第16話:流通革命
「これが、“生きる税”です」
その宣言から、一週間。
変化は、はっきりと現れていた。
農民たちの動きが違う。
無理に絞り取られないと分かったことで、作業に余裕が出ている。
そして――
【収穫量:増加傾向】
【税収:安定】
【再投資:発生】
数字が、正直に結果を示していた。
だが。
「……まだ足りないですね」
俺は帳簿を閉じながら言った。
「え、これでまだ?」
エリシアが呆れたように言う。
「だって、かなり良くなってるよ?」
「ええ、内部は」
視線を上げる。
「でも、外がダメです」
「外……?」
「流通です」
その一言で、空気が引き締まる。
リディアが静かに頷いた。
「確かに……依然として商会に依存しています」
「はい」
俺は机に地図を広げた。
周辺の街道、都市、商業圏。
「今の構造」
指で線をなぞる。
「村→商会→別商会→市場」
「最低でも二回、中間が入ってます」
「その分、抜かれてるってこと?」
「その通りです」
即答する。
「利益の大半は、ここで消えてる」
指で中間部分を叩く。
「じゃあどうするの?」
エリシアが身を乗り出す。
「切ります」
あっさりと言った。
「……切る?」
「はい」
視線を上げる。
「直接やりましょう」
沈黙。
一瞬、全員が固まる。
「直接って……」
「市場と、直接取引する」
その場の空気が揺れた。
「そんなの、できるのか?」
「できます」
迷いなく言い切る。
「やってなかっただけです」
「でも、商会が……」
「邪魔してくる?」
軽く笑う。
「させません」
「どうやって?」
「もう一度、思い出してください」
一歩、踏み込む。
「向こうは“独占”を維持しないといけない」
「供給を止めたら、崩れる」
リディアが小さく息を呑む。
「つまり……」
「はい」
俺は頷く。
「強くは出られない」
前回の交渉で、それは証明済みだ。
なら――
こちらが踏み込めばいい。
「具体的には」
俺は地図にいくつか印をつける。
「この街と、この市場」
「ここは需要が高いのに、供給が足りてない」
「そこに、直接持ち込む」
「でも運ぶ手段は?」
「確保します」
即答する。
「小規模でいい。まずは回す」
シンプルだ。
だが、効果は絶大だ。
「一度でも成功すれば」
視線を上げる。
「“売れる”という実績ができる」
「そうなれば、向こうから来る」
「……あ」
エリシアが小さく声を上げた。
「商人が?」
「はい」
「利益が出る場所に、人は集まる」
それが市場だ。
「つまり」
一拍置く。
「こちらが“市場になる”」
沈黙。
そして――
空気が変わる。
理解が、広がっていく。
「……そんなことが」
リディアが呟く。
「可能なのですね」
「可能ですよ」
俺はあっさりと言った。
「構造的に、そうなってるだけです」
やるべきことは単純。
今までの“常識”を、捨てるだけ。
「準備に入ります」
俺は帳簿を閉じた。
「輸送手段の確保」
「取引先の選定」
「価格の再設定」
一つずつ、確実に進める。
「これが成功すれば」
視線を全員に向ける。
「利益構造は一変します」
もう、“搾取される側”じゃない。
“利益を作る側”になる。
だから――
最後に、はっきりと言い切った。
「中間は、もう要りません」




