があるってだけで利用される可能性があるの。実際帝国だって王国の土地が欲しい、勝ちたいって欲があったからあなたを従わせたの」

 真っすぐに私は『悪魔』を見た。それにしても私、アキヒサ、『悪魔』と魔力量が多い人間がこっちにきている。三人もだ。もしかしたら私より長く生きていて、何処かで隠居生活送っているような迷い人もいるかもしれない。

 となると、私と昔落ちてきたトリップ少女の違いは? 魔力量が多い人と、少ない人。同じ迷い人なのに、何故それが違うのだろうか。

 疑問はまだまだ多い。

 「……僕、もう、人殺したく…ない。」

 「そう、じゃあどうする? 隠れて暮らす? ただあなたの寿命は計り知れないの。何百年だって生きるわ。人と共存して生きていくって事はそれだけの魔力があるって事をさらして生きていくって事よ」

 「何百年…って、どういう事ですか」

 「此処は、魔力量と寿命が直結しているの。私だって元はただの人間だったけど、今では350年以上生きているの。寿命が見えないぐらい、長くなってる。それは地球に帰っても変わらない」

 その言葉に驚いたように、泣きそうな顔でこちらを見る『悪魔』に私はアキヒサに説明した時のようにただ淡々とこの世界について説明する。

 その途中で、両親とか友人に会えない事などを思って泣きだしたみたいだけど、とりあえず一気に説明した。

 「……っ」

 『悪魔』はただ、泣いている。

 不運だし不幸だとはおもう。この世界に子供の頃に投げ出されて、ずっと利用されてきた事が。

 おそらく『悪魔』が有名になってきた5年前からきっと従わせられていたのだろう。だから、『悪魔』の中身はまだ幼い子供のままなのだ。人を殺した事とかはちゃんと理解しているみたいだから、色々と思う事はあるだろうけれども。

 「それで、『悪魔』はどうしたい? 面倒だけど、生きる術を学びたいっていうなら魔術について教えてもいいわ」

 「え?」

 「私とあなたは同じだから。人と関わりあうなんて心底めんどくさいけど、戦う術や、服従の魔術具の解体の仕方とか、教えてあげてもいいわよ、って言ってるの」

 面倒だという気持ちは凄くある。このまま放りだしてもいいかもしれないって気持ちもある。それでも、『悪魔』は私と一緒だから。それだけで気にかける理由には十分だった。

 それに服従させるって行為好きじゃないもの。このまま放り出されたらまた利用されてしまいそうだから。

 最も、アキヒサみたいに何れ出ていくかもしれないけど、それならそれでいい。

 ただ、このまま従わせられるのも死なれるのも気分が悪いから。

 「………ほんと、に?」

 「ええ。ただし私に不愉快な思いをさせないでね? すぐに追い出すでも殺すでもするから」

 にっこりと笑えば、引きつった顔で頷かれた。

 でも当たり前じゃない? 同じだとしても『悪魔』は身内でもないし、日本人じゃないから懐かしいって感じもしないもの。

 そして、私にまた同居人が出来た。




 ――――――森の賢者は話を聞く。

 (彼女は同じだという理由で、『悪魔』に手を伸ばした)





ロシア人の名前ってどんなのでしょうか…。外国人の名前よくわからないのでどうしようか迷います。『悪魔』の名前。

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