episode1
ピンポーン。
朝っぱらから私がインターホンを押すのは隣の家に住む幼馴染、木村蒼太の家。
もう一度鳴らしても蒼太は出てこない。
しょうがないので、家の裏側に回る。
そこからはちょうど蒼太の部屋の窓が見える。
「蒼太ー起きてー」
私が叫び終わると同時くらいに窓が開いた。
「おはよう、未紘」
「おはよう、じゃないよ蒼太!今日は類が帰ってくるんだよ!」
類、というのは私たちのもう1人の幼馴染の原田類のこと。
中学進学の時に親の都合で北海道に引っ越していた。
そう、私、佐倉未紘が朝からこんなにハイテンションなのは類が3年ぶりにここに帰ってくるから。
「今日、空港まで会いに行くって言ったでしょ。あと30分で出ないと間に合わないよ」
「はいはい。というか、せっかく2人になれるチャンスかもしれないのにわざわざ俺を連れて行かなくても」
私は類のことが好きだ。
多分もう10年近く。
「それとこれとは話が別!」
私はふくれっ面で蒼太に叫んだ。
「それに蒼太がいた方が類も喜ぶでしょ。私と蒼太と類、3人でセットなんだから」
窓から顔を覗かせた蒼太が微笑んだのが見えた。
「わかったから。今出るよ」
その数十秒後、蒼太が玄関から出てきた。
そして、2人で空港へ向かった。
空港までは電車を乗り継いで行く。
「ねえ、この服大丈夫?変じゃない?」
時間が経つにつれてだんだん不安になってきた。
なんせ、ずっと好きな人に久しぶりに会うのだ。
印象大事。
「大丈夫じゃない?僕は、未紘に似合ってると思うけど」
蒼太が少し顔を逸らして答える。
蒼太のその仕草は照れ隠しだと私は知っている。
「ありがと」
蒼太は私たちの中では1番おとなしい。
静かで、優しい蒼太は一緒にいると落ち着く。
小学生の頃は蒼太が身長も1番小さくて私と類でよく守っていた。
そんな蒼太も中学3年間で身長がぐんぐん伸びて私なんか越えて、もう180cmに近い。
今では蒼太を見上げることにも慣れた。
それでも中身は優しいままの蒼太に私は頼りきりだ。
「類、変わってるかなぁ」
「どうだろうね」
「蒼太も変わったもんね、身長とか」
「未紘だって変わっただろ。背も伸びたし、大人っぽくなった」
照れながら蒼太が言う。
「照れるなら言わなければいいのに」
そう言うと、小さくこづかれた。
それさえも優しかった。
空港に着いて、到着ロビーで類を待つ。
類の乗っている便は11:30着。
残り数分が待ち遠しい。
その時。
「蒼太ー!未紘!」
声のした方に顔を向ける。
私の瞳が3年ぶりの彼の姿を捉えた。
「類!久しぶり」
「おかえり、類」
「未紘も蒼太もわざわざきてくれてありがとまじ会いたかったわ」
「来た甲斐がある」
また蒼太が少し顔を逸らした。
「それにしても未紘、なんか変わったな。なんていうか、きれいになった。服も可愛いし」
私はその言葉に薄く頬を染める。
昔から類はこういう言葉を簡単に言うのだ。
蒼太とは反対の性格で、明るくて奔放。
活発そうな見た目のまま。
優しいのは同じだけど。
でもその優しさがみんなに向くのを私は知っている。
私が沈黙してしまったのを気にしたのか、歩き始めながら蒼太が話題を変えた。
「類も僕らと同じ高校だったよね?」
「うん。春ヶ丘高校」
私と蒼太は高校でも同じところに進学した。
本人は校風が合うとか言ってたけど、多分私に合わせてくれたんじゃないかって思ってる。
蒼太の学力に対して春ヶ丘は低すぎるから。
蒼太は優しすぎる。
「あ!未紘、お前彼氏できたか?」
「え?」
「忘れたのか?俺が引っ越す時言ってたじゃん。次会う時までに絶対彼氏作るんだから!って」
そんなことを言ったかもしれない。
どちらにせよ、おそらく寂しさの裏返しだ。
私は過去の失言を今更後悔した。
けど、彼氏は、いた。
「えーっと…」
なんとなく類に言いたくなくて言い淀む。
隣で代わりに蒼太が答えた。
「未紘、彼氏いたことあるよ」
「え、ほんとにあんのかよ!」
「すぐ別れたけど…」
言い訳するように小さい声で補足した。
元カレはあまり思い出したくない思い出だったから、その方向に話を向けたくない。
「そっかぁ、未紘にもいたんだなぁ」
類がしみじみと言う。
その様子になんだか腹が立って言い返す。
「私にだってできますよー!」
そのままずんずん1人で先を進む。
私にはその後後ろでされた会話が聞こえることはなかった。
「なぁ、未紘ってモテてたりする?」
未紘が1人で先に行ってしまった後で類が変に神妙に聞いてきた。
僕はその様子で全てを察した。
その上で類を煽った。
「モテてたよ。未紘ファンの男子とか結構いた。僕も何度かそういう人に話しかけられたし。でも多分未紘自身は気づいてない」
「お前は?蒼太も未紘のこと…」
「類、まだ未紘のこと好き?」
僕は類の質問はスルーして質問し返した。
類の質問に答えてしまったら、これまでの関係が全て終わってしまうような気がしたから。
「…好きだよ、俺は今でも」
類は僕の予想通りの答えを返した。
それを聞いて安心した傍ら寂しさもあったのは胸の内にしまい込んだ。




