君がいたから
「なんで。なんでなんで……」
なんでと言われたら君がいたからとしか言えない。
「どうしてこんなことに……」
どうしてと言われたら君と目があったからとしか言えない。
「おねがい、かえって……」
かえってと言われたらもちろんそのつもりだとしか言えない。
だけど、帰る前に君と話がしたい。
だって、目があったのだから。
僕はノックをする。
何度も何度も。
チャイムを押す。
何度も何度も。
「ひっ…!」
悲鳴が聞こえた。
君の悲鳴だ。
扉の向こうはワンルーム。
知っているよ。
だって、ここは壁が薄いから。
君の声が聞こえるほどに。
ねぇ、話がしたいだけなんだ。
だから僕はノックを続ける。
何度も何度もチャイムを押す。
あぁ。
どうして、君は出てきてくれないんだろう。
いいよ。
根比べだ。
僕はノックとチャイムを続けている。
君が返事をするまで。
*
『
よくある怪談話の語り部あるいは主人公というものは不思議なことに余計なことしかしないものだ。
例えば行くなと言われた場所に行ってしまったり。
呼ぶなと言われたものを呼んでしまったり。
そのために彼らは怪異に目をつけられる。
時には命さえ落としてしまう。
怪異の目的とはなんだろう。
――などと考えるのは滑稽だ。
なにせ、彼らからすれば目があったのだからやってきた。
そうとしか言えないのだ。
考えてもみてほしい。
誰かと接したい者が居たとして、その機会を常々窺っていたとして、ようやくその機会が来たのならばその者はようやく掴んだチャンスを逃しはしない。
だから、怪異が人を付け狙う理由というのはあえて言葉にするのならば【そこに君がいたから】としか言いようがない。
つまり、そうなってしまったらどうしょうもない。
なにせ、あなたは余計なことをしたのだから。
』
*
「読み終わったでしょ?」
声が聞こえる。
扉の向こうで。
ノックと共に。
チャイムと共に。
「早く開けてよ」
私は何度目かもわからない後悔をしながら震えながら呟く。
「おねがい。かえって……」




