和風文化と回る順番
「わあ、壮観ですね!!」
「高層建築物は都会にはたくさんあるけど、やっぱりこういう長い歴史を重ねてきた建物から見る眺めっていうのは一味違うからな」
「景色そのものもそうですけど、最上階に至るまでのルートも関係あるんでしょうか?」
「だろうな、有名な観光地は名所に至るまでのルートも魅力的だと聞くし」
俺と照乃は早速、有名な城に来ている。何だかんだで城は日本の観光の目玉の一つだ。その美しさや個性、迫力は特別なモノがある。
「城の周りには庭園があるみたいですね」
「必ずあるとは限らないが、ある場合は絶対に見ておいた方が良いぞ。和風庭園はそれだけで一つの芸術だ、写真だけじゃなく動画も撮ることを勧める」
「早速行ってみましょう!!」
ウキウキ気分の照乃を連れて、城に隣接した和風庭園に行った。照乃は一度深呼吸をし、穏やかな笑みを浮かべた。
「何と言いますか……落ち着きますね、心が癒されると言いますか」
「洋風にももちろん良さはたくさんあるが、和風庭園の独特の趣や癒される感は唯一無二だと思うぞ」
「そうですね……的矢さんが動画に撮ることを勧めるのも分かる気がします」
「城の主が和風庭園を造りたがるのも、分かる気がしないか?」
「気苦労が多いでしょうからね……こういう癒される空間が欲しいんじゃないかと」
あくまでそれは想像でしかないが、的外れってことはないんじゃないかと思う。現代になっても取り壊されないのも、現代の人にとっても魅力的な場だからという理由もあるのではないだろうか。
「そういえば、名所やレジャー施設を回る順番ってどう決めているんですか?」
「まあ、最優先は営業時間だな。これはそれ単体だけで見てはいけない、その中にある飲食店やお土産屋等のも見て判断すべきだ。すべてが同じ営業時間とは限らない」
「なるほど、閉館時間まで余裕があると思っていたら飲食店は既に閉まっていた、とか嫌ですもんね」
「あと営業開始時間なんだが、行きの新幹線が停まる駅からの距離にもよるから早いところから常に回れとは一概に言えないところもある。営業開始時間は早くても駅から何時間もかかる、では本末転倒だ」
「な、なるほど」
実際、行きたくても新幹線駅から遠くて泣く泣く諦めないといけない場合もある。そこは取捨選択を何度も試行錯誤するしかないのだ。
「コツとしては、まず遠かろうが絶対に外せない軸となる場所を決める。そこに行くのを前提として、あとはそれより優先度が低い場所を営業時間や距離を見ながら決めていくという感じだ」
「なるほど。名所やレジャー施設だけじゃなくグルメもあるので、悩みますね」
「グルメも優先度を決めておくのが大切だ。メジャーなモノは割と色々なところで食べられるから、それこそ夜に回しても良い。その地でしか取れないとかその季節にしか取れない、というモノは優先した方が良いだろうな」
「それじゃ、この後はここに行きたいです」
「ふむ、俺もそう思っていたから問題ないぞ」
次に行く場所は決まったが、立地的に電車やバスでは難しそうな場所だ。旅行に行くと、どうしてもこういう場所にぶちあたることになる。
「うーん……これはタクシーでしょうか?」
「だな、特に面積が広くて自然が多い都道府県は、電車やバスだけで回ろうとするのは難しい」
「そういう都道府県は、自家用車で来るのもアリかもしれないですね」
「やはりそこも使い分けだ。タクシーは確かに料金は高いが駅やバス停の場所にとらわれないし、電車やバスの本数が少ない所では非常に重宝する。時には使いたいところだ」
「なるほど。それじゃ、早速料金を調べてみますね」
そう言い、照乃はAIを使ってここから目的地までのタクシー料金を調べ始めた。
「ちょっと待て、照乃。タクシー料金に関しては、AIで調べない方が良い」
「そ、そうなんですか?」
「正直、タクシー料金に関してはAIの計算はガバガバだ。実際は、それよりずっと高くなるケースが多い。ちゃんとしたサイトで調べるか、タクシーの運転手に聞くのが良い」
「AIも万能ではないんですね……」
「まあな。とはいえ非常に有能なのは変わりない、タクシーを呼びたい時も『〇〇の近くにいますがタクシーを呼びたいです、近くのタクシー会社を教えてください』と入力すれば該当するタクシー会社の名前と電話番号を教えてくれる」
「やはりこれも使い分けですか。今、タクシー呼びましたよ」
照乃が呼んでくれたタクシーに乗り、俺達は目的地に向かった。料金的にもさほど高くないし、問題なさそうだ。
「ん?」
「どうしました、的矢さん」
「スマホの電池が結構減っているな……まだ半分くらいはあるけど」
「ふむ……それじゃ」
「ちょ、照乃!!??」
突然照乃が俺にくっついてきた。いや、嬉しいんだけどさ……目の前にはタクシーの運転手がいるわけで。
「て、照乃……どうしたんだ、急に」
「どうしたって、充電に決まってるじゃないですか」
「あ……そっか」
そういえば俺がスマホを持っていても照乃が俺にスキンシップすれば、間接的にスマホの充電が出来るんだったか。
「でも、照乃がスマホを持てば」
「その間、的矢さんがスマホ使えないと効率悪いじゃないですか」
「た、確かにそうだが……」
「いやー、熱々ですねお客さん」
「そ、そう見えます?」
タクシーの運転手がニヤニヤしながら俺達を見つめてくる。そりゃ、周囲からすればバカップルにしか見えないだろうが……
「若くて可愛い彼女さん、羨ましい限りですよ。カップルで旅行ですか?」
「はい、そうなんです」
「ちょ、照乃!!??」
「そういうことにしておかないと、説明ややこしいですよ?」
「……おっしゃる通りで」