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三話【忍】


「――――というわけでこれからボクたちの仲間になる『サネ』だ!みんな仲良くしてやっておくれ!」

「あ、ど、どうも~……」


どうしてこうなった?


いや、どうしてもなにも私がモミジさんの忍者勧誘(ごりおし)を断り切れなかっただけなんだが。

モミジさんに比べれば奴妻さんの勧誘なんてかわいいもんだったね。あっちは随分と遠回しだったし……



「オイオイ!モミジよぉ、そりゃ本気で言ってんのか?」

「もちろんだともバネ。彼女はボクの遠い親戚でね。このボクを頼りにここまで遠路はるばるとやってきたんだよ。健気だろう?」



モミジさんに食ってかかってるのは、まさしく木々の新緑を思わせるような緑髪の女の人だ。

綺麗な髪をざっくばらんに腰まで伸ばしていて、そのガタイと相まって強者感を醸し出している。

モミジさんも結構背が高い(170センチくらいかな?)ほうだけど、バネさんはさらに頭一つ高い。


バネさんの上半身はサラシが巻かれているだけで、惜しげもなくそのがっちりとした身体つきを晒していた。



「ボクには彼女の面倒を見てあげる使命がある!」

「だからってなんで忍者にさせるって話になるんだ?!普通に面倒見てやりゃいいじゃねーか!」



ごもっとも!私もそう思います!もっと言ってやってください姉御!



「働かざる者食うべからず!ボクは彼女を穀潰しなんかにはさせないとも!」



ご、ごもっとも……確かにそれは虫が良すぎるか。

――いや、だから下働きをするって話だったんだけど?



「こそこそ!やっぱりちょっと似てるねー!」

「ひそひそ。なんだか懐かしい気分になりますね」



そしてバネさんの後ろに控えている残りの二人。


どう見ても私より子どもな、お人形さん(というよりはマネキン)を抱き抱えている深い紫髪の女の子。

そして、白い狐のお面を被った銀に艶めく白髪の人(声的に多分女性)の二人にはめっちゃひそつかれている。ぜんぶ丸聞こえだけど。


こうやって彼女たちの色とりどりの髪色を見せられると、やっぱりここは異世界なんだと実感する。

そういや城の人たちも色んな髪色してたな。



……というか私たちって似てるの!?全然そんなことないと思うんだけど!?

一番のネックだった親戚設定がすんなり通ったことに私はびっくりだよ。



ちなみにこの『親戚設定』はモミジさんが便宜を図ってくれた結果だ。

異世界から来たと正直に言うよりかはこっちの方が受け入れやすいだろうとのことで。


私が異世界人ということは今のところ二人だけの秘密なのだ。



「このボクが【紅夜叉】の名に於いて彼女の"姉範しはん"となる。それなら問題ないだろう?」

「オイオイ!姉娣してい制度まで使うのか!?いつの時代の話だよ全く……」


べにやしゃ?カッコイイ肩書きだなー。

もしかしてモミジさんって結構凄い人だったりする?それともここの忍者はみんなそういう二つ名的なサムシングを背負ってるんだろうか。


「差し当たってサネには忍定試験を受けてもらうわけだけれど、皆にはその手伝いをお願いしたくってね。ほら、色々と入用だろう?」

「そりゃあそうだがよぉ……」

「はいはーい!じゃあスズちゃんは何担当?暗殺殺法でも教えてあげる?」

「うーんスズには~……必要な素材を集めてきてもらおうかな!」

「あーい!了解っ!」


しぶしぶといった感じのバネさんの横で、お人形の女の子が元気よく手をあげた。

やっぱ、あんな見た目でも立派な忍者なんだな……というか暗殺さっぽうてなに?!

見た目に反して出てくるワードが物騒すぎる!


「バネはスズが素材を集めてきたらサネ用の装備を拵えておくれ!コンは精のつく献立を頼むよ!」

「委細承知しました。腕によりをかけさせてもらいます」

「ま、お前がそこまで言うならしゃーねーか。……おい、サネっつったか?」

「あ、ハイ」


バネさんがこちらを覗き込んできて、その深い緑の瞳と目が合う。

彼女のぶっきらぼうな物言いに反して、その目はどこか優しかった。


バネさんはまるで、何か懐かしいものを見るように目を細めて――


「……ほどほどに頑張れよな」

「あ、ハイ!がんばります!」

「もしダメだった時は私んとこで引き取ってやるよ。……武具衆はいくら居たっていいからな」


バネさんはそう言って、照れくさそうに頭をかいた。

もしかして……拒絶してたんじゃなくてフツーに心配してくれてたんだろうか?


「あー!バネが抜け駆けしてる!その時はスズちゃんと一緒に絡繰からくりを作ってもらうんだから!」

「サネさんは炊事はできますか?畑仕事は?自分で育てた食材で御飯を作るのは楽しいですよ」

「あっ、その、えーっとぉ〜……」

「こらこら!サネはボクの娣子でしになるんだぞ!みんな横取りしようとしない!」

「わぶ」


みんなが私に群がってやいのやいのと盛り上がってるところを、横からモミジさんに抱きしめられる。


なんというか……みんな、良い人だな。


忍者のことは置いといても、この人達に受け入れてもらえてよかったと、私はそう思った。




――――奴妻さんも、お城で上手くやってるだろうか?

やってるんだろうなぁ。容量良いから。




* * *




みんなへの紹介が終わった後で、私たちは再びあの丘の上に来ていた。


「忍者として認められる為に!サネには忍定試験を突破してもらわなくっちゃならない!」


モミジさんは大きな岩の前で腕を組みながら、厳かにそう言った。


「あの〜、ちなみにそのにんてい試験?って何するんですか?」

「なぁに簡単なものだよ。ほら、サネと出会ったときにボクは【落武者】と闘っていただろう?」

「あー、あの動く甲冑リビングアーマーのことですよね」

「りびんぐあぁま?そっちじゃそう言うのかい?カッコいいね。……あいつらはヒトの魂、その残留思念ともいうべき霊魂が甲冑に宿って彷徨ってるんだよ」


「ボクら女衆はそんなまつろわぬ魂を天に還すのが仕事なんだ!で、忍定試験は落武者との一騎打ちだよ」

「えっ?」


いますんごいサラッと言ったけど一騎打ちって言った?

アイツがっつり刀とか持ってた気がするんですけど?

そいつとバトル漫画よろしく果たし合うってこと!?ヤバ……


「ハッハッハ!そう心配しなくても落武者に勝つのはそう難しいことじゃ無いさ。あいつらの動きは単純だからね!そもそも、その為の特訓を今からするわけだし!」

「そ、そうなんですか……?」

「このボクにドンと任せておきな!サネがきっと落武者に勝てるように、立派な忍者となるべくしっかりと訓練してあげるからさ!」

「あ、ありがとうございます……」


これ、死なないじゃなくて"勝てる"としか言ってないあたりがミソなんだよね。

それってよしんば負けた時は最悪死ぬってことですよね?刀持ってたし。


モミジさんはあごに手を添えて、私を見ながらふむふむと思案にふけっている。多分、どう訓練するかメニューを組んでくれてるんだろう。


……ええーい!女は度胸だ!

ここまで来といて怖気付いたから今更出来ませんなんて言えるかって話!



みんな、私のために色々とやってくれてるのだ。

試験だろうが落武者だろうが、やってやろうじゃんか。



「お願いしますモミジさん……いや、師範!私を鍛えて上げてください!」

「……!いい目だサネ。辛く、厳しい訓練になるよ。それでも構わないかい?」

「覚悟は……できてます!」

「その言葉を聞きたかった!それじゃあ共に歩もうではないか我が娣子でしよ!」


「この長く険しい――――忍の道をッ!」

「はい師範!!」


私たちは遠くに燃ゆる夕陽(今は真昼間だけど)に向かって高らかに吠えるのだった。



* * *



「最初は忍の基礎の基礎!忍具の取り扱いだよ!さぁサネ!まずはあの的めがけて投げてみるんだ!」


私はモミジさんから木製の手裏剣とクナイを手渡された。

何で木製なんだろ?練習用ってことなのかな?

……いや違う!すごいこれ、ちゃんと"研がれ"てる!

下手に触るとすっぱりといっちゃいそうだ。


私はおぼろげな記憶を頼りに見よう見まねで手裏剣を構えて――



「ぇえーいっ!」



私は手裏剣を思いっきり的目がけて投げつける。

真っ直ぐに飛んでいった手裏剣は、すこんと的の中心に突き刺さった。

あ、あれ……?


「こ、これは……!?」



投げる。

投げる!

投げるッ!



「てい!」すこん!

「とう!」すここん!

「しっ!」バギィ!?



私の投げた手裏剣はその全てが的の中心目がけて飛んでいき、最後のクナイの一撃によって的がバキリと壊れてしまった。


「こっ、こんなことが……」

師範が戦慄している。私も戦慄してる。



私の特訓は次のステージへとランクアップした。



「次は木々翔けだ!」

「ハイ!」

「お次は川渡り!」

「ハイヤー!」

「でもって崖登り!」

「ハイハイハイハイ!」

「最後はあの丘目掛けて跳び立てぇーーーぃ!」

「ハイーーーー!」



木々を飛び移り川を駆け抜け、崖を登って別の小高い丘へとジャンプする。

幾度となくモミジさんに抱えられながら体験したアスレチックコース。


私はそこをまるでニンジャのように縦横無尽に駆け抜けた。

……っていうか、まさにそのニンジャ訓練をしてるわけなんだけども。



私はモミジさんから与えられたメニューを『全て』難なくこなした。

こなせた。こなせてしまった。



山並みの向こうへ太陽が落ちていく。



丘の上のデッカイ岩の前で腕を組んだ師範が、正座している私を見て一つ頷いた。


「君に教えることはもう……ない!」

「え"っ!?」

「免許……皆伝だぁ~!!!」

「え、え?ええぇ〜…?」

「サネ〜!君はすごいよ!天才だぁ!!」


モミジさんは私の手を取って小踊りしてるけど…正直なんかズルした気分だ。

それともこれが異世界転移によって引き出された私本来の力なのか……!?



見よ!この全身にみなぎる我がパゥワを!

あんな常人離れした動きをしたのにも関わらず息の一つも上がってない!



何というか、わかるのだ。

普通なら地面から木の上になんて飛び上がれるはずもないし、川の上の走るなんて途中で沈むはずだし、崖から飛び上がったって向こうの丘になんて届くわけがない。


でも今の私にはそれができる!出来るという確信がある!出来たという結果がある!


まるで自転車の乗り方を覚えた時のように、身体と道具をどう扱えば良いのかがわかるのだ。



「これが私の転生……いや、転移ボーナスってこと?」



あの惑いの林で感じた違和感に頭が追いついた。

私の身体能力は文字通り『超人』と化していたのだ。


ボーナスなんて貰った記憶なんてないけど、まぁ使えるものはありがたく使わせてもらおう。


この力を認識した今ならあの落武者だって恐るるに足らず……!



「忍の道……極めてみてもいいのかもしれない」



丘に吹き抜ける爽やかな風を全身に受けながら、私はかっこつけてそう言うのだった。






「――っていやムリぃ!?」

『オオオオオォォォォ……!!』




そんな私の鼻っ柱は速攻で叩き折られた。結構物理的に。


『――ォォォン!』

「ひょえっ」


私の鼻先を刀が掠める。

いや無理無理!!しぬしぬっ!!

文字通りの"真剣"が放つ殺気に、私は落武者相手に攻めきれないでいた。


錆びたといえども刀は刀。当たれば致命傷は避けられない。


というかぶっちゃけそれも関係ないもんね!だって腕も脚も曝け出してるんだもの!



私は今、モミジさんよろしく『くノ一』の衣装に身を包んでいる。

スズちゃんが集めてバネさんが作ってくれたという、特注特性のシノビ装束だ。


でも防御力に関しては言わずもがな寄るべもなし。


そして私の手には木製のクナイが一本だけ。

修行の時から持ってて苦楽を共にした(といっても一日だけど)私の大切な相棒だ――――けれど、けれどね?!


もうちょっとなんかくれたっていいじゃんかっ!


奴さんなんて鎧に刀とフル装備だよ?!

こっちにももっと打刀とか手裏剣とかをさぁ!!



「サネ~!ボクとの修行の日々を思い出すんだぁ!あの苦しくも実りのある訓練の日々をっ!」

「いや、日々ってか昨日の今日じゃねーか!オマエがサネならもういけるっつーから今日にしたんだぞ!ちょっとまだ早かったんじゃねーのか?」


いや!二人ともこの瞬間まではイケると思ってたんですよバネさん!


「【落武者】戦闘の肝はいかに素早く人魂を露出させるか、です。基本的に人魂は兜内部に位置しています。よって、いかにして頭部に一撃を加えるかが試験の合否を左右するかと」

「解説のコンちゃんありがと。でもサネはおっかなびっくりになっちゃってるねー。あれだと一発入れるのはなかなか難しいかもよ?」

「くっ……!サネー!動きをよく見るんだー!相手は単調な動きしかしてないよー!」


聴力も上がってるのか、みんなの声は離れていても余す所なく聞こえている。それが今は憎らしい。


頭ではわかってる。わかってはいるんだけれど…


『……オン』


落武者はどっしりと刀を構えて、私の出方を伺っている。

確かに隙だらけに見える……が!

私にとってはその全部がデッドスペースにも見えるのだ。


動きが単調だなんてとんでもない。

この状態の落武者に向かっていくのには、とても勇気が必要なのだ。


まさしく死合いの間合い。どれだけ身体能力に自信があろうとも、武器を構えて待ち構えている相手とは恐ろしいものだと私はここにきて初めて知った。


「ふっ!」


だから私は後ろを取ろうとする。

素早く周囲を駆けて落武者の気を散らして――



『オンッ!』

「うわったったぁ!?」



そしてこうなる。

私が踏み込んだ瞬間を狙っての一閃。

落武者はそれまでぴくりとも動いていないのに、後ろにでも目がついてるのかと言わんばかりに正確な一撃を合わせてくるのである。


というか実際、気配とかそういうのを感知して動いているんだろう。だって目なんてついてないし……



となれば、私にやれる事はただ一つ。



「一撃を掻い潜ってのカウンター……!」



私がコイツに勝つ為にはそれしかない。

たらりと頬の上を冷や汗が流れ落ちた。



私は呼吸を整えて、落武者と正面から相対する。 



それに呼応するかのように、落武者は腕をだらりと下げて錆びた刀を地面に沿わせた。


う、その構えだと距離感が測りにくい……けど!あれなら斬り上げしか出来ないはず!



『…』

「…」



里に備えられた修練場。その石造りのフィールドに緊張感が走る。

外野の皆もそれを感じ取ったのか、固唾を飲んで見守っている。


私たちの間に一陣の風が吹きぬけた。

そしてそれが合図。



私は意を決して第一歩目を踏み込む!



太ももが熱を帯び、後ろに伸ばした腕を冷えた空気が撫で付けていく。

前のめりのまま、私は落武者に突っ込んだ。



(殺気ッッ!)



集中した視覚が刀の動きを察知して、ぞわりと背筋を這い上がった。



まだだ!

まだまだ、まだまだ。

まだまだまだまだまだまだ――――




『オン』




「いっ――――」


まだ、と、思った矢先。

踏み込んだ私の足から力が抜ける。


(うっそでしょ!?)


かくんと突撃のバランスが崩れる。


土壇場、生死を分つ分水嶺の、その緊張感のピークに。


どうやら今までのほほんと生きてきた私の身体が追いつかなかったらしい。

踏み込みが足りない。スピードが足りない。

ダメだ!このままじゃ私がカウンターを入れるよりも先に刀が私を斬る!



刹那の判断!



「うりゃぁ!」


頭を狙うはずだったクナイの一撃。右手を振り上げるその勢いのまま、私は迫り来る刀の横っ面をクナイで叩きつけた。



ガインと鈍い音がして、刀とクナイが宙を舞う。


「……ッ!」「「あぁ〜!!」」

「いや!でもいいよいいよ!その調子だサネ!」


バネさんが息を呑んで、スズちゃんとコンさん声を上げる。

ここに来て初めて、私は自分の心臓が高鳴っていることに気がついた。

鼓動の音がうるさいくらいに耳を打つ。



あっ……ぶなぁ〜〜〜!



まだ少し身体が震えている。

この場において、身体能力は関係なかった。

さっきのはただ、殺気を受けた私の身体が怯んだんだ。


ニンジャに必要なのは精神力。

私には、それが足りなかった。


……スポーツでもやってれば良かったなぁ。そうしたら、もう少しはこの震えもマシだったかもしれない。



これで私たちの死合いは仕切り直し。

私たちはお互いに視線を外さないようにしながら自分の得物を取りにいく。……多分、あいつもこっちを見てるはず。



(……ん?なんでアイツ、刀をわざわざ拾いにいったんだ?)



イメージ……そう、イメージに合わない。

だって落武者はリビングアーマーなわけだ。


つまり、あの甲冑を中の人魂が操ってる。良くわからない力で。

そんなことができるのならば、刀を拾わずとも引き寄せればいい。でもあいつは飛んでった刀をわざわざ拾いにいった。

もっと言えば、ズレた籠手を着け直す動作までしてる。つけてる腕なんて無いはずなのに……


もしかしてもしかすると、人間の動きを再現してる?



(それなら……!)



私に一つの妙案が思い浮かんだ。

やってみる価値は……ある。



「っふぅ〜〜」


深呼吸深呼吸。まだ心臓はバクバクしてるけど問題はない。

これを押さえつけちゃダメなんだ。この緊張感に身を委ねて――――



「走るッ!」



落武者は目なんてついてないのに、尚もその視線は私のことを追っている。


腕で兜を守るように、今度は刀を上段に構えた。

そこが自分の弱点だって理解してるんだ。賢いね。



でも――――



「サネが後ろをとった!」

「いや!反応されてるぞッ!!」



落武者は微動だにしない。でも私は知っている。こいつはちゃんと後ろの私を認識しているし、ここから振り向きざまに刀を合わせてくることを。


全くもって油断ならない相手だ。

だからっ!



『オンッッッ!』



「私の本命はぁ~~~!!」



落武者の完璧なカウンター。その振り向きざまに斜めから迫る一撃をスライディングで躱す!


できる!できる!

私ならできるッ!

その勢いのまま右手を軸に身体を回してっ!




狙うは落武者の――――




「膝裏ァ!!!」

『オン!?』



私のキックが脛当ての上辺りを強く打つ!

落武者はそれに耐えきれずに、無いはずの膝を折って仰け反り倒れた!



「やっ……!」


「「「やった!!」」」

「サネぇぇぇ!!いけー!」




まぁ、とどのつまりはただの『膝カックン』だ。

落武者は"やっぱり"起きあがろうとジタバタしている。



「鎧は重いからさ。倒れたら起き上がるのも一苦労だよね」



私は落武者の掴んでいる刀を踏みつけて……

そのまま兜を蹴っ飛ばした。


甲冑は人魂が動かしてる。そして、それは一つの塊として繋がっていないといけないんだろう。


つまり、核たる人魂の入った兜を失うとどうなるか。


私の足元でがしゃりと甲冑が崩れ落ちる音がした。

向こうに飛んでった兜と人魂はまんじりともせず、ただ地面に転がっている。


私はそのゆらゆらと揺れている人魂をむんずとつかむと、高々く掲げた。



人魂タマぁ!取ったどぉー!」




「サネがやったぞ!」

「うぉおおお!サネぇぇぇ!」


みんなから歓声が上がる。

それで初めて、私の全身に実感が湧き上がった。


なんというか……めっちゃ気持ちいい!

隅から隅まで清々しくって、体が喜びに打ち震えている。これが勝利の悦楽かぁ。



「――よくやったねぇ、サネ」

「あ、ババ様」

「さぁサネや。その子をここに入れておやり」


トッと私の側に現れたのはこの和賀の里長、クレナイさんだ。

御年何歳かわかんないけど、ご老体とは到底思えないほどの身のこなしだね。



ババ様はあの林でモミジさんが持ってた黒い籠を私に差し出した。

落武者狩りはここまでがワンセット。あとはこの人魂を成仏させてあげるのだ。



「……いい勝負だったよ」

『…』


私はババ様から受け取った籠にそっと人魂を入れてあげる。

前と同じく、人魂の入った籠からぼんやりとした青い光が漏れてきた。

うーん、こうやって見るとオシャレなランタンに見えなくもない。


「ツキバミツキハミ……オン!ソワカァ!!」


ババ様がむにゃりと言霊を唱えると、籠の中の人魂がボフンと掻き消えた。

……なんか思ってたのと違う。


成仏ってもっとこう、ふわぁ~って優しい感じだと思ってた。これなんか命を吹き消してない?



「ここまでがあたしゃら女衆の仕事さね。地に彷徨うまつろわぬ魂を事主ことぬしさまの元へと還してあげるのさ」

「ことぬしさま?」

「天高く光る月の身許で、この世界を見守ってくださっているあたしゃらの御神だよ」


よくわかんないけど、つまりはお月様の神様ってことかな?

で、霊界があるのかわかんないけど、コトヌシ様とやらが魂関連の管理者と。



……もしかして、私たちが転移する時に見たあのおっきな月って___



「サネ〜!!おめでとう!ボクは信じてたよ!君なら出来るって!」

「わっとと!……師範!ありがとうございます!」


私の思考を遮るように、真横からモミジさんが抱きついてくる。

みんなも嬉しそうに笑ってる。

なんか…こんなに喜んでくれると嬉しくなっちゃうね。


「よく言うぜ。めっちゃ手に汗にぎってた癖によぉ。……サネ、おめっとさん」

「みなさんもありがとうございます!」

「これでサネも正式に私たちの一員だねー!」

「これからよろしくお願いいたします、サネさん」

「はい!」



「さて、それじゃあサネにも二つ名を授けてあげないとねぇ」



みんなで喜びを分かち合ってると、ババ様がやおらそんなことを言い出した。

あのみんなが持ってる二つ名ってババ様の任命式だったんだ……ババ様結構センスあるね。



「そうさねぇ……アンタは今日から【武者転ばし】のサネだ。名に恥じぬよう頑張るんだよ」

「あ、ハイ」



……なんか、皆のと違って間抜けな気もするけど、まぁいっか。

そんなことよりも今は、この忍として認められたことの喜びを噛み締めよう。



雨降って地かたまる。

お城を追い出された時はどうなることかと思ったけど――――



(奴妻さん。

私、ここで上手くやってけそうだよ)




火照りを冷ます爽やかな風が、私の熱を秋晴れの空へと連れ去って行った。




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