第17話:ヒロイン覚醒①
「中間は、もう要りません」
その宣言から、数日。
村――いや、もう“街”と呼ぶべき場所は、目に見えて忙しくなっていた。
荷馬車が行き交い、
新しい取引の話が持ち込まれ、
人の数も、明らかに増えている。
流れが、でき始めていた。
だが。
「ちょっと待って!」
広場に、鋭い声が響く。
「その荷、先にこっち!」
声の主は、エリシアだった。
腕を組み、現場の中心に立っている。
「いや、こっちは急ぎなんだ!」
「順番だって言ってるでしょ!」
商人と村人が言い合う。
以前なら、誰もまとめられなかった場面だ。
だが。
「……状況を整理する」
エリシアは一歩前に出た。
空気が、わずかに変わる。
「そっちはどこ行き?」
「東の市場だ!」
「量は?」
「この分全部だ!」
「で、こっちは?」
「西の街だ。腐る前に運ばないとまずい」
エリシアは一瞬だけ考えた。
ほんの数秒。
だが、その間に全体を見ている。
そして――
「東を先に出す」
「はぁ!?」
声が上がる。
「なんでだよ! こっちは腐るって――」
「東は距離が長い」
即座に言い切る。
「今出さないと、到着が遅れる」
「西は近い。後回しでも間に合う」
「でも――」
「損失で考えて」
遮る。
「どっちが大きい?」
沈黙。
言い返せない。
「……東か」
「そう」
エリシアは頷く。
「だから東を先に出す」
決定。
迷いがない。
「……分かったよ」
男たちは顔を見合わせ、渋々頷いた。
そして、動き出す。
指示が、通った。
それを少し離れた場所から見ていた俺は、小さく息を吐いた。
(……いいな)
ちゃんと“判断”している。
感情じゃない。
状況と損失で決めている。
「見てたの?」
いつの間にか、エリシアが隣に来ていた。
「ええ」
「……どう?」
少しだけ不安そうな顔。
ほんの少し前の彼女だ。
だが――
「問題ないですね」
俺は即答した。
「ちゃんと回ってます」
「ほんとに?」
「はい」
視線を広場に向ける。
「今の判断、正解です」
「……そっか」
小さく息を吐く。
その顔から、緊張が少し抜けた。
「でもさ」
エリシアが言う。
「全部、あんたがやった方が早くない?」
その言葉に、俺は首を振った。
「それだと意味がない」
「え?」
「俺がいなくなったら終わります」
一瞬、エリシアの表情が止まる。
「……いなくなるの?」
「いずれは」
当然の話だ。
ずっと一人で回すつもりはない。
「だから」
彼女を見る。
「任せます」
「……え?」
「現場の判断は、あなたがやる」
はっきりと言う。
「俺は全体を見る」
「でも――」
「できますよ」
遮る。
「今、やってたじゃないですか」
「……」
エリシアが黙る。
さっきの自分の判断を思い出している。
迷いながらも、決めた。
そして、結果は正しかった。
「……失敗したら?」
「修正すればいい」
それだけだ。
「全部当てる必要はありません」
「外しても、次で当てればいい」
「……簡単に言うね」
「簡単ですよ」
事実だから。
「重要なのは、“決めること”です」
責任から逃げないこと。
それが、管理側だ。
沈黙。
エリシアはしばらく考えていた。
そして――
ゆっくりと顔を上げる。
目が変わっていた。
もう、“補佐”の目じゃない。
「……分かった」
小さく、でもはっきりと言う。
そして一歩前に出て、広場を見渡す。
動いている人間たち。
回り始めた流れ。
その中心に、自分がいる。
理解したのだ。
自分の立場を。
やるべきことを。
だから――
迷いなく、言い切る。
「……任せてください」




