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税は未来のために ― 崩壊国家を再構築する経済戦記 ―  作者: 南蛇井


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第9話:知的逆転

「……完全に囲まれましたね」


 その宣言から、一夜。


 村の空気は重かった。


 収穫物は売れず、物資は入らない。

 じわじわと首を絞められる状況。


 だが。


「で、どうするの」


 エリシアは、逃げなかった。


 視線は真っ直ぐこちらに向いている。


 いいな。


 この状況で、それができるなら十分だ。


「やることは一つです」


 俺は淡々と言った。


「向こうの“ルール”を使う」


「ルール……?」


「はい」


 俺は机の上に、一枚の紙を置いた。


 昨日、商会の男が持ってきた契約書。


「これ、よくできてますよ」


「褒めてる場合じゃないでしょ」


「いえ、褒めてます」


 軽く言う。


「だからこそ、穴がある」


 エリシアの目が細くなる。


「……どこ」


 俺は契約書の一箇所を指で叩いた。


「ここ。“独占供給”の条項です」


「独占……?」


「この商会、特定の地域での流通を独占してる」


「だから今、全部止められてるんでしょ」


「そう」


 頷く。


「でも、独占ってことは」


 一拍置く。


「“供給義務”も発生してる」


 沈黙。


 理解が追いついていない顔だ。


「独占する代わりに、その地域への安定供給を保証する」


「……あ」


 エリシアが小さく声を漏らした。


「つまり」


「はい」


 俺は続ける。


「今回みたいに“完全に止める”のは、契約違反です」


 空気が一瞬で変わった。


「……そんなの、通るの?」


「通りますよ」


 即答する。


「むしろ向こうの方がまずい」


 なぜなら――


「独占を維持するには、供給を止めちゃいけない」


「止めた時点で、“独占の権利”が崩れる」


 エリシアの目が見開かれる。


「じゃあ……」


「はい」


 俺は頷く。


「別のルートを使えます」


 ざわ、と空気が動く。


 村人たちの顔に、希望が戻る。


「他の商人と取引できるのか!?」


「できます」


「でも、断られたって……」


「それは“独占が機能してる前提”です」


 静かに言う。


「崩れた瞬間、話は変わる」


 ――縛りが消える。


 つまり、自由になる。


「じゃあ……どうやって崩すの?」


 エリシアが聞く。


 俺は軽く息を吐いた。


「簡単ですよ」


「契約違反を突きつけるだけです」


 ◇


 その日の午後。


 村の入口に、再びあの馬車が現れた。


 まるで、待っていたかのように。


 扉が開き、あの男が降りてくる。


「……ずいぶん早い再会ですね」


 相変わらずの笑み。


 だが、その奥には警戒がある。


 当然だ。


 もう一度、交渉に来た理由は一つ。


 ――様子見だ。


「ええ」


 俺は一歩前に出る。


「少し、話がありまして」


「ほう?」


「この前の契約の件です」


 男の目がわずかに細くなる。


「お断りしたはずですが」


「ええ。でも、その前に」


 俺は紙を取り出した。


「確認しておきたいことがある」


「……何でしょう」


「あなた方、この地域の独占権を持ってますよね」


「ええ、当然です」


「なら」


 一歩、距離を詰める。


「供給義務もありますよね」


 沈黙。


 ほんの一瞬。


 だが、その間で十分だった。


 男の表情が、わずかに固まる。


「……何の話でしょう」


「とぼけなくていいですよ」


 俺は淡々と言う。


「ここ数日、物資も取引も完全に止まっている」


「それが?」


「契約違反です」


 空気が凍りついた。


 周囲の村人たちも息を呑む。


 男の笑みが、消えた。


「……証拠は」


「必要ですか?」


 俺は肩をすくめる。


「他の商人、全員同じ反応でしたよね」


「……」


「“今は取引できない”」


 一拍置く。


「誰が止めてるんですか?」


 完全な沈黙。


 もう、言い逃れはできない。


「このまま続ければ」


 俺は続ける。


「独占権、失いますよ」


 男の目が鋭くなる。


 初めて、“敵”として見てきた。


「……なるほど」


 低い声。


「最初から、それが狙いでしたか」


「いえ」


 首を振る。


「単純に、使えるものを使ってるだけです」


 事実だ。


 向こうが用意したルールを、そのまま返しているだけ。


 ――ただし。


 少しだけ、使い方を変えて。


「さて」


 俺は軽く笑った。


「どうします?」


 沈黙。


 そして、男は小さく息を吐いた。


 完全に、流れが変わった。


 最初の余裕はない。


 対等――いや、それ以上。


「……条件を聞きましょう」


 その一言で、勝ちが確定する。


 俺は頷いた。


 そして、ゆっくりと言い切る。


「では――こちらの条件でいきましょう」

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