第10話:再会
「では――こちらの条件でいきましょう」
あの交渉から、数日。
村の状況は一変していた。
物資は再び流れ始め、取引も再開。
しかも、以前より条件はいい。
完全に主導権はこちらにある。
――勝ちだな。
広場で荷を運ぶ村人たちの表情は明るい。
「本当に戻ったな……」
「しかも前より儲かってるぞ」
「信じられねぇ……」
ざわめきの中、エリシアがこちらに歩いてくる。
「……やったね」
「ええ」
短く答える。
「予定通りです」
「予定通りって……」
苦笑しながらも、その目には確かな信頼があった。
最初に会ったときとは別人だな。
「でも」
エリシアが続ける。
「これで、あの商会とも対等ってこと?」
「対等、というより」
少し考えてから言う。
「“利用できる関係”ですね」
「……怖いこと言うね」
「事実です」
感情ではなく、構造の話だ。
相手も同じことを考えている。
だからこそ、成立する。
そのときだった。
「――失礼する」
聞き覚えのある声が、広場に響いた。
ぴたり、と空気が止まる。
振り向く。
そこに立っていたのは――
「……リディア」
元婚約者。
リディア・ヴァルクレアだった。
以前と変わらぬ整った姿。
だが、その表情は明らかに違っていた。
余裕がない。
いや。
追い詰められている。
「……久しぶりですね」
彼女は一歩前に出る。
周囲の視線が一斉に集まる。
当然だ。
あの家の人間が、こんな辺境に来る理由は一つしかない。
「どうしてここに」
エリシアが警戒を込めて問う。
リディアは一瞬だけ視線をそらし、そして俺を見る。
「……話が、あります」
その声は、わずかに硬い。
以前の、あの冷たい余裕はない。
俺は軽く息を吐いた。
「聞くだけなら」
「ありがとうございます」
彼女は小さく頭を下げた。
――あのリディアが。
それだけで、周囲がざわつく。
場所を変え、集会所へ。
向かい合って座る。
しばらく沈黙が続いた。
先に口を開いたのは、彼女だった。
「……あなたの言っていた通りでした」
「何がです」
「家の財政です」
静かな声。
だが、その中にあるのは明確な敗北だ。
「急激に悪化しています。すでに、いくつかの事業が停止しました」
「そうですか」
予想通りだ。
あの構造なら、むしろ遅いくらいだ。
「原因も、調べました」
リディアは続ける。
「あなたが言っていた通り……無駄と、搾取です」
拳がわずかに握られている。
悔しさと、後悔。
その両方が見えた。
「……もっと早く気づくべきでした」
「無理ですよ」
俺はあっさり言う。
「見えてなかったんですから」
「……ええ」
否定しない。
それが答えだ。
再び、沈黙。
だが今度は、違う。
何かを決めるための沈黙だ。
やがて、彼女はゆっくりと顔を上げた。
視線が、まっすぐこちらを捉える。
逃げも、誤魔化しもない。
そして――
初めて、その表情が崩れた。
「……お願いがあります」
声が、わずかに震えている。
あのときの彼女とは、まるで別人だ。
「家を……」
一度、言葉が途切れる。
プライドが、邪魔をしている。
それでも。
彼女は、絞り出すように続けた。
「……助けてください」




