旅行における居酒屋の意義
今日回る予定の場所をすべて回り終え、お土産も買い終えた。辺りはすっかり暗くなり、駅周辺も帰宅ラッシュの人が増えてきた。
「さて、いよいよ……この時間がやってきたぞ」
「飲み、ですね!!」
「照乃は酒は飲めるのか?」
「それなりには。的矢さんは……言うまでもないですね」
「会社の同僚からは、酒豪と言われているぞ」
実際、俺は相当に酒に強い。こればっかりは体質だし、酒好きとしてはそういう体質に産んでくれた両親に感謝である。
「まずは店選びですね、的矢さんはどの店に行きたいですか?」
「そうだな、旅行で居酒屋を選ぶ際にまず俺が優先することは……ご当地グルメがどのくらい充実しているかだ」
「フードで選ぶんですか?」
「ああ。照乃、今回の旅行の計画書でチェックしたグルメ、どのくらい消化できてる?」
「えっと……6,7割といったところですね。意外と未消化のモノが多いです」
「実際に旅行をしてみれば分かるんだが、案外そんなモノだ。ご当地グルメと言ってもメジャーなモノからマイナーなモノまであるし、季節限定のモノもある。人気店はその日の予約が埋まってしまって入れない場合もあるしな、特に高級なモノはその傾向が強い」
これはとにかく厄介な問題であり、その度にタイムテーブルを組みなおさないといけなくなる。まあ、今はAIがあるだけ恵まれていると言えなくもないが。
「なるほど。で、それと居酒屋の何の関係が?」
「実は居酒屋っていうのはそういう問題を解決するのに非常に便利なんだ。日中の名所巡りで食べれなかったご当地グルメは夜に居酒屋で食べる、この流れは旅行における鉄板だ」
「居酒屋っていうとお酒ってイメージがありますけど、そういう使い方もできるんですね」
「ああ。だから旅行者で酒に弱かったりそもそも飲めない人も、夜に居酒屋は利用した方が良い。正直、居酒屋を使わずにご当地グルメをすべて消化するのは簡単ではない」
「お酒を飲まなくても、一つの飲食店として使っても良いわけですからね」
実際、それだけ今の居酒屋はフードが充実している。お酒を飲まなくても飲食店として十分に楽しめる場所なのだ。
「それじゃ、まだ未消化のご当地グルメを扱ってる店を探しましょう。といっても、どうやって見つけるんです? やっぱりAIですか?」
「いや、これに関してはAIを過剰に頼らない方が良い。もちろん指針にするのは構わないが、情報が古くて今は取り扱っていなかったり、その店自体が潰れている場合もある」
「そ、そんなことあるんですね」
「実際、それで痛い目見たことあるからな。だからAIで探してから行く場合は、事前に電話することをお勧めする」
「リアルタイムで聞けば、間違いはないですからね」
何だかんだで、リアルタイムに店自体に直接聞く以上に正確な方法はない。その辺りはAIもまだ及ばないところだろう。
「それじゃ、的矢さんは基本歩いて直接見て探す派ってことですか?」
「そういうことだ。直接見るのが一番正確で細かい情報が分かるし、そもそもネットにすべての情報が載っているとは限らない。居酒屋は日によって扱う料理も変わったりするしな」
「確かに。ですけど、歩き回るといっても時間は有限ですし、大きな駅周辺は広いですよ? ある程度の指針は欲しいと言いますか」
「そうだな、指針としては飲み屋街や飲み屋通りを見つけることだ。大きな駅周辺であれば、結構あるし」
「つまり、飲み屋が集まっている場所ってことですね」
「そういうことだ、これに関しては事前にネットで調べることもできる」
何だかんだで駅前というのは商売をする者にとって美味しい場所だ、当然飲み屋も駅前に集中するケースが多い。
「場所さえ分かれば、あとはスマホの地図アプリにナビしてもらえば簡単に着ける。飲み屋街や飲み屋通りはご当地グルメを推す店も結構あるから、予備知識が無くても何とかなるものだ」
「商売をしている人達にとっても、ご当地グルメを求める旅行者は大切な顧客なわけですしね」
「そういうことだ。それにそういう場所はその地の食文化が明確に分かるから、歩くだけでも楽しい。夜はみんな開放的になってるから、その地の人達の特徴も楽しめたりするし」
「良いですね、そういうの。えっと、この辺りだと……ここに飲み屋街がありますね、行ってみましょう」
照乃が調べてくれた飲み屋街に、俺達2人は向かった。さすがに大きな駅の近くの飲み屋街、活気がある。普段住んでいる関東とは違う色があり、これもまた乙なモノだ。
「的矢さん、まずはここはどうですか? ご当地グルメを結構扱ってるみたいですし」
「そうだな、まだ消化できていないモノもメニューにあるようだし」
「ふふ、初めての的矢さんとの2人っきりの飲み、楽しみです♪」
「あ、ああ……」
そう言った照乃の笑顔は非常に眩しかった。お酒は人の本音を引き出してくれると言うが……お酒やご当地グルメ以上に、無防備な照乃が見れるのが的矢は楽しみで仕方がなかった。