第3話:村との出会い
街を離れて、半日ほど歩いた頃だった。
道は細くなり、人の気配も減っていく。
その先にあったのは――小さな村だった。
木造の家が十数軒。
畑はあるが、手入れは行き届いていない。
そして何より。
(活気がない)
人の動きが鈍い。
顔に余裕がない。
疲弊している村特有の空気だった。
……なるほど。
視線を巡らせる。
すると、いつものように“数字”が浮かび上がる。
【作物収穫量:平均の60%】
【税負担:収穫の50%】
【流通コスト:過剰】
【村全体収支:赤字】
……ひどいな。
ここまで分かりやすく壊れているのも珍しい。
「――あんた、見ない顔だね」
声をかけられた。
振り向くと、一人の女性が立っていた。
年は俺と同じくらいか、少し下。
簡素な服だが、動きやすそうにまとめられている。
鋭い目つきだが、どこか理性的な印象。
「旅人です。少し立ち寄っただけで」
「そう」
彼女は一歩近づき、じっとこちらを見る。
値踏みするような視線。
……警戒されているな。
「ここは何もない村だよ。用がないなら、長居しない方がいい」
「何もない、ですか」
思わず、軽く笑ってしまう。
「……何がおかしいの」
「いえ。ずいぶん“損してるな”と思って」
「は?」
彼女の眉がピクリと動いた。
周囲にいた村人たちも、こちらに視線を向ける。
「損って……何の話?」
「全部ですよ」
俺は周囲を軽く示した。
「畑、流通、税。全部噛み合ってない」
一瞬、静まり返る。
次の瞬間、どっとざわめきが広がった。
「何言ってんだこいつ……」
「そんなもん、どうしようもねぇだろ」
「ここは昔からこうなんだよ」
――“仕方ない”。
その言葉が、空気に滲んでいる。
だが。
「だから赤字なんですよ」
俺はあっさりと言った。
ぴたり、と空気が止まる。
「……赤字?」
女性が低く聞き返す。
「収穫の半分を税で持っていかれてる。その上、流通でさらに抜かれてる」
指で数を示しながら続ける。
「結果、手元に残るのは3割以下。これで回るわけがない」
「それは……」
「しかも、その税」
俺は畑の方へ視線を向けた。
「収穫量に対して固定ですよね?」
「……そうだけど」
「なら、収穫が落ちた時点で詰みです」
完全に沈黙が落ちた。
村人たちが言葉を失う。
当たり前だ。
“なんとなく苦しい”が、“構造的に詰んでいる”に変わった瞬間だから。
「……じゃあ、どうしろっていうの」
女性が一歩前に出た。
視線は真剣そのものだ。
逃げも、誤魔化しもない。
いい目だ。
「簡単ですよ」
俺は肩をすくめる。
「無駄を切って、流れを整えるだけです」
「そんな簡単に――」
「簡単です」
言い切る。
「問題が分かってるんで」
彼女の目がわずかに見開かれた。
周囲の空気も変わる。
疑いから、“もしかして”へ。
……いい流れだ。
「まず税の取り方を見直す。次に流通を直接化。あと、作物の優先順位も変えるべきですね」
「……」
「今のままだと、何をやっても無駄です」
俺は一度、村全体を見渡した。
数字は嘘をつかない。
この構造なら、結果は一つだ。
だが。
(逆に言えば)
壊れている場所が分かっているなら。
直すのは、難しくない。
視線を彼女に戻す。
「この村」
一拍置いて、はっきりと告げた。
「立て直せますよ」




