第六話 加速する仮想世界、退化する現実
真琴、士郎、竹丸、鉄平。
四人の若者の加入で、秘密結社零に活気が戻ってきた。
――――2020年、人々は感染症の恐怖で混乱する。口を隠せ、嘘には耳をふさげ。不安は怪異となって現れる――――
元旦からろくでもない預言が出て、光はため息をついた。どこの神社も正月は忙しいが、玲神社は閑散としている。しかし一応、干支のお守りぐらいは売って、正月十五日までは光は羽織袴で過ごす。
神主はアラフォー女一人、巫女も一人、バイトで雇うお金もない。なんと神聖さも縁起もない神社だろう、と思いながら参拝してくれた氏子たちに頭を下げる。
「あけましておめでとうございます! これ、イカ焼き買ってきました。今年もよろしくお願いします!」
理枝が元気よく挨拶をする。
「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
青いニット帽をかぶった、愛らしい輝がぺこりと頭を下げる。
「今年もよろしくお願いします」
光は深々と頭を下げた。
二人ともちゃんとマスクをつけている。
「しかし、元旦からよくない預言が出ましたね。せやけど新しい若い子入ったし、なんとかなるでしょ」
理枝が笑顔で言う。
「そうね。私たちが不甲気ないから、神社の力が働いたのかも。あら、輝くん、また大きくなったね」
白のダウンを着た麻里が社から出てきて言った。感染症で帰国できなくなる前に、と久しぶりに日本に帰ってきた。
「そうだ、これ。感染症予防に。これ韓国のKFマスク、プリーツマスクよりつけやすいし、何よりPM2.5も防げるから丈夫なの。マスク不足になる前に買い置きしてるから、なくなったら言ってね、送るよ」
麻里が理枝にマスクの入った袋を渡す。
「わぁ、ありがとうございます!」
「ありがとう。僕ね、身長伸びたでしょ」
理枝と輝がお礼を言う。
「あー、かわいいなあ。連れて帰りたいよ。この子、絶対、将来はアイドルにスカウトされるイケメンに育つよ」
麻里が輝の頭をなでて言った。
「まりちゃんにはついていけない。だってオカン、一人にしたら危ないやん」
輝が真顔で言ったので、麻里は吹き出した。
「嬉しい」と理枝が涙目で言う。
「あ、LINEきてる」
理枝がスマホを開く。光と麻里もスマホを開いた。
『あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。こちら東京都。混んでいる神社で怪異を発見、士郎くんと祓います』
真琴からだった。
「即行動か、やはり心強いな」
麻里がしみじみと言った。
「ねえ、まりちゃん。三原則世界ね、どんどん早くなってるよ。見た?」
輝が言って社の中に入って水槽を覗き込む。
「この真ん中の大陸が特に進んでる。僕ね、これ見てマインクラフトやってるんだ。でも真似できないぐらい、すごくなってる」
輝が言う通り、三原則世界の人工生物は増え続け、文明は中世ヨーロッパまで進化した。中央大陸は特に平和連と魔術協会の影響で、安定している。
「ほんとだ、よく気づいたね。もはやここまで進むと、作った私たちの手から離れて成長するかもしれない」
麻里がディスプレイを見て言った。
智美が設計した、シンデレラ城みたいなお城があるアステール国。中央大陸の真ん中にある国は交易で栄え、間接民主制まで政治が進化している。
「輝くん、また変化があったら教えてね」
「うん!」
麻里が言うと、輝はマスクをしていてもわかるほど笑顔で答えた。