景勝地とお土産
その後もほぼ計画通りに進み、俺と照乃は今日最後の名所に来ている。照乃は景色の素晴らしさに感動しているようだ。
「凄いですね……まさに絶景です」
「何だかんだで長い時間をかけて築かれてきた自然の素晴らしさっていうのは、今の進んだ科学でも完全に再現は出来ないと俺は思ってる」
「そうですね。ネットで写真を観ることは出来ますけど、やっぱり現場で実際に見るのとは臨場感や迫力が違います」
「だからこそ、どれだけ科学が進化しても人は旅行をやめないんだろうな」
今はVRもあるし、グルメだって物産展や通販で全国どこにいても日本中のグルメを堪能できる。だけど、それでも人が旅行を愛し続けるのは現場でしか味わえない【特別】があるからなんだろうな。
「ここは明るいうちに見ても綺麗なんでしょうけど、夕方だからこそ美しさがより際立っているように見えます」
「景勝地ってのはそういうものだ。明るいうちの方が綺麗な場所もあるし、夜の方が綺麗な場所もある。営業時間が限られているレジャー施設と違って、景勝地ってのは営業時間がないところも割とある。だからこそ、こういう場所はその日の最後に訪れるのが良いかもしれないな」
「和風庭園と同じく、こういうところは写真だけじゃなく動画も撮っておきたいですね」
「撮影範囲が広いだけじゃなく、音声も記録できるのが動画だからな。景色ってのは視覚だけじゃない、聴覚も含めて総合的に楽しむものだ」
もちろん場所との兼ね合いもあるだけに、その日の前半に訪れないといけない場合もある。それぞれの場所の営業時間や一番良さを味わえる時間帯を考慮し、最適の順番と組み合わせを事前に考えておくのが大事だろう。
「さてと、時間的にそろそろ今日泊まるホテルの最寄りの駅に戻った方が良いだろうな」
「その前にお土産、ですね」
「うむ。今日色々なところに行って、あちこちにお土産屋があったが、どうだった?」
「的矢さんが言うように、最初に新幹線を降りた駅のお土産屋さんを見ておいてよかったです。最後に頼れる場所があるって、凄く助かりますね」
「だろ? だからこそ、旅行で泊まるホテルは新幹線が停まる駅から近い場所が良い。お土産にせよ夜飲むにせよ翌日のことを考慮するにせよ、一つの場所で済むに越したことはない」
「この後お土産を買ってすぐ飲みに行けますし、電車の時刻を気にしないで済みますし、明日朝早く次の県に迎えますし、良いことずくめですね」
もちろんみんな同じことを考えるがゆえにホテル予約のハードルは低くないが、その分大きな駅の周辺は宿泊施設が多い。贅沢を言わなければ、何とかなるものだ。
「ところで的矢さん、お土産を買う時のコツを改めて教えてもらえませんか? 個数が大事とか、その地の名産やグルメに関するモノが良いとか、箱に入っているモノは角ばってるから荷物スペースを圧迫するとかは聞きましたが」
「そうだな、ここからは好みにもよるが……甘い系と旨味系の2つを意識すると良いぞ」
「甘い系と旨味系、ですか?」
「甘い系はそのままの意味だ、クッキーや和菓子やチョコやケーキなんかが該当する。旨味系は反対に甘くないもの、珍味や煎餅やスナックや加工食品あたりが該当する」
「つまり、どっちかに偏らないようにってことですか?」
「そういうことだ。もちろんあくまで好みの問題でしかないが、俺は複数買う場合は両方をバランスよく買うようにしている」
人それぞれ好みは違うだけに一概には言えないが、裏を返せば好みが分からない場合は両方をバランスよく買っておけば何とかなるとも言える。
「私は甘い物が好きですから、甘い系を買いたいですが」
「なら、基本はその地の名産の果物に関するのが良いだろうな。美味しいし、みんな知っているだけに楽しみやすい」
「旨味系の場合は?」
「その地の名物料理や肉・海鮮に関するモノだな。加工食品はお土産用だけではなく、自分で楽しむ用にも買っておきたいところだ。家に帰っても、それを食べることでしばらく旅行気分の余韻を味わえるからな」
「良いですね。それじゃ私は、この地の名産の肉を使ったカレーと海鮮の缶詰にお茶漬け、それと名物ラーメンの袋詰めを」
自分用のお土産は非常に大事だ。旅行は数日しか現地にいることは出来ない、それだけに自分用のお土産はより長く旅行を味わうためのマストアイテムなのだ。
「あとは酒も見ておきたいところだ。重くて幅を取るのが問題だが、その苦労をしてでも地方の酒を家でも味わえるのは価値がある」
「的矢さんはワイン派でしたっけ?」
「そうだな。旅行に行く時には、その県に有名なワイナリーがないかチェックはしてる」
「日本のワインも年々進化しているって聞きますしね」
「現実的にはワイナリーに行く時間が取れない場合が多いだけに、お土産屋でその地のワイナリーのワインが買える場合は買っておきたいからな。荷物の幅を取るのが問題なら、小さいサイズを買うという手もある」
「ちょっと楽しむ程度なら、値段を考えてもアリかもしれませんね」
こうして俺と照乃はワイン談義をしながら、お土産選びを楽しんだ。ちなみに俺は赤ワイン派、照乃は白ワイン派のようだ。