episode5
それから私は蒼太と帰るようになった。
不思議と結奈たちから何かされることもなくなって、久しぶりに平和な日常。
変わらず類には女子が張り付いているので話すこともないが。
「未紘、帰ろっか。土屋さんも帰る?」
「うん、帰る!てか、蒼太くん、いつまでも土屋さんじゃなくていいのに」
三人で並んで歩きながら話す。
菜緒の部活がない日の最近の景色。
「そうだよ、蒼太。もう菜緒でいいじゃん」
「あ、いや。それは」
「じゃあ、菜緒ちゃんならどう?」
「まあ、それなら」
「もう、菜緒と蒼太、中学から一緒なんだから、仲良くしてよ」
蒼太は幼い時からの幼馴染だし、菜緒とは中学の時も仲が良かったので、互いに認知はしている。
なのに微妙な距離感の二人には仲良くなってほしかった。
「じゃ、改めてよろしく、蒼太」
「よろしく…菜緒ちゃん」
「それでよし」
完全に私と菜緒のペースに乗せられた蒼太を見て笑った。
菜緒の家は僕と未紘よりも遠いところにあった。
「じゃあね、菜緒。蒼太も」
「じゃあね」
未紘が帰って、僕も自分の家に入ろうとしたときに菜緒に呼び止められた。
「蒼太、ちょっといい?」
「どうしたの?」
「あのさ、蒼太って未紘のこと、好きだよね」
驚いた。
未紘を守ろうとはしてたけど、幼馴染の範疇を超えないように、気づかれないようにしてきたのに。
そう思った僕の思考を読むように菜緒が言った。
「わかるよ、なんとなくだけど」
「わかりやすい?」
僕は心配だった。
もし二人に知られたら、もう今までのようにはいかない」
「うーん、わかりやすくは、ないと思う」
「ならよかった」
「私は中学の時に察したけど、未紘とかは気づいてないと思うよ」
僕は息を吐いた。
その時、菜緒が思い出したように言う。
「あ、でも蒼太、前に未紘をいじめかけてた子たち、結奈ちゃんとかが未紘のほうを敵意丸出しで見てるとき、睨んでるでしょ。私見たことあるけど、めっちゃ怖いよ」
そんな意識してにらんでいるつもりはないのだが。
「なんか、あれは幼馴染以上の感情を感じるかも」
「ああ、それはやばいな」
僕は思わずしゃがみ込む。
菜緒が同じ高さまで目線を下げる。
「大丈夫だと思うよ、多分未紘すごい鈍感だし。私、蒼太のこと応援してるから」
菜緒が笑う。
「私、未紘のこと大好きだから、幸せになってほしいんだよね。だからさ、頑張って」
「…任せてよ」
この時僕と菜緒の同盟に似た関係が始まった。
僕と菜緒は連絡先を交換して、前より関わりが増えた。
そしてたまに作戦会議が開かれる。
僕は菜緒の勧めで未紘に少しだけ冷たくすることにした。
『僕、そんなことできるかな。優しくしたことしかない』
『大丈夫だよ。いつもより少しだけ未紘を助けに行くのをやめればいい』
『やめる?』
『うん。蒼太はいつも優しすぎて、未紘が少し困ってるとすぐ助けに行っちゃう。だから未紘が一人でも大丈夫そうなら見守ってあげて』
『わかった。やってみる』
『頑張って!』
「未紘、おはよ」
「あ、蒼太おはよ」
蒼太と菜緒と3人で帰った翌日から、私と蒼太は毎日2人で登校している。
不思議とそれについて何か言ってくる人はいない。
それでもつまらなそうな女子たちは類に集中してしまっているが。
「あ、未紘、蒼太、おはよ!」
「おはよ菜緒」
「おはよう」
学校近くで菜緒が走ってきて私たちに合流する。
菜緒が蒼太の側に回って何か小声でささやく。
「まあ」
「頑張ってよ?」
「何が?」
私は隣で話す二人に話しかけた。
「あ、いや、何でもない」
そういった二人は教えてくれそうな気配はなかった。
最近菜緒と蒼太が急激に仲良くなってきてうれしい反面なんだかさみしい気もした。
「ね蒼太、今日の帰り、クレープ行かない?」
蒼太と菜緒が目配せする。
「…いいよ」
「やった」
蒼太と菜緒の様子が気になったが、とりあえず考えないことにしておく。
放課後、いつものクレープ店で例のごとく一つに絞れない。
「どうしよー、マンゴー食べたいけど、アップルシナモンも捨てがたい…」
そういいながら、私は蒼太の顔を見上げた。
自分でも図々しいと思うけど、こういう時蒼太は半分こしてくれる。
前に類もしてくれたが、蒼太はほぼいつも。
そういう願望を込めながら蒼太を見つめる。
しかし、私の予想に反して、蒼太は目をそらした。
「…どっちにする?」
「じゃあ、マンゴーで」
「すみません、マンゴーとカスタード1つずつください」
蒼太が半分こしてくれなかったのはたぶん初めてだ。
そのことに不満と不安を覚えつつも、それを指摘するのは本当に図々しいだろうからやめておいた。
「どうぞー」
「はいこれ」
「ありがとう」
食べたマンゴークレープはいつもより味がしなかった。
横で食べる蒼太はいつもと同じ様子。
「帰ろっか」
そう家まで送ってくれた(と言っても隣だが)蒼太はいつものように優しい。
それでも私はもやもやした気持ちを抱えたまま、玄関の扉を閉めた。
その後も蒼太は前と様子が違った。
前より少し冷たくなった気がする。
でも、劇的に変わったわけじゃない。
相変わらず一緒に帰ってくれるし、クレープ店だって付き合ってくれる。
それでも、何か違う。
「ねえ、最近蒼太変じゃない?」
そう友達に聞いてみても。
「え、一緒じゃない?」
と返されるだけだった。
思い切って、本人に聞くか迷いながら過ごす日々が続いた。




