episode6
それからももやもやしたまま過ごしていたわけだけど、ついに蒼太に聞こうと決心した。
それはあの時。
たまたま放課後に街で菜緒と蒼太が連れ立って歩いているのを見た。
それが仲良さそげでまたモヤモヤが募る。
2人で店に入って行くあたりは恋人のようだった。
それからも一向にすっきりしなくて、思い切って蒼太に聞いた。
「ね、最近蒼太ちょっと冷たい?」
怒ってるように聞こえないように気遣いながら投げかける。
「…ちょっと引いてみてるだけ、かな」
私には意味がわからなかった。
「私のこと嫌いになったとかじゃない?」
「そんなんじゃないよ!逆に…」
驚き勢いよく言ったと思えば急に声が萎む。
「逆に?」
「なんでもない」
もう一つ気になったことを問いかける。
「ねえ、蒼太って菜緒のこと好きなの?」
「え?なんでそうなるの?」
蒼太がとぼけた口調で答える。
「最近急に仲良くなったし、この前2人で歩いてたし」
「そんなことないよ」
蒼太が私の目を見て言う。
「それに、菜緒ちゃんは僕のただの協力者だから」
「協力者?なんの?」
私は蒼太に尋ねる。
すると、いつもの蒼太らしくない意地悪な顔で微笑む。
「内緒」
その様子がいとおしい。
一瞬そう思った思考を慌てて停止する。
(私は類のことが好き、なんだよね…?)
自信がなくなってくる。
ずっと一緒にいた蒼太が気になり始めるなんて今更どうすればいいか、わからない。
にわかに慌て始めた私とは反対に、蒼太はなぜか堂々としている。
これ以上、蒼太の顔を見ていられなくて、逃げるように蒼太と別れた。
廊下で走っている未紘とすれ違った。
すれ違う瞬間の未紘の顔を見て、俺は驚いた。
未紘の顔は紅潮していた。
何かに照れているような。
俺は未紘に好きな人がいることを察した。
そして、それは俺じゃないってことにも。
「未紘…」
俺は思わず名前を呼ぶ。
その声は未紘には届かないまま静かな廊下に吸い込まれた。
誰かに私の話を聞いてほしい。
だけど私は年度初めの一件のせいで友達は菜緒しかいない。
菜緒もモヤっとした原因の1人なわけだけど、他に相手がいないから、結局菜緒に話す。
「あのさ菜緒…」
「どうした?」
やっぱり、菜緒はいつも通り。
「私さ、類のことが好きなはずなんだけど…」
「違う人好きになっちゃった?」
優しく、あやすように聞かれる。
「うん…」
「蒼太くん?」
「…っ!なんで?」
やはりそうなのだろうか。
蒼太かどうか聞かれただけで顔に熱が集まるのがわかる。
「なんとなく?そうなのかなーって」
「そう見える?」
「まあ。やっぱりそうなの?」
「…多分」
とうとう恥ずかしくなって少し俯く。
おかげで菜緒が小さくガッツポーズしたことにはまるで気が付かなかった。
「菜緒、私軽いのかな?この前までずっと類のこと好きだったはずなのに、今は蒼太が気になってるなんて」
「そんなことない」
菜緒は断言する。
「未紘もみんなも人間だから。理屈ではいかないこともあるよ」
「そっか。私、頑張ってみる」
最後の言葉はほぼ私の独り言だったが、菜緒は私にうなずいた。
心を決めて、今まで話していた教室を出ようとする。
そのときちょうど私が通ろうとしたドアから類が出てきた。
気持ちに気づいた今は少し気まずい。
それでももっと気まずそうにしていたのは類の方だった。
「あ」
そう言った時だけ類は私を見ていた。
それからすぐに類は目を逸らした。
「蒼太のことが気になってるなんて」
先生に頼まれて器材を取りに来た空き教室で俺は未紘の声を聞いた。
未紘が蒼太のことを好きなんて。
信じたくはなかったけど、同時に何故だか納得した。
俺の片思いは砕け散ったわけだけど。
「頑張ってみる」
気づいたら最後まで盗み聞きしてしまっていたみたいだ。
未紘たちが出てきそうな雰囲気だったことに焦って、今来た感じを演出する。
それでも気まずくて、久しぶりにちゃんと顔を合わせたのに目を逸らしてしまった。
俺はそのまま用事を済ませる。
「ねえ、このままでいいの?」
話しかけてきたのは菜緒だった。
「未紘のこと好きなんでしょ?」
なんでバレているのかわからないが、きっと隠しても無駄だと思った。
「このままでいいも何ももう俺にできることないでしょ」
「ふぅん」
「俺は未紘が幸せになってくれればいいってことにしとくよ」
「意外。もっとがつがつ行く派だと思ってた」
「だってもうどうしようもないでしょ。2人は両思いなわけだし。俺が入る隙なんてない」
菜緒は少しばかり驚いた顔をする。
「…知ってたの?」
「何を?」
「蒼太が未紘のこと好きって」
「気づいてたよ。あいつはずっと俺に隠そうとしてたけど。多分俺も未紘が好きって気づいてたから気を遣ってたんだと思う」
「もう諦めるの?」
「…まあね」
俺は遠くのどこかを見つめる。
「そっか」
そう言った菜緒の視線を感じて目線を戻せないまま、いつのまにか菜緒はいなくなっていた。
「しょうがないじゃん」
そうつぶやいた俺は自虐気味に笑った。
そして俺はある決心をする。




