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四話【祭】


次々木々へと飛び移り、私は山並みの空を駆けぬける。

何かのツルで編まれた背中の籠がきしりと鳴いた。籠の中身は私が刈り取ってきた種々様々な薬草でパンパンだ。


「ふぃ~…」


休憩場に重たい籠を降ろしてため息を一服。


我らが『和賀』の里には至る所にこういう机と椅子が外に備え付けられているから助かるね。元は茶屋とかがあったのかもしれない。


真ん中にビーチパラソルよろしく立てられた大きな唐傘が実にいい味を出している。


丸太でできた家具からは木のいい匂いがほのかに香ってきて、私をどこか懐かしい気持ちにさせてくれる。これがマイナスイオンってやつかぁ。



『忍』になって早数日。

今のところ私のニンジャライフは順調だ。



「よぉサネ!おつかれさん。『草取り鎌四号』の使い勝手はどうだったよ?」

「イイ感じでしたよバネさん!…たまに別の草を巻き込んだ時の選別がめんどくさかったですけど」

「あー4号はごっそりいくもんな。選別機能でもつけるかぁ?」


私が腐食の一つもない机の表面を指でなぞっていると、バネさんが正面にどっかりと座った。


バネさんは『武具衆』。忍具やその他の装備はもちろん、家具や生活お役立ちグッズにも手を広げている"物づくり屋さん"だ。


バネさんのつくる道具には、向こうじゃ考えられない様な色んな機能が備え付けられている。曰く、術がどうたらこうたら…



なんというか、ここでは当たり前のように"忍術"が存在するらしい。すごいね異世界。



そんな私たちの鼻孔をふわりとくすぐったのは、フカフカとした甘い匂い。


「おやサネさん、丁度いい所に。ちょうどお団子が蒸し上がった所ですよ。一皿いかがですか?」


しゅたりと私たちの近くに華麗に着地したコンさんの手には、艶やかなお団子が山盛りのお皿がウェイターよろしく乗っていた。


もちろんお団子たちの整列に乱れはない。…わざわざ持って来てくれたのか。ありがたや。



「ありがとうございますコンさん!ちょうどお腹が空いてたところなんですよ〜、グッドタイミングですね!」


私はウキウキでそのお団子の皿を受け取った。

そんな私の脇の下から、にゅっと小さな頭が現れる。


「サネってたまに変な言葉遣いするよねー。それってどこの言葉なの?」

「うおぉう!?スズちゃん!?いつのまにか私の懐に…?」

「むふふ、わたしの接近に気づけないなんてまだまだ甘いねぇサネ。お団子いただきっ!」

「オメーの隠密を気取けどれる奴なんか数えるほどしかいねーだろ」

「スズさんのは私たちのものとは一味違いますからね」

「むぐむぐ、それほどでも〜」


里のみんなとの関係は良好!

任務も薬草採取とか簡単なものばかりだし、コンさんのご飯は美味しいし…

なんというか、思ったより忍の生活は殺伐としていない。


諜報活動とかより、どちらかと言えば生活に必要な任務が主なのだ。気分はのどかな里山暮らし。


それとも、この里に居ない人たちがそういう任務中なんだろうか?結構広い割にはババ様含めて五"忍"しかいないし…



「やぁサネ!お帰り!忍務から戻ったばかりで悪いけど、ババ様からの呼び出しだよ」


私がスズちゃんとお団子の奪い合い(という名の一方的な搾取)をしていると、いつの間にかモミジさんが座っていてお茶をすすっていた。


スズちゃんもそうだけど、モミジさんもいきなり現れるんだよなー。どうやってんだろ?これも忍術なのかな…


いや、というかそんなことより___


「ババ様直々の呼び出し!?私なんかやっちゃいましたか!?とうとう追放!?」

「いや、なんでそうなる?どう考えても忍務の話だろ」

「おいたわしやサネさん…以前にさぞつらい目に合われたのでしょう」

「かわいそぉサネー。わたしのお団子いる?」

「さも優しく施してるみたいだけど、元は私のお団子だからね?!」

「てへ!」


異世界と追放ってのは切っても切れない関係なのだ。実際、私も城から追放されたようなもんだし…

おのれ許すまじガマ殿!


「アハハ!もう、違うよサネ。もちろん忍務の話さ。さぁおいで」

「はい!コンさんごちそうさまでした!スズちゃん残り食べていいよ」

「お粗末様でした」 「もごもご。いってらー」

「もう食べてる!」



食べ残しのお皿をスズちゃんに押し付けて、私たちは屋根へ飛び上がった。



「ババ様直々の任務ってなんでしょうか?モミジさんもとなると、もしかしてかなり重要な案件なんじゃ…」

「ボクは知ってるよ?近々お城で大きなお祭りが開催されるんだ。今回の忍務はその祭に参列する『姫』様の護衛さ」

「えっ…それって…」

「フフン、そうだとも!」


私がびっくりして横を見ると、モミジさんは嬉しそうに笑っていた。


「友達なんだよね?だからこのボクが相方に君を推薦したってわけ!」

「しはぁん…!ありがとうございますっ!」

「喜んでくれたようでなにより。もちろん護衛忍務もばっちりこなすからね?我が娣子よ!」

「はい!」


これは粋な計らい、いい機会だ。

そろそろ城に忍者よろしく忍び込んで、様子を見に行こうと思ってたんだよね。モミジさんナイス!



(それにしても『姫』と『忍』かぁ…)



私たちの人生、随分と様変わりしたもんだ。

…いや、向こうはあんまり変わってないんだろうけどさ。

これから私たちはどうなるんだろう?



元の世界に帰る方法を探すのか____あるいは




この世界に骨をうずめるのか。



私はこれからどうしよっか。

奴妻さんはどうしたいかな?



「……奴妻さん、元気かなぁ」



和賀の里を吹き抜ける気持ちのいい風が、私の背中を追い抜いて行った。







太鼓が叩かれ鈴が鳴る。


笛が吹かれて琴が鳴く!




「姫様のぉぉおぉぉ、おなぁあぁぁりぃぃぃ!」




琵琶だか三味線だかわからない弦楽器がべべんとつま弾かれて、豪華な布で幾重にも編み上げられた舞台の天幕が開かれた。


その奥から現れたるは我らがプリンセス、奴妻さんだ。


奴妻さんなんか金色の模様があしらわれた緑の着物を何枚も着込んでて、ずらずらと従者を引き連れながら主役然としたすまし顔をしている。


あれは十二単ってやつだろうか?にしてもサイズがすごい。お付きの人が服持たないと歩けないじゃん、あんなの。


奴妻さんが小柄なのも相まって、人間部分が顔しかないように見える。豪華衣装に定評のある某演歌歌手もビックリの規模感だ。


奴妻さんは元々姫カットなだけあって、もう完全にお姫様にしか見えない。似合いすぎでしょ。

私じゃああはならないだろうなー。これに関してはガマ殿を攻めれないかもしれない。どう考えても奴妻さんのほうが『姫』だ。



奴妻さんが歩くのに合わせて、舞台前に集まった人々から歓声が上がった。



「いやぁ、実に絢爛だねぇ。まさか『異彩喝祭』をこの目で見ることになろうとはね」

「師範、このお祭りってどんな祭りなんですか?」



因みに私たちは舞台から遠く離れた木の上から奴妻さんの様子を見ている。

まさしく忍者って感じだ。どっちかというと襲う側のポジション取りな気もするけど…


「異彩喝祭は…そうだなぁ、『神事』に近いかな」

「シンジ?」

「ああ。招いた姫を国をあげて七日七晩歓待して、神の御許へとお送りする…」


「姫を喜ばせる楽しき祭囃子が天に届けば、神から遣わされたお迎えがやって来る。そうして祭りを滞りなく完遂した暁には、そのものどもは長きにわたる繁栄を享受することになるだろう___と、古事記には書かれてるんだ」

「古事記!こっちにもあるんですね」

「そっちにもあるんだ?神賭けの記録とかが書かれてる古い文献でね。姫と異彩喝祭に関してはなにぶん古い時代の話だから、実際のところどんな形で使者が来るのかわからないんだよ」


ここよりも古い時代ってなんか変な感じだけど、みんなにとってはここが『現代』なのだ。

私にしてみればこの世界こそ古事記の『中』なんだけどな。


「そうら、始まったみたいだよ」


奏でられている曲調が楽し気なメロディーに変わって、舞台袖から踊り子が現れた。


お城の城下部分にでかでかと建てられた舞台の正面に伸びた部分で、フリフリの振袖を来た女の人が掛け声を上げながら元気よく踊っている。

…なんか、パリコレのステージみたいだなあの部分。


振り付けは多分盆踊り系だ。動きは激し目だけど。


パリコレ風特製ステージの周りには祭りを見に来た人たちが群がっていて、舞台を見上げたり肩車をしてもらったり、花見よろしく布を敷いて酒盛りしてる人までいた。

さらにその周りでは屋台かなんかが開かれていて、まさしくお祭り騒ぎだ。むしろ舞台の下の方がお祭り感があるね。



奴妻さんの目の前には、豪華なお料理がどんどこと運ばれてきている。

どう考えても個人で召し上がれる量じゃない。というかあの服じゃご飯なんて食べれないんじゃ……あ、お付の人が小分けにしてくれてる。



なんか、あそこだけ切り抜くと昔みた映画のワンシーンを思い出す。奴妻さんの手から砂金は出ないけど。



舞が終わるとまたまた曲調が変わる。

お次の演目は…なんだあれ?


「師範師範、あれって何やってるんですか?」

「ん?あれは『林模りんぼ』だよ。…もしかして初めて見るのかい?」

「はい。あんまりそっち方面に明るいわけではないですけど…たぶんこっちにはないですね」

「ええ!?そうなの!?林模は全国津々浦々、どこでもやってる伝統的な演戯なのに…」


モミジさんが結構びっくりしてるところを見るに、ホントに有名なんだろう。

音だけ聞くとリンボーダンスみたいだけど、やってることは全然違う。


竹やら木の枝やらを使って踊ったり殺陣をしたり、変なところで言うならお祈りをしたりしてる。なんだこれ?ミュージカル的な感じなんだろうか。


よもや、こんなところで異世界文化に触れることになろうとは……いまさらか。

落武者だのくノ一だの、よく考えれば異世界文化だらけだったよ。



「異彩喝祭はその名の通り、ことなるあやを呼ぶお祭りだからねぇ。この芸事も姫が古今東西のおもしろき事を求めたかららしいよ」

「ほぇー…」


モミジさんは口から火をふいたり、おちゃらけた動きで火の輪をくぐっている人をおもしろそうに見ながらそう言った。

どうやら伝統芸能の次はサーカスが始まったらしい。ゴリゴリの和装で真面目にサーカスやってるのがちょっと面白い。




その後も見たことがあるようなものからさっぱり無いものまで、それはそれは色んな催しが日が落ちるまで繰り返された。




「うーん、流石は左衛門さんだね。祭りの締めに相応しい"うどん作り"だったよ」

「麦の束を掴んで出てきたときは何事かと思いましたけど…すごかったですね」

「確かな技術に裏付けされた曲芸はともすれば美しさすらある…ボクも何か練習しようかな?」



個人的には昼時にやってた河童の格好での相撲が一番盛り上がったかな。勝負の後はみんなで雨乞いしてたのも面白かったし。

…よもや本物じゃないよね?異世界ここじゃそれがあり得るから困る。



「ひぃぃぃめさまのごたいじょぉぉぉお~~~!!」



仰々しい音楽と共に奴妻さんが席を立って舞台の奥へと消えてゆく。

それに合わせて周囲の人たちも解散するみたいだ。屋台も店じまいを始めた。


どうやら異彩喝祭の初日は滞りなく執り行われたらしい。

日が昇ってくると始まって、日が落ちるまでこれが続く…これが後六日もあるなんてみんな大変だね。



「さてと、物見遊山も終わったことだし、ここからがボクらの出番だよ!」

「あれ!?今までのは護衛じゃなかったってことですか?!」

「半分は、ね!異彩喝祭がどんなのかボクも見たかったし」


モミジさんは片目をつむりながらお茶目に舌をだした。


「ボクが城の周囲担当。サネには姫様の近くを担当してもらうよ。積もる話もあるだろうしさ」

「お気遣いありがとうございます。…因みに、なんか護衛のコツとかってあります?」

「くれぐれも姫様にボクらの存在を気取らせないこと!これが肝だ」

「あれぇ!?なんか真逆のこと言ってる!」


変装でもして会えってことなんだろうか?それとも身分を隠す?…絶対ボロが出るな。


「その辺の塩梅は任せるけど、護衛を認識した人間は色んな意味で行動が変わるからね。護衛ってのは敵にはもちろん、味方にもその存在を知られてないほうがいいのさ」

「なるほどぉ…」


なんとなくわからないこともない。

敵も攻めるとなると慎重にこちらの行動を読んでくるだろうし。

…しっかし『敵』かぁ。



「あの、師範にちょっと聞きたいんですけど…」

「うん?なんだい?」

「『護衛』が必要ってことは…姫の立場って結構危ないんですか?」


要人に護衛をつけるのは不思議なことじゃない。でもここは異世界で、忍やお化けがいる世界だ。

何が出てきても、おかしくはないのだ。


「ふむ、考えられるところで言うなら他国が姫を欲しがって攫うことだけど……まぁありえないかな」

「そうなんですか?」

「結局眉唾だからね、異彩喝祭の恩恵は。国攻めする理由にしては弱すぎる」


「じゃあ個人が功を求めて忍び込んでくるか…これも考えにくい。良の国(うち)に左衛門さんや女衆ボクらがついている事は公然の秘密だしね。さっきもこれ見よがしに自分の存在を見せびらかしてたわけだし」

「あれってそういう意味があったんですか!?」

「内容は趣味だと思うよ?だから____」



「____姫様の敵と言えば、この落武者たちぐらいだろうね!」

『ォォォォォ…』


モミジさんは隣にいる落武者の肩を叩きながらそう言った。


「なぁんだ!こいつらぐらいなら安心ですね!」

『…オン?』

「『落将軍らくしょうぐん』っていう、ちょっとでかいやつも偶に来たりするけど、まぁボクらの敵じゃないさ!」

「そうですよねぇ~あはははは!」

「ハッハッハッハ!」

『オッオッオッオ!』




「____ってめっちゃ囲まれとるッ!!!」


「こいつらは人の気配に引き寄せられるんだよね。ハッッ!」



私がもたもたとクナイを抜いている間に、モミジさんが周囲の落武者たちの頭を飛ばす。


「はっ……やーい」


ひいふうみぃ…五体もいましたけど?早技すぎるでしょ。どういう身のこなしをしたらこれが実現できるんだ?


「この程度ならお茶の子さいさいさ!というわけで城の外は心配しなくてもいいよ。サネはお友達の傍で気を張っててあげな」

「…異論はございません」



モミジさんは落武者の兜を片手でお手玉しながらニッカリと笑った。

どうやら、私のお師範さまはとってもすごいらしい。





「いやぁーお美しかったですねぇ姫さまぁー。演目もお料理も豪華でしたしーぃ」

「…」


私は今、文字通り屋根裏にいる。

もちろんその目的は覗きじゃなくって護衛だ。…こうやって覗き穴から見てる分にはただの曲者だけど。


なんと、このお城の部屋という部屋から廊下に至るまでの全てがこの"屋根裏空間"でつながっているらしい。


『もちろん忍のための空間だから安心して這い回るといいよ!』


なんてモミジさんは言ってたけど…こうもコソコソとしてると悪いことをしてる気分になる。


「お祭りは七日七晩って話でしたよね?明日も今日みたいに…?」

「はーぁいーそうですよぉ。こーんなのがあと六日も続くなんて素敵ですよーぉね?」

「…そうですね」


うわ、めっちゃ愛想笑いしてる。


ここからじゃ奴妻さんの表情は見えないけど、私には分かる。内心、めっちゃつまんなさそうにしてるってことが。

本人は演技派を気取ってるけど、案外顔に出るからなぁ、あの子。


まぁそれもむべなるかな。

現代娯楽にまみれた女子高生わたしたちにとって、このお祭りの演目は少々退屈なのだ。最初は目新しかったんだけどねぇ。


特に私達は勝負と称して色んな遊びを経験してる方だからなおさらだ。


「それではごゆるりと…」


奴妻さんの着替えが終わり、山のような着物を抱えながらお付の人は退室していった。


奴妻さんは一人この狭い和室に取り残されて___ていうかホントに狭いなこの部屋!


閨だか寝台だかわからないけど、部屋の真ん中にでかでかと備え付けられた寝床にはこれまた豪華な…天幕?レースが張られている。


そしてそれが部屋の八割を占めている。


狭い、狭すぎる。

どう考えても賓客の為の部屋じゃないよねこれ。

もっとマシな部屋は空いてなかったんだろうか…



「はぁ~~~…ダルっ…」



奴妻さんは毒を吐きながら四肢を放り出して寝床に倒れ込んだ。あらはしたない。

マドンナの正体見たり、だ。


…いやまぁ、節々から感じてはいたけれどさ。


奴妻さんは清廉潔白な完璧超人なんかじゃない。

子役上がりの元アイドルな……ただの私の同級生だ。



なんでわざわざそんな風にふるまってるのかは知らないけれど、奴妻さんはみんなのマドンナを『演じて』いる。

ファンクラブだのなんだのは偏に、そんな奴妻さんの努力の賜物なのだ。


その努力の裏側に潜む複雑な感情は……私には計り知れない。


周りの期待に応える、その苦労を。

人の上に立ってみんなを導く、その重責を。

知らない異世界で突然『姫』として祀り上げられる、そのプレッシャーを。



私は知らないのだから。



(…なんか、顔見せする雰囲気じゃなくなっちゃったな)



奴妻さんってけっこう気位プライド高いから、あんまりこういう部分は見られたくなかったかもしれない。


私は覗き穴を見るのを止めた。

部屋が狭いから音と気配だけでも護衛には十分だ。

部屋の位置も奥まってるから廊下にも注意を払いやすいし。


お祭りはまだ長い。もう少し陰に潜む忍ライフを味わっておこう。

私は再会したときの第一声を考えながら横になった。



下の部屋からは寝苦しそうな布ズレの音だけが、いつまでも聞こえてきていた___



それからもお祭りは続いた。私の予期しない方向で。


(またこの演目か…)



姫がおすわす舞台袖…というか、木造舞台の上部分に張られた太い軒が私のポジションだ。


ここからなら舞台の全体が見れるし、奴妻さんからも見えない。


姫の護衛になったおかげで初日に見た時よりもお祭りの演目は見やすくなった…けれど!


「のこったぁ!のこったのこったぁ!」


メインステージでは河童が相撲を取っている。

異彩喝祭も今日で三日目。昨日からちょっと怪しいなとは思ってたけれど…初日からびっくりするぐらい内容が変わってない。


いや、多分やってる人は変わってるし、料理も相変わらず豪華ではある。

でもそれだけだ。


周りのギャラリーも飽きちゃってるのか、もはやステージに見向きもせず宴会を楽しんでる。

まぁその方がお祭りっぽいと言えばそうだけどさぁ…



当の奴妻さんは依然としてお姫様をこなしている。…これ、『姫の歓待』としては成功してるんだろうか?絶対暇してると思う。



私が危惧していた様な襲撃も特にないし、モミジさんから危険の知らせもきてないから護衛任務自体は平和そのものだ。




このまま何事もなくお祭りが終わって____その後どうなるんだろう?




確か神様の使いがやってきて、みんなの繁栄が約束されて……

姫はどうなるんだ?わざわざ使いがやって来るってことはかぐや姫よろしく姫を迎えに来てる?


古事記には姫の到来が書かれてたらしい。それってつまりは異世界から誰か来ることを予見してたってことだ。


もしかして……姫を迎えに来るのは向こうの世界に帰すためかもしれない。つまり、異世界人が来たことを知らせるための異彩喝祭なのだ。そう考えると…




「きまぁ~りてぇ~~、尻子玉ぁ~~~」

(祭りが盛り上がりに欠けると困るよねぇ…)


初日と違ってちょっとテキトーになった河童の雨乞いを見ながら、私はそう思った。

こりゃ明日も晴れだね。



すごすごと河童たちが退散した後は左衛門さんの出番だ。

初日はアクロバティックうどん作り、二日目はアクロバティック能楽。さて今日の演目は…



「これよりお見せいたしますは忍の競技。野を駆け川を渡り山をも登り、己の身技しんぎを示すためのものです」


「その名も『流離駆さすかけ』。流離いの忍が考案したとされる忍遊技しのびゆうぎ!それでは僭越ながら我が身技しんぎを皆様方に御覧じろ___オンソワカッ!!」



左衛門さんがポーズをキメて言霊を叫ぶと、ステージの上に立体的なアスレチックがボワンと現れた!


ステージ上に所狭しと組み建てられたアスレチックの中央には、天高く聳え立つ櫓が堂々と鎮座している。

…名前といいこのアスレチックといい、なーんか既視感があるような……



「ハッ!」


法螺貝が吹き鳴らされて、左衛門さんのチャレンジが始まる。


ファーストステージ、というかアスレチックの下層部分は立体迷路になっている。


本家と違ってこのアスレチックはステージの上に造られているから、まるでジャングルジムみたいに通路が入り組みに入り組んでいる。

そこに障害物やら何やらが色々設置されているのだ。


左衛門さんは通路を時には飛び超え、時には渡り、時にはバク転しながら上層へと駆け上がっていく。



なんか早すぎて残像まで見えてる!?何でもアリだなニンジャ…



その妙技の迫力に思わず観客からも歓声が上がった。

ホント、左衛門さんだけが私たちの頼りだよ。

相も変わらず魅せ方がうまいね。あれ多分、わざわざ周囲が見やすいように大袈裟にしてくれてるんだろうし…



忍者わたしたちにかかれば、わざわざ中を通らなくても"外側"から一気に頂上まで行けるだろうしね。

…しっかし料理に芸事に体術スポーツときたか。芸達者だねぇ左衛門さん。さすがはニンジャ。



ジャングルジムをたっぷり堪能"させた"左衛門さんは、櫓に垂らされたしめ縄クラスの綱を登って_____いかずに!?途中から櫓の枠を蹴りながら飛び上がりだした!


配管工もびっくりの連続ジャンプだ。あれ楽しそうだなー。


「ハイーーー!!」


左衛門さんが頂点でポーズをキメて、終了の法螺貝が高らかに吹き鳴らされた。


これには奴妻さんもご満悦のご様子。今日初めての拍手をしてる。




こうして、三日目の異彩喝祭もトラブルなく終わった。

……まだ四日もあるのか。明日からはもうちょっと頑張ってほしいものだけど。





そんな、見飽きた演目が明日も続くことに私がうんざりしてきた頃に『事件』は起きた。






「ねぇ!?それってどういう事!?」


奴妻さんの悲鳴のような叫びでウトウトしていた私は飛び起きた。

なんだなんだ!?奴妻さんは馬鹿みたいに着こまされていた着物を脱いでる最中だったはず…


慌てて部屋を覗きこむと、奴妻さんが若めの女中さんに食って掛かっていた。


「私と一緒にいた子が追い出されたってどういうことなのッ!?」


おっとぉ、これは…

私の話じゃん。


「わ、私はそのような噂を聞いただけで…」



今日の奴妻さんのお付の人は今までの中で一番若かった。さては口を滑らせたな?『綾小路実秋追放事件』の秘密を。


「なんで…だって綾小路さんもここで働いてるからって…」


もちろん真っ赤な大嘘ですよ。

ここで働かせて下さいって頼むまでもなくソッコーで追い出された記憶しかないんだが?


私の所から奴妻さんの顔は見えない。でもその声色で相当荒ぶってるのがわかる。

……珍しいな。私が最初の勝負で圧勝した時でさえここまでは動揺はしてなかったのに…


まぁ、冷静に考えれば、『あなたの知り合いを追い出しました』って状況で姫を歓待できるわけがない。そりゃ丸め込む為の嘘を吹聴するわな。



おのれガマ殿め…!顔の通りにやり口が汚いぞ!



「で、出所のわからないただの噂ですからぁ…きっとその方もうちで働いておられますよぉ」

「じゃああなたは綾小路さんを連れてこれるわよね?だって同僚だもの」

「えっ…」


奴妻さんの声が真に迫る。…これは演技じゃなくてガチのトーンだ。


「綾小路さんを探してここに連れてきてよ!仕事が忙しくたってそのぐらいはできるでしょ?」

「い、いやぁそれは難しいかと…人相もわかりませんし…」

「どうして!?あなたは最初に私と一緒にいた綾小路さんを見てたはずよね!?あなたはあの場に居たはずよ!」

「あっ…」

「どうなの!?あなたはこの城であれから綾小路さんを見たの!?見てないの?!どっち!?」




「____み、見ていません…」



つつけばボロがでるわでるわ。

お付の人は奴妻さんの鬼気迫る迫力に観念するように白状した。


その返答に奴妻さんが息を呑む。

あーあ、これはまずいぞ。ガマ殿の悪行が奴妻さんにバレちゃったじゃん。

このままじゃ異彩喝祭の進行に影響が____




「姫さま、いかがなさいましたかな?」



うお!?いつの間に!?

まるで最初からそこに居たかのように、左衛門さんはぬるりと部屋の中に立っていた。


…奴妻さんの着替えが終わってなくて良かった。着物の中は部屋着とはいえ、うら若き乙女が殿方の前に出るような格好じゃないのだ。


しかし瞬間移動ニンジャはこれで三"忍"目か…いや、そんなに忍者を知ってるわけでもないけども。


「どういうこと!?綾小路さんはどこ!?」


奴妻さんは着物がはだけるのも気にしないで左衛門さんに詰め寄った。


左衛門さんはそんな姫を諭すように口を開いた。人を落ち着かせるような、柔らかい声で。



「ご安心ください姫さま。姫さまは勘違いをされております」

「…勘違い?」

「ええ。確かに娘殿は今現在この城にはいません。が、それは追い出したのでは無くご本人の希望で近くの里にお連れさせていただいたのです」


「女中はその話をまたぎいて勘違いしたのでしょう。姫さまのお連れを追い出すなどとんでもございません」


よくもまあぬけぬけと嘘をつくね。流石ニンジャ、やり口が汚い。


こんなにも優しい声色と表情なのに、やってることは姫を騙すことなのが少しゾッとする。

事情を知ってる、というか当事者たるこの私でさえなんか納得しそうになったし…



「___ねぇ、それならあの子は何か言ってた?綾小路さんは私の大切な腹違いの『妹』なのよ。あの子、私と離れてしまって寂しがってないか心配で心配で…」


おお~!奴妻さんも負けじとカマかけてる!


「…ええ、もちろんですとも。娘殿も『姉君を何卒よろしく頼む』と姫様のご心配をなされておりましたよ」

「____そう、それならいいんだけど」


流石は元子役タレントだ。堂に入った演技に左衛門さんはすっかり騙されたようだった。


もちろん私たちが姉妹な訳がない。今の発言はむしろ私を追い出したのが真実であると裏付けるようなものだ。


奴妻さんが落ち着いたように振る舞うのを見た左衛門さんは安心したように退室して、それからは何事もなかったかのようにいつも通りの流れが進んでいく。


「それでは…」


そそくさと女中も部屋から出て行って、狭い部屋には奴妻さんだけが残された。


ガタリと扉に閂がかけられ、足音が遠のいていく。

…防犯かと思ってたけど、よく見れば外側から鍵かけてんじゃん!どう見ても監禁だよ、これ!



「……うっ…くっ…」



奴妻さんは……泣いているみたいだった。

声を、押し殺しながら。



この部屋もその扱いも、勝手に出歩かないように……姫に逃げられないようにしてるとしか思えない。きな臭くなってきたな。


奴妻さんもそれを知ってか、一つだけ備え付けられている小さな窓の格子を外そうとしてる。



…ん?ちょっとまって!?奴妻さんこっから逃げようとしてる!?



努力の甲斐あってか、元から準備してたのかはわかんないけれど、格子窓はガタリと外され奴妻さんは自由への切符を手に入れた。


あんな狭い窓枠から抜けられるのも奴妻さんが小柄だからだよねぇ。私じゃ無理だったかも…いやいや、別に太ってるとかそういうわけではなく…


「…っ!」


私が自分に謎の言い訳をしていると、するりと部屋から抜け出した奴妻さんが目の前の闇に息を呑んだ。

部屋の外には入り組んだあの迷路のような廊下が続いている。


(___ってそんなバカなことを考えてる場合じゃない!)


向こうの方からは意を決した奴妻さんがパタパタと廊下を走りだした音がする。

迷路で見失ったらやばい!急いで追いかけないと!



私は一息遅れて、かさかさと這いながら奴妻さんを追いかけるのだった。


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