第25話:監査
街は、完成していた。
少なくとも――
“仕組み”としては。
◇
朝。
広場には、人が溢れている。
荷が運ばれ、
商人が値を交渉し、
子どもたちが走り回る。
かつての、疲弊した村の面影はない。
完全に、別物だ。
【人口:安定増加】
【流通:自立】
【税収:黒字維持】
【治安:管理下】
数字も、すべてが揃っている。
どこを切り取っても、“成立している”。
「……すごいね」
隣でエリシアが呟く。
その声には、実感がこもっていた。
「ここまで来るとは思わなかった」
「ええ」
俺は静かに頷く。
「もう、“村”ではないですね」
「うん」
エリシアも笑う。
「完全に街だ」
その言葉に、違和感はない。
事実だからだ。
◇
執務室。
机の上には、整理された帳簿が並んでいる。
以前のような混乱はない。
誰が見ても分かる形。
誰が見ても説明できる構造。
「財政、問題なし」
エリシアが確認する。
「黒字維持。余剰も出てる」
「ええ」
「使い道も明確」
「公開もできる」
すべて整っている。
「……これなら」
エリシアがこちらを見る。
「どこに出しても恥ずかしくないね」
「その通りです」
俺は即答した。
「評価される段階です」
「評価、か」
少しだけ、空気が変わる。
内部で完結していたものが、外に出る。
それは――
別の戦いの始まりだ。
「……来ると思う?」
エリシアが聞く。
「ええ」
迷いなく答える。
「もう噂は広がってます」
「流通も動いてる」
「税も安定してる」
一つずつ、指を折る。
「見に来ない理由がない」
「だよね」
エリシアが苦笑する。
「褒められるか、それとも――」
「潰されるか」
俺が続ける。
沈黙。
どちらもあり得る。
だが。
「どっちでもいいです」
俺はあっさり言った。
「え?」
「評価される準備はできてます」
「なら、あとは相手の問題です」
事実だ。
こちらは整えた。
あとは、どう見られるか。
それだけだ。
「……強いね」
エリシアが呟く。
「普通ですよ」
俺は軽く肩をすくめた。
そのとき。
扉が、ノックされた。
「入ってください」
部屋に入ってきたのは、伝令だった。
やや緊張した顔。
「どうしました?」
「報告です」
一歩前に出る。
「街道の方から、使者が来ています」
「使者?」
「はい」
一瞬、言葉を選ぶように間を置く。
そして――
「王都の紋章を掲げています」
空気が、変わる。
完全に。
エリシアが息を呑む。
「……来たね」
「ええ」
俺は静かに頷いた。
予想通り。
だが――
ここからが、本番だ。
内部の成功は終わった。
これからは、外との戦い。
政治。
権力。
そして――
“評価”。
俺は伝令に視線を向け、短く言う。
「通してください」
「はっ」
伝令が下がる。
扉が閉まる。
静寂。
その中で、俺は小さく息を吐いた。
そして、はっきりと告げる。
「王都から監査が来る」




