第23話:悪役令嬢の選択
街は、形になり始めていた。
人が増え、
仕組みが整い、
流れが安定する。
もう“偶然”ではない。
明確に“回っている”。
だが――
「……ここにいるべきか」
リディアは、ひとり静かに呟いた。
執務室の窓から見える街。
活気に満ちたその光景は、数ヶ月前とは別物だ。
あのときは。
崩壊寸前だった。
そして今は――
立ち直りつつある。
「あなたのおかげですね」
背後から声がした。
振り返る。
そこに立っていたのは、あの男――主人公だ。
「……違います」
リディアは首を振る。
「あなたが、です」
「違いますよ」
あっさりと否定される。
「仕組みが回ってるだけです」
「個人じゃない」
その言葉に、リディアは小さく息を吐いた。
相変わらずだ。
自分の価値を、個人ではなく構造で語る。
だが――
(だからこそ、強い)
そう思う。
「……私は」
ゆっくりと口を開く。
「ここにいて、いいのでしょうか」
静かな問いだった。
「どういう意味です」
「私は元々、“管理する側”でした」
「でも今は」
一瞬、言葉が詰まる。
「……守られる側にいる」
それが、引っかかっている。
この街に来てから。
彼女は“助けられる側”だった。
判断は委ねられ、
責任は軽くなり、
安全な場所にいる。
だが。
(それでいいのか)
答えは、決まっている。
「……違いますね」
自分で、否定する。
主人公は何も言わない。
ただ、見ている。
それで十分だ。
「私は、元の場所に戻ります」
はっきりと言う。
「貴族として」
「政治の側で」
目が、強くなる。
「この街を守るためには、外も変えなければいけない」
「ここだけ良くしても、いずれ潰される」
事実だ。
いくら内部を整えても、外部が敵なら限界がある。
「だから」
一歩前に出る。
「私は、外に行く」
「政治の中に戻る」
もう迷いはない。
「……大変ですよ」
主人公が静かに言う。
「分かっています」
「敵だらけになります」
「それも分かっています」
即答だった。
むしろ――
「その方が、やりやすい」
小さく笑う。
「曖昧な立場より、よほど」
覚悟は決まっている。
「……いい選択だと思います」
主人公が言った。
短く、だが確かな肯定。
「ただし」
「はい」
「戻ったら、もう守られませんよ」
試すような言葉。
だが――
「望むところです」
リディアは即答した。
その言葉に、迷いは一切ない。
もう、“守られる側”ではない。
“戦う側”だ。
だから。
彼女は背筋を伸ばし、まっすぐ前を見る。
そして、はっきりと言い切った。
「私は、逃げません」




