第4話:赤字の正体
「……あんた、本気で言ってるの?」
村の中央、粗末な集会所。
木の机を囲むように、数人の村人とあの女性――エリシアが立っていた。
さっきの言葉を受けて、ここに通された形だ。
「ええ。本気です」
俺はあっさり答える。
「ただ、その前に確認させてください。帳簿、ありますよね?」
「帳簿……」
エリシアが一瞬言葉に詰まる。
周囲の村人たちも顔を見合わせた。
「一応、あるにはあるけど……」
「じゃあ、それで十分です」
俺が言うと、奥から一冊の古びた帳面が運ばれてきた。
紙は擦り切れ、インクもにじんでいる。
管理が雑だな、と思いながらページをめくる。
――瞬間。
視界に数字が広がった。
【収入:低】
【支出:過多】
【税負担:異常】
【中抜き率:高】
【最終収支:赤字】
……やっぱりか。
いや、想像以上にひどい。
「どう……なの?」
エリシアが慎重に聞いてくる。
周囲も息を呑んでいた。
俺はページを閉じる。
「結論から言いますね」
一拍置いて、はっきりと告げた。
「この村が貧しい理由、三つあります」
ざわ、と空気が揺れる。
「一つ目。税が高すぎる」
「それは……仕方ないだろ」
すぐに反発が飛んできた。
「領主様が決めたことだ」
「ええ、知ってます」
俺は頷く。
「問題は“高さ”じゃない。“取り方”です」
「取り方……?」
「今の税、収穫量に対して固定ですよね」
「……そうだ」
「それが致命的です」
指で机を軽く叩く。
「収穫が減っても、同じ量を取られる。つまり、収穫が落ちた時点で赤字確定」
誰も何も言えない。
「しかも今年は不作。なのに税は据え置き」
視線を巡らせる。
「これで生活が苦しくならない方がおかしい」
村人の一人が、ぐっと言葉を飲み込んだ。
――“なんとなく分かっていたこと”が、はっきり言葉にされた瞬間だ。
「二つ目」
俺は続ける。
「流通が無駄だらけです」
「無駄……?」
「この村、収穫物を一度商人に売ってますよね」
「ああ、それが普通だ」
「その商人、さらに別の商会に流してます」
空気が止まる。
「つまり、中間に人間が二重に入ってる」
「……それが何だっていうんだ」
「簡単ですよ」
俺は肩をすくめる。
「利益、全部抜かれてます」
沈黙。
完全な沈黙だった。
「本来なら、もっと高く売れるはずの作物が、途中で価値を削られてる」
「そんな……」
「実際の価格、見ます?」
軽く言うと、誰も反論できなかった。
事実だからだ。
「三つ目」
指を三本立てる。
「無駄な支出が多すぎる」
「無駄って……」
「道具の購入、外注費、修繕費。全部、相場より高い」
帳簿を軽く叩く。
「ぼったくられてますね」
「……っ」
誰かが息を呑んだ。
「まとめると」
俺は淡々と言う。
「税で削られ、流通で削られ、支出で削られてる」
一拍置く。
「残るわけがない」
静寂が落ちた。
誰も動かない。
ただ、理解だけが広がっていく。
――自分たちが、どれだけ搾り取られていたのか。
「……じゃあ」
ぽつりと、エリシアが呟いた。
「私たち、ずっと……」
「はい」
俺は頷く。
「構造的に損する側に固定されてます」
その言葉で、完全に空気が変わった。
諦めが、怒りに変わる。
そして――
視線が、俺に集まる。
さっきまでの“よそ者”を見る目じゃない。
“答えを知っている人間”を見る目だ。
「……どうすればいい」
低い声で、誰かが言った。
続くように、他の村人も口を開く。
「何を変えればいい」
「本当に立て直せるのか」
――頼られている。
ほんの数分前まで、疑っていた相手に。
……分かりやすいな。
だが、それでいい。
「やることは単純です」
俺は椅子に軽く腰を下ろした。
「無駄を切る。流れを変える。それだけです」
視線を帳簿に落とす。
数字は、もう答えを出している。
問題も、解決策も。
だから――
最後に、はっきりと告げた。
「……資金、完全に足りてませんね」




