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税は未来のために ― 崩壊国家を再構築する経済戦記 ―  作者: 南蛇井


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第15話:税の再設計

「まず、ここから切ります」


 支出の整理が始まってから、数日。


 貴族家の空気は大きく変わっていた。


 無駄な契約は打ち切られ、

 名ばかりの役職は消え、

 帳簿の数字は、ようやく“現実”を反映し始めている。


 だが――


「まだ、足りませんね」


 俺は帳簿を見ながら言った。


「……まだ、ですか」


 リディアが疲れたように息を吐く。


「ええ」


 視線を上げる。


「流出は止まりました。でも、それだけです」


「黒字には……」


「遠いですね」


 はっきりと言い切る。


 現実は甘くない。


「じゃあ、次は?」


 エリシアが聞く。


 その目は、すでに“実務者”のそれだ。


「税です」


 その一言で、空気が変わった。


「税……」


 リディアがわずかに眉をひそめる。


 当然だ。


 それは貴族にとって、“権力の根幹”だから。


「今の税制度」


 俺は帳簿を指で叩く。


「固定ですよね」


「ええ。収穫量に関係なく、一定量を徴収しています」


「それが問題です」


「……なぜです?」


 リディアが真っ直ぐに聞く。


 もう逃げない。


 いい姿勢だ。


「シンプルな話です」


 俺は言った。


「収穫が落ちたときでも、同じ額を取る」


「つまり?」


「死にます」


 短く、断言する。


 沈黙。


「余剰がない状態で固定徴収すれば、どうなるか」


「生活費を削るしかない」


「結果、次の生産も落ちる」


 一歩ずつ、説明する。


「そして、さらに苦しくなる」


「……悪循環、ですね」


「その通りです」


 リディアが小さく頷く。


 理解は早い。


「じゃあ、どうするの」


 エリシアが腕を組みながら聞く。


「簡単です」


 俺は即答した。


「変動にする」


「変動……?」


「収穫に応じて税を変える」


 空気がわずかに揺れる。


「多く取れたときは多く、少ないときは少なく」


「それで、回るのか?」


 村人の一人が不安そうに言う。


「短期的には、税収は下がります」


「やっぱり……」


「でも」


 俺は遮る。


「長期的には、上がる」


 全員が黙る。


「なぜか分かります?」


 誰も答えない。


 だから、続ける。


「生き残るからです」


 一言。


 それだけで十分だった。


「死ななければ、次がある」


「余裕があれば、投資できる」


「結果、生産が上がる」


 静かに、積み上げる。


「つまり」


 一拍置く。


「全体のパイが大きくなる」


 沈黙。


 だが今度は、“納得”の沈黙だ。


「……今までの税は」


 リディアがぽつりと言う。


「短期的に取りすぎて、長期を潰していた」


「はい」


「だから、結果的に全体が痩せていた」


「その通りです」


 完全に理解した顔だった。


 ――いいな。


 ここまで来れば、もう止まらない。


「具体的には」


 俺は帳簿に書き込みながら言う。


「最低ラインを設定します」


「それ以下は徴収しない」


「それ以上は段階的に増やす」


「……段階的に?」


「はい」


「稼いだ分の一部を、少しずつ上乗せ」


 シンプルだ。


「取りすぎない。でも、取り逃がさない」


 バランスの問題。


「そしてもう一つ」


 顔を上げる。


「使い道を明確にする」


「使い道……?」


「どこに使われるか分からない税は、反発を生む」


「でも、見えれば納得する」


 エリシアが小さく頷く。


「確かに……村でもそうだった」


「だから公開する」


 言い切る。


「何に使ったか、全部見せる」


 空気が変わる。


 “支配”から、“共有”へ。


 税の意味そのものが変わる。


「……そんな税、初めて聞きました」


 リディアが静かに言う。


「ええ」


 俺は軽く笑った。


「今までは、“取ること”が目的でしたから」


「でも違う」


 一歩前に出る。


「回すための税です」


 全員の視線が集まる。


 疑いは、もうない。


 あるのは――期待だ。


 だから、最後に。


 はっきりと、定義する。


「これが、“生きる税”です」

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