表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
税は未来のために ― 崩壊国家を再構築する経済戦記 ―  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/30

第11話:選択

 「……助けてください」


 その言葉が、集会所の空気を止めた。


 誰も動かない。

 誰も、すぐには理解できなかった。


 あのリディアが、頭を下げている。


 かつて俺を切り捨てた女が。

 “無能”と断じた相手に。


 助けを求めている。


「……ふざけるな」


 低い声が響いた。


 振り向けば、村人の一人が立ち上がっていた。


「今さら何しに来やがった」


「そうだ! 追い出したのはお前らだろ!」


「困ったら助けてくれ? 都合が良すぎるんだよ!」


 次々と声が上がる。


 怒りと、不信と、当然の拒絶。


 空気が一気に荒れる。


 リディアは何も言い返さない。


 ただ、俯いたまま立っていた。


 反論できない。


 すべて事実だからだ。


「帰れ!」


「ここはお前らの場所じゃねぇ!」


 罵声が飛ぶ。


 だが、その中で。


 俺は一度だけ、軽く息を吐いた。


「……静かに」


 その一言で、場が止まる。


 全員の視線がこちらに集まる。


 エリシアも、リディアも。


 そして、村人たちも。


「気持ちは分かります」


 俺は淡々と言った。


「裏切られたと思ってる。信用できない。関わりたくない」


 視線を巡らせる。


「全部、正しい」


 誰も否定しない。


 できるわけがない。


「でも」


 一拍置く。


「それで、この村が得しますか?」


 沈黙。


 空気が、わずかに揺れる。


「……どういう意味だ」


 誰かが低く問う。


「簡単な話です」


 俺は机に手を置いた。


「感情で切り捨てるのは簡単。でも、それで利益は出ない」


「利益って……」


「今、この村は成長途中です」


 はっきりと言う。


「資源も、人手も、まだ足りない」


 視線をリディアに向ける。


「一方で、向こうは“情報”と“権限”を持っている」


 ざわ、と空気が動く。


「貴族側の内部事情。税の仕組み。流通の裏」


「それを持っている人間を、完全に切るのは」


 一拍置く。


「合理的じゃない」


 沈黙。


 今度は、“理解”の沈黙だった。


「……じゃあ、助けるのか」


 エリシアが聞く。


 その目は、試すような色を帯びている。


 俺は少しだけ考えた。


 そして、結論を出す。


「助けますよ」


 リディアの肩が、わずかに揺れた。


 だが、次の言葉で――


「――条件付きで」


 空気が再び引き締まる。


 全員の視線が、俺に集まる。


「条件……?」


「はい」


 俺はリディアをまっすぐ見る。


 もう、対等ではない。


 完全に立場は逆転している。


「まず一つ」


 指を立てる。


「財政の完全開示」


「……っ」


「隠し事は一切なし。全部見せてもらう」


 逃げ道はない。


「二つ目」


 指を増やす。


「運用権限の一部をこちらに渡す」


「それは……」


 リディアが初めて言葉を詰まらせた。


 当然だ。


 それはつまり――


 “支配される側”になるということ。


「嫌ならいいですよ」


 俺はあっさり言う。


「そのまま潰れるだけです」


 沈黙。


 重い沈黙。


 リディアの拳が、強く握られる。


 プライドと、現実。


 その狭間で揺れている。


 やがて。


 彼女はゆっくりと顔を上げた。


 目は、決まっている。


「……受け入れます」


 はっきりとした声だった。


 もう迷いはない。


「すべて、開示します」


「権限も……必要な分、渡します」


 完全な決断。


 ――いいな。


 ここまで来れば使える。


 俺は小さく頷いた。


 そして、最後に確認するように言う。


「後戻りはできませんよ」


「分かっています」


 即答だった。


 その覚悟だけは、本物だ。


 なら――


 問題ない。


 俺は視線を外し、静かに言い切った。


「助けますよ――条件付きで」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ