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第十話 一つ屋根の下の仲間たち

 かつて片想いしていた相手とひとつ屋根の下で暮らす。そんなことが実現すると真琴は思わなかった。

 光の預言にすぐ動けるように、と大阪にしばらく滞在しよう、では神社の境内と横にある屋敷に住まわせてもらおうと考えた。


「僕も、そうしようと思います。玲神社、ここは独特な雰囲気があって好きなんです。それに光さん、一人で預言者と神主さんをするのは大変だから、助けたいんです」


 士郎は微笑んで言った。

 透明感のある白い肌、やさしい瞳。

 彼は忌み地を鎮めた代償で、、不老不死となった。人間では無い。彼は21歳のまま、時が止まっている。


「そっか、じゃあしばらく共同生活だね。よろしく」


「はい、よろしくお願いします」


 なんてことないようにやり取りしたが、真琴は内心は焦っていた。どうしようか悩み、竹丸にLINEした。

 光さんの家で、士郎と同居することになった。既読がついて一時間後「よかったですね」という返事と、鉄平のVTuberチャンネルオカルトネコちゃんのラインスタンプが返ってきた。ネコちゃんがいいね!と言ってるスタンプだ。


 よかったですね、それだけにとんでもない「含み」を真琴は感じた。竹丸はバイ・セクシャルで、かつて忌み地のスーパーマーケットで一緒に働いていたとき、彼は真琴と士郎、二人同時に恋をした過去がある。真琴は竹丸から告白されて、友達としか思えないときっぱりと振った。


 真琴と竹丸は、怨霊に一人で立ち向かおうとした士郎を共に救おうとタッグを組んだ。そして、士郎のための片目を捧げた。そうしないと士郎は地下に閉じ込められ、犠牲にならなければいけなかった。


 真琴と竹丸は一人で犠牲になろうとした士郎の手を掴んで、離さなかった。

 不老不死の呪いは受けたが、士郎は自由だ。彼は忌み地のスーパーマーケットの地下に埋められていた骨を手で洗い、清めて慰霊した。

 士郎は、真琴と竹丸の愛を受け取ってくれた。恋ではなく、人間らしい愛情として。


 なんだか、竹丸とバディを組んだのに一人抜け駆けするみたいで気が引ける。

 しかし、知れば知るほど光は一人でほっとけるタイプではなく、武器用だと知ってサポートの必要性があった。


 光は話下手でコミュニケーション能力が低い。それゆえに神社の氏子は減って社も寂れている。

 境内に士郎が出るようちなると、離れた氏子たちも戻ってきた。


 士郎か食事を作ってくれるので、真琴は屋敷の掃除をした。広い屋敷の居間の一室しか光は使おっておらず、広い屋敷は埃が積もっていた。


 光はよく生きてこれたな、と思うほど生活力がない。水道代や電気代の支払い期限を忘れていて、何度も電気が止まったと言うので、真琴が口座からの引き落としにしてやった。


 親からの遺産はありお金にはそこまで困っているようではない、そして驚くほど光はお金を使わない。楽しみは無料で読める漫画、だそうだ。

 しかし、預言者というのも色々と神経を使って大変だろうと真琴は光を気遣いつつ、士郎にも気をつかった。


 食事を作ってくれるので食器は洗うようにして、風呂も士郎に先に入ってもらった。イラストの仕事で徹夜して、すっぴんの疲れた顔を見られるのが最初は恥ずかしかったが、慣れた。


 しかし一緒に暮らしてるからこそわかる、士郎の美はいつだって崩れない。神社ではすっかり地元のおばあちゃんのアイドルになってしまうのもわかる。

 まだ、気持ちがあるんだ。

 でも、彼と恋人同士になることはできない。

 真琴は士郎と一緒に暮らし、その切なさに気づいてしまった。


  ※


 光は真琴と士郎になるべく干渉しないようにした。


 境内の仕事は士郎がしてくれて、減っていた氏子が増えた。そして彼は食事を作ってくれる。真琴は掃除や細々とした家事をやってくれた。


 申し訳無いと言うと「いいんですよ、預言で疲れるでしょう」と思わず涙ぐむようなことを二人は言ってくれる。

 預言をもっとできる方法はないか。

 光は思い立って、屋敷にある古い文献を探した。世界の危機、それがいつ出現するか多く情報を得たい。


 大正の代の預言者が日記に「朝、丸鏡に水をそなえて手を合わせ、これを飲むことを毎日続けよ」と書いてあった。

 社の丸鏡は、光がほったらかしにしてたのでずいぶん曇っていた。きれいに磨きあげ、コップ1杯の水をそなえて、手を合わせて飲んだ。

 その直後、あの首筋を冷たい手でなでられる感触がした。

 光はすぐに筆を走らせた。


 ――――安倍の陰陽師のいる天に大蜘蛛が出現し生きる気力を食らう。3月8日。

 天を与えられた目で見ろ――――


 すぐに光は士郎と真琴に預言を見せた。


「明日だ! 阿倍の陰陽師……阿部野橋の安倍晴明神社の事じゃないかな」


 士郎が言った。


「与えられた目で見ろ……これは、私の目」


 真琴が右目に手を当てて言った。

 朝の10時、虎猫本舗で会議を開いた。竜也と麻里はリモート中継で参加した。


「敵は空に出る。わかった、うちが行きます。鷹に姿を変えて上空で敵を待つ。輝がやってたように、うちも古墳の中で魔術を鍛えてました」


 理枝は頼もしい答えをくれた。


「では、上空に近い場所に真琴さんと竹丸が行く必要がある。あべのハルカスで待機はどうやろ?」


 鉄平が言った。


「そうね、調度良い所に高い建物があった。士郎くんは地上を守って」


 真琴の言葉に、はい、と士郎は頷く。


「私もすぐ大阪に向かう。それまで、お願いね」


 麻里がiPadから言う。


「俺は仕事が今、忙しくてそっちに行けなくて申し訳ない。三原則世界に何かあったらすぐに言ってくれ。すまん、仕事だ」


 竜也は退出した。


 光はその夜、眠れなかった。士郎と真琴も同じくで、三人は居間で温かいほうじ茶を飲んだ。


「鷹になって飛んでいく元魔王って、カッコイイですよね。理枝さんってほんとすごい、パワフルで明るくて」


 真琴が言った。


「そうですね。理枝さん、年齢とかの概念もなくて、人じゃないのに一番人間らしい」


 士郎が噛み締めるように言う、その通りだと光はうなずく。


「…………あの子がいれば、大丈夫。そう信じて今夜は寝よう」


 光はうとうとしてきて言った。


「おやすみなさい」


 光は真琴と士郎に言った。


「おやすみなさい」


 二人が同時に返してくれる。

 眠る前の言葉がこんなにやさしいなんて、と光は最近、気づいた。

 

  ※


 2025年3月12日。


 理枝は自宅から近くの古墳の中に飛んで入り、鷹に姿を変えて飛んだ。

 あべのハルカスのビルの頂上で、敵を待つ。その日の天気は晴れの予報だったが、昼から曇り空になった。暗雲がたちこめ、灰色の雲から八本の足が出てきた。


 理枝は翼をはためかせ、高く鳴いて、半分人の姿に戻った。鷹の翼を大きくして飛び立ち、蜘蛛の姿を見た。


 下の世界は蜘蛛によって覆いつくされていた。蜘蛛は八本の足を下に伸ばしていく。理枝は剣を胸から腹から取り出して、その足を斬った。連続して三本脚を斬る、しかしすぐにまた足が生えていき、きりがない。そして蜘蛛の胴体はさらに巨大化していく。


 理枝は剣で胴体で刺したが、ダメージを与えられない。蜘蛛の胴体を切り裂こうとすふと、足で払われた。

 蜘蛛の太い足が腹にめりこんで、理枝は血を吐いた。一度ハルカスの頂上に戻る。

 蜘蛛の足が折れてはまた生える、紫色の目で真琴と竹丸が応戦してくれている。

 理枝は蜘蛛に向かって、魔術で雷を落とした。蜘蛛は一瞬だけ震えて、少し小さくなった。蜘蛛の体の上を走り、腹から出した剣を何本も刺した。


 理枝は蜘蛛の足に吹き飛ばれ、ビルに体をぶつけた。息が切れて、目の前が暗くなりそうになる。


 戦わなくては、世界が終わるのに。

 理枝は歯を食いしばった。


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― 新着の感想 ―
あべのハルカス、行ったことがありますが、あの賑わいの中を戦うのは、いくら敵が見えないと言っても大変そうです。 また以前書かれていた怪談の続きがここに合流するのですね…! びっくりしました。
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