第46話:市場崩壊
「全部、見えてます」
その言葉が広がるのに、時間はかからなかった。
◇
最初に崩れたのは――“信用”だった。
「取引、停止する」
「……は?」
「この条件じゃ無理だ」
「だが契約が――」
「違反だろ、これ」
商人たちの動きが止まる。
いや、正確には――
“止めた”。
◇
「供給、止まってます!」
報告が飛び込む。
「主要ルート、ほぼ全滅!」
「契約破棄が連鎖しています!」
「……予想より早い」
エリシアが呟く。
「ええ」
俺は頷いた。
だが、想定内だ。
信用が崩れれば、こうなる。
◇
市場に出る。
そこはもう、“市場”ではなかった。
商品はある。
人もいる。
だが――
取引がない。
「……売れない」
「買えない」
「誰も信用できない」
声が、低い。
怒りではない。
恐怖だ。
◇
「これ、どうなるんだ……」
「分からない」
「とにかく止めろ」
「全部止めろ」
流れが逆転する。
回すのではなく、止める方向へ。
それが――
崩壊の始まりだ。
◇
「ねえ」
エリシアが小さく言う。
「これ、完全にいってない?」
「ええ」
俺は淡々と答えた。
「市場としては、崩壊しています」
「……だよね」
苦笑すら出ない。
◇
さらに報告が来る。
「商会側、資金引き上げ開始!」
「保有資産、急速に売却中!」
「価格が……」
「暴落しています!」
当然だ。
信用を失った資産に、価値はない。
◇
「止まらない……」
エリシアが呟く。
「ええ」
「止まりません」
一度崩れた信用は、戻らない。
少なくとも――
短期では。
◇
「これって」
エリシアが俺を見る。
「向こう、どうなるの?」
「持ちません」
「どれくらい?」
「数日」
短く答える。
「資金が尽きる」
「取引も消える」
「そして」
一拍。
「終わります」
◇
遠くで、怒号が上がる。
だが、それも長くは続かない。
もう“怒る対象”すら曖昧だ。
すべてが崩れている。
誰のせいかも、分からないほどに。
◇
「……やったね」
エリシアが言う。
だが、その声は複雑だった。
「勝ったんだよね?」
「ええ」
俺は頷く。
「勝ちです」
間違いなく。
だが――
その代償も、また大きい。
◇
静まり返った市場を見渡す。
かつて、あれだけ動いていた場所。
人も、物も、金も。
すべてが流れていた。
それが今は――
止まっている。
完全に。
◇
俺は小さく息を吐いた。
これで終わりだ。
長かった戦いも。
複雑に絡んだ構造も。
すべてが、ここで途切れる。
だから。
ただ一言、静かに告げる。
「終わりですね」




