ハルートとマルート
一方地上では、沢山の人間が逃げ惑う中、二組の戦闘がやや離れた場所で行われていた。
「なぜここにいる、マルート。」
刀は、目の前にいる剣を持つ堕天使――マルートに問いかける。
「簡単なこと。貴女達の邪魔をしに来ただけだ。」
そう言って、マルートは先ほどデュナメスに対して振り下ろした時より3割増しのスピードで自慢の剣――クリューサーオール――を振り下ろした。それを刀は、自慢の日本刀――スサノオ――で受けとめる。
その力を受け流し、その時に生じた力の反動を利用して、今度は刀が振り上げる。
それを、マルートはバク宙でよける。
「ふむ、なかなかの実力の様だな。これは楽しみだ。」
「……。」
ぎりりと、刀はてにもつ日本刀を強く握り直す。
相手までの距離は、ざっと50メートル。
一瞬の沈黙。永遠の時間。
それがいくらか過ぎた時、二人は同時に動いた。
そのほんの一瞬後に、カンっ! と、金属のぶつかり合う音が響いた。
「さすがだな! 私のスピードについてくるとは。」
「……。」
刀は何も答えない。とにかく、今は倒すことだけを考えればいい。
その瞬間にも、すでに二人は27回剣を交えていた。
「どうした? 私はまだまだスピードを上げられるぞ?」
「それは私もだ。」
さらに金属音の間隔が縮んだ。
「火剣――天羽々斬!」
「飛剣――天馬誕生!」
二人が同時に技を叫ぶ。
一つは、日本刀――スサノオ――から朱い炎が浮かび上がり、衝撃波を生み、
一つは、剣――クリューサーオール――から黄金に輝く翼の生えた馬の姿の衝撃波が放たれる。
二つの衝撃波は激しいぶつかり合いを見せたが、それはすぐに終わりを迎えた。刀の放った『火剣天羽々斬』が、マルートの放った『飛剣天馬誕生』に打ち消されたのだ。
だが、それを刀は逆手に利用し、接近して斬りかかる。これほどの衝撃は同士のぶつかり合いがあった場所で動けるあたり、さすがは智天使、天使の中でも第2位なだけはある。
だが――それは、マルートには読まれていた。
「さすが――とはいっておこう。」
「っ。」
すかさず、さらに日本刀を振るう。それは、常人には避けることはおろか視認することすら難しいほどの速さだった。
だが、やはりマルートはそれをすべて避ける。
「速さは◎、狙いも◎、さっきの技の威力も十二分、普通の堕天使なら、戦うこと自体無理だろうな。」
だがそういいながらも、マルートは刀の攻撃をすべてよける。先ほどの技だって、あっさりと打ち破られたというのに。
「だが――正直すぎる。」
その瞬間、彼女の右下から、振り上げられようとする剣が見えた。
くる! 咄嗟に、刀は避ける準備をした。
そして――ドン。
左上から、重い一撃を受けた。
「かはっ!?」
口から空気が漏れる。予想していない一撃に、刀の身体がついていけていないのだ。
そこには、左腕を握り拳にしているマルートの姿が。
「右下に気を引けば、その通りに右下に集中する。では左はどうだ? がら空きだ。」
その瞬間には、刀の目の前を剣が振り切られる。それを、刀は咄嗟にかわす。
その瞬間、
あろうことかマルートは剣を投げつけてきたのだ。「!?」
咄嗟に翼を現し、空中で態勢を立て直しながらその一撃をかわす。――だが、若干間に合わず、わき腹にかすり傷が出来てしまった。相当の切れ味のその剣によってできた傷は大したことはなかったはずだが、出血が激しい。もし普通の美琴刀なら、これで死んでいるだろう。
ぐうっ……。鈍い痛みが、刀のわき腹を刺激する。どこから来てもいいように、彼女は日本刀を強く握り、出血のせいで若干鈍っているであろう意識を周りに集中させる。
「(どこから来る……?)」
意識を集中させ、辺りを見回す。
その時、真上から落ちてくる翼の生えた影に意識が反応した。「!」反応はした――が、遅かった。
「正直者は、次に意外なところから来るものだと思うものだ。」
そういいながら、マルートは真正面から彼女の翼を切り裂いた。「あああああ!!」
背中に、激痛が走る。翼にだって、痛覚はある。こんな時、背中から直接羽が生えてくるタイプの天使は不便だと思う。
右の二枚の翼を失い、空中制御能力が著しく低下した彼女は、痛みと共に地上に落下した。
それを追うように、マルートが下りてくる。
ガンっ! 堅いアスファルトの地面にクレーターが出来上がるほどの勢いで身体から着地した刀に追い打ちをかけるように、マルートがいつ取り出したかもわからない二本目の剣を左手に持ち、残っていた刀の左の二枚の翼を突き刺す。「――!?」刀の口から、声とは表現できない何かが音として発された。
「我々天使――私は堕天使だが――は羽根から武器を生み出す、その羽を狙うのは、ある種当然だろう?」
「ぐ……う……あ……!」
白い翼が、赤い血で滲んでいく。その染みが広がることは、すなわち刀の苦しみが大きくなるということ。
すでに、彼女の白い翼の半分が赤く染まった。
「苦しいか?」
「と……うぜ、ん……だ……!」
ぜえはあと息も絶え絶え、刀は反論する。
「そうか。」
それに応えるように、マルートは容赦なく剣を振りかぶる。
「ならば楽にしてやろう。」
ぶうん。風を切る音がやけに鮮明に聞きとれた。
「断る!」
霞む目で、相手の攻撃の起動を読み、日本刀――スサノオ――で受けとめ――きれずに、吹っ飛ばされる。「ぅあぁっ!」
10,20,30――ついに100メートルは飛ばされたかというところで、家の壁を突き破り、停止した。ここは――緋色の家だ。知らないうちに、こんなに家に近づいていたのか。
さて、どうしたものか。日本刀は先ほどの攻撃で根元から折れてしまった。
羽根を使いたいが、すでに右の翼は斬り落とされ、左の翼は血にまみれボロボロにされている。これでは、きっと大したことはできないだろう。天使の武器は、その元となった羽の状態で強度や威力が代わってくるのだ。
そんなとき――あるものが目に入った。
ここに来た時に自分が持ってきた荷物のうちの一つ――愛用の木刀だ。実は、これは誰にも言っていないのだが、この木刀には、彼女の好きな人の名前が彫ってある。
その木刀に近寄り、それを拾い上げる。
「(私に、力を貸してくれ――)」
木刀に掘ってある名前に頼むより早く、マルートが追いついた。
「――そのような木刀で私に挑むつもりか?」
刀は、何も答えない。体中が痛いのもあるが、理由はそこじゃない。
とにかく、今は倒すことだけを考えればいい。
ぎりり、と、愛用の木刀を力一杯握る。
「……どうやら、本気の様だな。」
呆れや驚きといった感情の入り混じった表情だ。そうだろうな、ただの木刀で真剣を相手にするのだから。
「出血多量で、頭がイってしまったのか?」
「余計な御世話だ。」
「……そうか。」
かちゃりと、金属の重い音が響いた。
「――残念だ。」
相手が、その剣を振り下ろした。
そして、剣は腹部へときまった。
『木刀が、マルートの腹部に決まった』のだ。
「な……!?」
斜めに振り下ろしたその剣によって斬られるのを避けきれず、刀は残っていたズタボロで血まみれの左の翼が斬り落とされたが、代わりに、真横に振った木刀はしっかりとマルートの腹部に決まった。
「ぐ……っ!」
腹部を抑えながら、マルートがさらに一撃を振り下ろす。それを、今度は完全に避けきる。
「なぜ。」マルートはきっとこう思っているだろう。なぜなら、自分もそう思っているのだから。
どうして身体がここまで動くのか、自分でもわからない。
さらにマルートが一撃を振り下ろす。――甘い一撃だった。
「もらった!」
ブンッ、と、木刀が室内の空気ごとマルートを斬る。ただの木刀だから、実際は打撃攻撃でしかないが、確かにそれは空気ごとマルートを斬った。
「がっ!?」
空気がマルートの口からもれる。だが私は、攻撃をやめない。
「はああ!」
今出せる全力のスピードで、木刀を振るう。真剣より軽い木刀は、怪我をして鈍っている身体でも、十二分にスピードを出させてくれた。
驚くべきことに、この攻撃がすべて命中する。
実は、マルートが先読みできないほどデタラメに振っているからだが、そのことを刀が知る由はない。
「こ……の!」
マルートが、横に剣を振るう。
その下に刀が滑り込む。
最後に振り上げを使ったのは、間違いだったな。
刀は、全力を込めて木刀を握りしめる。
その姿勢は、剣術ではなく、野球のそれ。
いつの日かの素振りも、同じような体制だったか。
「これで、最後だ!」
持てる全力で、その野球バット同然の木刀を振り切る。
それは確かに、マルートの腹部へときまった。
「あ――がっ!?」
そして彼女は、勢いよく吹っ飛ぶ。
壁に叩きつけられたところで、彼女のフライトは終了した。そのまま、ずるずるとその場に力なく倒れる。
――やったぞ、緋色。
刀は、木刀に書かれた名前に、そう呟いた。
「――ソニアよ――」
廊下であった場所でうなだれているマルートが、天使の方の名で呼ぶ。
「なんだ?」
「とどめは、ささないのか?」
ああ、何だ、そんなことか。刀は一つ軽い深呼吸をして、
「無駄な殺生は、好まない。」
その顔には、自然と小さな笑みが浮かんでいたそうな。
刀達が戦う場所から少し離れた所の空中、三対六枚の白い翼を広げる標と、同じく三対六枚の黒い翼を広げる堕天使が対峙していた。
「まったくさ、何で貴女がここにいるわけ?」
標もまた刀と同じく、目の前にいる拳銃を持つ堕天使――ハルートに問いかける。
「簡単なことよ。あなた達の邪魔をしに来ただけ。ま、邪魔どころか滅するつもりで来たけれども。」
ほとんどマルートと同じ答えをハルートが言い、先ほどデュナメスに対してはなったものより3割増しの威力の弾を自慢の銃――アグニ――から放った。それを標は、自慢の拳銃――アルテミス――から魔法弾を放ちかき消す。
舞い上がる爆発時の煙を目隠しに、一気に六つの拳銃を展開して、それを一度に放つ。それを、ハルートはバク天でよける。
「なるほど、相当の実力者とみた。これは心躍る。」
標は何も答えない。とにかく、今は倒すことだけを考えればいい。
その瞬間にも、すでに二人は五二発の弾を放っていた。
そのやり取りをもし地上で行おうものなら、コンクリートとアスファルトの地面はあっという間に焼けて砕け散ることだろう。
「さすがはラファエル、生半可な攻撃ではビクともしないな。――でも、これならどうだ?」
「(! くる!)」
標は――ラファエルは――知っていた。ハルートの武器『アグニ』が、超火力の炎の拳銃だと。
標は、今展開している6つの拳銃――アルテミス――を、自分の近くに寄せる。一斉射撃さえすれば、どんな威力の一撃でもおそらくはかき消せる。
そうたかをくくった時、ハルートが技名を叫んだ。
「angel‘s be Agnitious!」
次の瞬間、標の周り6方向――上下東西南北――から、強力な火の玉が放たれた。
「!?」
予想していなかったオールレンジ攻撃だ。今思えば、彼女の能力は自分と同じ射撃だった。なら、自分と同じことが出来ても大しておかしくはない――が、この威力での一斉掃射は、予想をはるかに超えるものだった。標は、急いで残り22の拳銃を現し、それに対応する。
手持ち拳銃が2つ、先に展開していたのが6つ、そして今の22。合計30丁。正真正銘の彼女の操れる最大数の拳銃だ。
相手の放った銃の数は6、一つにつき5つの拳銃で押さえれば、なんとかなる。――ここまで、わずか0.3秒の思考。
「はっ!」
予定通り、一つの超威力魔法弾に対して5つ、拳銃から魔法弾を放つ。
5つの銃口から放たれた魔法弾は一つの魔法弾となり、ハルートの拳銃から放たれた超威力の魔法弾とぶつかり合う。
たった一つの拳銃から放たれたとは思えないほどの威力だったが、なんとかそれをかき消す。
だが、かき消した途端、熱い何かが身体に直撃した。「え?」
――見れば、ハルートの手には一丁の拳銃が。そこから、煙が上がっている。
――ああ、そっか。私が30丁の拳銃を一度に使えるんだから、ハルートが6丁しか使えないわけがないんだ。
胸元には、ちょうどサッカーボールくらいの火の弾が。……熱い。
そのまま、背中から勢いよくコンクリートとアスファルトの地面にたたきつけられる。
「あぐっ!」
熱とコンクリにサンドイッチされる気分は、最悪だった。
そんな標を、ハルートは静かに見下ろす。
「『angel‘s be Agnitious』をすべて打ち消すうえに、不意の一撃をくらってもまだ身体が無事なのはさすがだ――だが、どうやら、その数が限界の様だな。」
「あは……無事じゃないやい。」
まいったや、これはきつい。
だってさ、ハルートの周りには、手にあるのも含めて10丁以上の拳銃があるんだもん。それも、ぜ~んぶこっちに銃口を向けているなんてさ。
どうやって、勝とっかなぁ……。勝てるのかなぁ……。
相手の銃口に、光が集まっていく。これでいつあの一撃が放たれてもおかしくはない。
あー……ちょっとヤバい。焦点が合わない。あれ? ハルートいったいいくつの拳銃を出しているの?
……これは勝てない。そうね、勝てない。
「(……でも……。)」
「文化英雄の炎!」
ハルートの銃口が、今までのどの攻撃よりも光り輝いた。
「(私は……)」
負けもしない!
既に凶悪なほどの熱を帯びた文化英雄の炎が目前まで迫っていた。
標はそれを、避けようとしなかった。
「!? 諦めたのか!?」
「そうだね、勝つのは諦めたよ。」
文化英雄の炎が、標に直撃する。コンクリートとアスファルトでできた地面は、ひどい音を立てて焦げていった。まわりの家も、少しずつ焦げ臭いにおいを立てていく。もし私が熾天使でなければ、今頃とっくに黒焦げだろう。
「勝つのは……?」
「そ……勝つことは、諦めたよ……。」
熱線によって溶かされないように、必要最小限の力を使って身を守る。
「でもね……。」
ハルートに聞こえるか聞こえないかほどの小さな声で、標が呟く。
その間にも、彼女の愛用の拳銃がハルートに近づく。
「……負けないよ。」
「! しまった!」
だが、ハルートが気づいた時には、もう手遅れだった。
かちゃり
背中に、幾つかの銃口がつきつけられる。
「――bang――」
標が小さくつぶやく。
零距離射撃が、しっかりときまった。
「あ――がっ!?」
直撃を受けて、ハルートが落下していく。さすがに、あれだけの銃口からの魔法弾を零距離で受ければ――
おかげでなのかは知らないが、文化英雄の炎が消えていく。
……熱かったなぁ。……動けないや。
……ま、いいか。あっちも多分、動けないしね。
「あいたたた……。」
ほとんど動かない身体に無理を言って、なんとか起き上がる。本当に、よく動けるもんだと思うよ。
「さて……。」
彼女の横には、倒れたハルートが。
「(ちょっと、やりすぎたかな―……。)」
特に彼女に恨みはないのだから、殺す理由もない。だからこうして滅さなかったわけだが――少々、やりすぎた気がしないでもない。
「――う……ぐう……。」
あ、おきた。思っていたよりずっと早い。
「……生き……てる……?」
「そうだね~。」
「……なぜ、滅さなかった?」
「できなかっただけだよ。」
一息ついて、けらけら笑いながら標が答える。
「……。」
ハルートはぬらりと立ち上がり――立てるの!?
「この……!」
かちゃり、と、拳銃が額につきつけられる。え? なんで?
こっちは――できれば能力は使いたくないのに。
でも、彼女はそんなことはお構いなしだろう。
そのとき、
「そこまでだ、姉上。」
ハルートの背後に、衣服が乱れたマルートと、全体的に血まみれの刀の姿があった。おそらく、私たちより先に戦闘が終わったのだろうl。
「マルート……!?」
「もうやめておけ、姉上。私たちの負けだ。それを受け入れろ。」
「……っ。」
少しの間、自分の拳銃を見つめ、その後
「……ふんっ!」
思いっきり、睨まれた。負けたのが悔しいのか。
「――すまない、マルート殿。」
「なぜ貴女が謝る? ソニアよ。むしろ、謝るべきはわたしたち姉妹の方だ。――すまなかった。」
そう言ってマルートは片膝をつき、刀に頭を下げた。ハルートは――そんなそぶりは一切見せない。
まぁ、別に謝らせるために生かした訳じゃないから、いいんだけどね。
それより――
「刀……まだ、やれる?」
「そちらこそ。」
お互いがお互いの姿を見る。
刀の姿は――全身に剣で斬られた跡が見え隠れしていた。よく見ると、背中にはべったりと血が。
「本当に、刀、大丈夫?」
「私は大丈夫だ。」
「そっか。……なら、こっちも大丈夫だよ。」
二人は、同時に空を見上げる。この空高くで、今も緋色が戦っている――そう思うと、今すぐにでも飛んでいきたい。
「標――頼みがあります。」「なにかな?」「私は、戦闘中に翼を失いました。そのため、まともに飛ぶ事は出来ません。ですので」「連れて行ってほしい、と。」
こくん、と、刀がうなずく。
「お安い御用!」
一人も二人もきっと変わらないさ。
もう一度二人は、空を見上げた。
そこでは、いまだに堕天使対デュナメス部隊(×10)の戦闘が行われていた。
さて、見栄張ったんだから、無理はしないとね。
「あーもー! あと何人ー!?」
アンジェロが悲鳴に近い叫びをあげる。
その間にも、愛しのお姉さまは高速で弓を撃つ。
「アンジェロ! 叫ぶより今は弓を!」
「はい!」
愛しのお姉さまの名とあらば、いくらでも弓を撃ちましょう! おらおらおらー!
次々に、堕天使たちに命中していく。どうかしら? 私の弓の実力もなかなかでしょう?
私やお姉さまはもちろん、他のデュナメス部隊の天使たちも、各々の武器でどんどん堕天使を倒していく。さらに、倒したことによって正気を取り戻した天使のうちの何人かが加勢してくれているおかげで、大分と数は減った――が、それでもこちらのメンバーは20前後、それに対して相手はまだ500はいるだろう。はぁ、先はまだまだ先ね。
「あぶない!」
「え?」
お姉さまの声が届いた時には――すでに体に衝撃が走っていた。
魔法弾が身体に直撃したのだ。
この一撃を受けても衝撃が走る程度だって言うことは、放ったのは天使クラスかしら? ――それでも痛いわね。
余程きれいにヒットしたのか、空中で錐揉み回転しながら、アンジェロは落ちていった。
あれ……? 力がうまく入らない?
どんどん、高度が下がっていく。
ああ――下はアスファルトとコンクリートの塊――これはまずいかも……。デュナメスさんとかならともかく、私、階級は権天使で第7位しかないから、コンクリの地面とか、痛いなんてものじゃ済まない――
ぽふん。
何か、やわらかいものに着地したようだ。
「大丈夫か?」
そこには、さっき家の方にやってきた堕天使のうちの一人が――
「!? な、なんで堕天使が私を助けたの?!」
だが、堕天使は答えない。
「離せ!」
「飛べるなら。」
「飛べるわよ!」
叫びながら、羽ばたく。そういえば、今はちゃんと飛べるや。
私が飛んだのを確認すると、その堕天使は右手に剣を構え、私とは反対方向にいる別の堕天使目掛けて飛んでいき、そして――斬った。
だが、明らかにその一撃は手加減されている。相手の堕天使が天使に戻る程度に。
「――味方、なの?」
「どう解釈してもらってもかまわない。信じられないなら、私の背中を撃てばいい。」
そういいながら、さらに彼女は2人3人と堕天使を天使に戻していく。
――本当に味方?
ううん、違う、あくまで敵! そうよ、こんなことして許すと思ったら大間違いよ!
だがアンジェロは、その背中を撃てなかった。
「マルート、なぜ私までこんなことを?」
「黙ってやるです、姉上。」
ちっ、めんどくさいわね、加減するのって簡単じゃないのよ?
などとぶちぶち文句を言いながらも、マルート以上に堕天使を天使へと戻していくハルートだった。
「しっかりつかまっていてね!」
「承知。」
堕天使姉妹がアンジェラ部隊と合流したころ、ややその戦闘空域から離れたところを、標が刀をつかんで飛んでいた。
正直、辛い。
だが――緋色がまだ戦っているのだから、急がないと!
急かす思いは、簡単に彼女の速度に比例してくれた。