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 世界滅亡の預言は広めなければならない。

 人々の集合的無意識「死にたくない」という生存本能を集めて、滅ぼそうとする勢力を打ち砕いてきた。

 災厄の予言を真に理解した者が、人々の目に触れる前に滅亡を消滅させてきた。

 惑星の衝突、大災害、疫病、名前の付けられない怪異を秘密結社「零」が始末してきた。


 ―――世界は七月に終わる。人間の生存本能は限界にきた。死を望む者たちによって地球は破裂する――――


 2025年一月十日、牧田光は筆で書いた預言を何度も読んで、頭を抱えた。

 これは、詰んだ。もう世界は終わる。

 今年が始まったばかりになんということだ。


 光は預言者で玲神社の神主であり、秘密結社「零」の主幹だ。

 過去は神社の縁者たちが結束して預言に立ち向かってきた。

 神社の敷地内に屋敷があり、そこで能力者たちが鍛錬を積み共同生活をしていた。

 滅亡の預言に現れた、人々の思念が集まった怪異、それは選ばれた者にしか見ることができない、祓えない存在である。


 1930年代に第二次世界大戦の悪夢が預言され、戦争阻止のため縁者以外の者も構成員となった秘密結社「零」が発足した。

 しかし戦争は回避できず、その教訓を踏まえて秘密結社は少数の精鋭で世界を守ると固い掟が作られた。

 その一、結社は極秘である。

 その二、自分が授かった力を見せびらかすことはしないこと。

 その三、新興宗教とは一切関わらないこと。

 この掟と人類存続のためにと強い信念で、秘密結社「零」は預言者の「災厄」を回避しようとしてきた。


 牧田光は預言者の一族に生まれた。

 半分廃神社の社の、黒檀の文机に巻物を広げ筆を持つと、自動手記で預言ができる。これは血筋による。光はふっと首を撫でられた気配がするとこの机の前に座して預言をする。


 必ず当たる。


 しかし、光はこの預言を伝えて作戦を立てて仲間とともに世界の終わりを防ぐコミュニケーション能力がない。


 光の両親は六十代で立て続けに亡くなった。

 結社本部の主幹は、四十歳の女性、光だ。

 秘密結社「零」は現在、六人。

 今までの方法では滅亡の危機を救えない、とんでもない預言が出てしまった。


 どうしよう、と光は頭を抱えて過去のことを思い出す。どうやって世界の終わりを回避してきた?

 1999年、十四歳だった光はネットの掲示板に「ノストラダムスの予言は外れる」とだけ書き込んだ。その頃は母が預言者で、怪異の出現場所を予言して順調に祓っていたからだ。


 畑中麻里という親友の存在を光は思う。彼女とは1999年代、ネットで知り合った。彼女とメールでやりとりをして、同じ大阪に住んでいること、麻里が強い霊感を持っていることから、すぐに仲良くなった。

 大阪の田舎者のダサい光と違って、市内に住んでいる麻里は垢抜けたギャルで、会った時は「仲良くなれないかも」と引き気味だった光に対して、麻里は優しく接してくれた。

 彼女に極秘の秘密結社について話すと「何それ、かっこいいやん」と気に入った。


 そうだ、麻里に電話しよう。

 唯一まだ「秘密結社名簿」に名前が載っている麻里に電話した。麻里は不機嫌そうな声で韓国語で電話に出た。

 麻里は女性のパートナーと韓国で暮らしている。


「アンニョン、久しぶり。麻里」


 久しぶりに人と話したせいで、光の声は掠れていた。


「どないしたん?」


 麻里の声がいつもの明るいトーンになった。


「いや、とんでもない預言が出た。今から読み上げる」


 光が預言を読むと、長い沈黙が流れた。国際電話が途切れたのかと思った。


「…………わかった、仕方ない。仕事も一段落したから、一度、そっちに行く。あんたは…………あー。んー、あの子を呼ぶしかない」


 麻里が低い声で言った。


「あの子って」


「忘れたの? 私たちが作った人工世界の魔王ちゃん。あの子の魔力でとりあえず立ち向かうしかないんじゃない」


「あー…………」


 光は思い出す。

 かつての仲間と作った人工世界、三原則世界。

 社の端にある水槽とウインドウズ99を見て、光は考える。


「わかった、そうする。とりあえず、魔王ちゃん、理枝ちゃんを呼ぶ」


 光はうなずいて言った。


「あと、私から元メンバーに声かけてみる。期待はできないけど」


「うん、よろしく。じゃあ、また、よろしくね」


 光はそう言って電話を切った。


 一呼吸して「理枝」に電話する。


「もしもし、あ、光さん! お久しぶりです」


 理枝のハイテンションな声が耳に痛い。


「大変なことになった」


 預言を伝えると、「えーっ!」と理枝が叫んだので光は電話から耳を遠ざけた。


「ちょうど今、仕事終わったから行きます!」


 そう言って電話が切れて、三十分ほどして理枝がトラックで駆けつけた。

 ブリーチした長い髪を一つに結んだ、小さな顔に丸い目の愛らしい顔、身長が低く十代に見える。彼女は社にドタドタと入ってきて、預言を読んで「どっひゃー」と言った。


「今日は二月二十日、あと半月。うちの力の使い時やな」


 理枝がキリッとした顔で言う。


「でもどうしよう。せや、輝をどうしよう。んー輝が心配やぁ」


 その後、眉をひそめて心配顔になる。人の顔って、いやこの子は正式には人ではないが、こんなに表情豊かなんだなぁと無表情で光は思う。


 田中理枝、元魔王。彼女は人工生物と人間の間から生まれた生物だ。

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