時間と交通手段
「起きろ照乃、朝だぞ!!」
「うーん、もうそんな時間……って、まだ4:30じゃないですか!!」
「始発電車で行くんだから、当然だろ」
「は、早く寝ておけと言っていましたけど……そういうことだったんですね」
目をこすりながらむくりと起きだした照乃を見て、俺はドキッとしてしまった。パジャマ姿に抜群のスタイルと寝ぼけた感じの表情、目の保養以外の何物でもない。準備を済ませ、俺達は駅に向かって歩き出した。
「それにしても、始発電車はさすがにやりすぎじゃないですか?」
「そうでもないぞ、一日ってのは意外と短い。考えてみろ、一般的なレジャー施設の営業時間は何時から何時だ?」
「えっと、基本的には9:00~17:00かと」
「そうだな。もちろん場所によって違いはあるが、大枠は同じだ。で、近場ならともかく違う地方に行くとなると、新幹線を使った場合でも大体数時間はかかる。北海道や九州とかの極端に遠い地の場合は、もっとかかる」
「た、確かに」
照乃は納得した表情で頷いた。まだ眠気が残っているのか、眠気覚ましのドリンクを飲んでいる。
「もちろん一日に行く場所が少ないなら、そこまで急ぐ必要もないかもしれない。だが、俺の旅行の指針は『一日一県、可能な限り多くの名所を回る』だ、スタートが早ければ早い程多くの場所を回れるだろ?」
「なるほど。ちなみに、飛行機を使うって選択肢は?」
「もちろんそれもアリだ、北海道や九州なら猶更な。だが、俺は基本的に新幹線派だ。これはあくまで優先するモノや好みの違いであって、これ一択というのはない」
「ふむふむ、つまり使い分けが大事と?」
「そういうことだ、俺だって飛行機を使うこともある。今回はさほど遠距離な場所でもないから、飛行機でも新幹線でも所要時間はさほど変わらない、だから好みも含めて新幹線ってわけで」
照乃が首を傾げた。まあ、これに関しては仕方がない、先入観と言うのはあるからな。
「飛行機の方が速いんじゃないんですか?」
「それ単体の移動時間だけならな。だけど飛行機には搭乗手続きがあったり、空港から主要駅までの距離が離れている場合が結構あるゆえにその移動時間もある。結果、総合的にはあまり変わらないなんてことがままあるんだ」
「な、なるほど」
「ちなみに飛行機は値段が高いってイメージがあるが、早期予約による割引とかを使えばむしろ新幹線より安くできる場合もある」
「何だか結構イメージと違うところがあるんですね」
「だから、新幹線と飛行機は事前にしっかり調べて使い分けをすることが大事ってことだ、あとは好みの問題。そろそろ駅に着くぞ」
駅に着き、改札を通った。新幹線に乗れる駅までまず行く必要がある、ちなみに交通系マネーは照乃の分を渡し済だ。
「相変わらず便利ですよね、自動改札って」
「そうだな、今はスマホに交通系マネーを入れることも出来るわけだし」
「何でもスマホで出来る時代ですね」
「……だが、そこが落とし穴だ。旅行の鉄則だが、ある程度現金も持っていろ」
「そうなんですか?」
照乃は驚きの表情を浮かべた。まあ今は買い物に現金を持ってこない人もいると聞くし、仕方がないか。
「今の時代は交通系マネーが使えて当たり前と思いがちだが、実は使えない駅というのもそこそこあるんだ」
「そうなんですか!?」
「『こんな有名な駅なのに!?』ってケースもあったりするからな。あと、バスやタクシーで交通系マネーが使えない場合もある。レジャー施設や飲食店も同じだ」
「そ、そうなったら現金がないと困りますね」
「常に傍にATMがあるわけじゃないし、ATMも24時間お金をおろせるとは限らない。現金は事前に多めに準備しておくのが大切だ」
「りょ、了解です、的矢さん!!」
照乃はそう言って、敬礼のポーズを取った。うーむ、美少女は何をしても絵になるからズルいというか……
「ちなみに、お札はなるべく1000円札多めで持っておくのが良い。10000円札に対応している機械ばかりじゃないし、タクシーの場合運転手さんに迷惑かけることになるからな」
「な、なるほど。そういえば、交通手段を自家用車にするっていうのは?」
「それも一つの選択肢だな。メリットとしては公共の交通機関のように時刻表に左右されないことだ、公共の交通機関が稼働していない時間帯にも動けるしな」
「ふむふむ」
「あとは荷物を多く持てる。電車や飛行機の場合、荷物は手で持つかリュックサックに入れることになるから量が限られるしな」
「結構メリットありますね」
照乃は車旅行に興味津々の様だ。確かにその面では車は便利だが……
「一方でデメリットとしては、まず渋滞に巻き込まれることがあることだ。特に事故渋滞は予測することすら難しい」
「た、確かに」
「あと、運転はどうしても心身ともに疲れるということだ。電車や飛行機はその点では、移動中に寝ることもできるからな」
「電車で寝ても大丈夫っていうのは、治安の良い日本ならではですね」
「あと、何より……運転中は酒が飲めない。電車や飛行機はその点、朝だろうが昼だろうがいつでもどこでも飲める、この解放感は素晴らしいぞ!!」
「は、背徳感が……ですが、それが良い!!」
実際、俺が交通手段に自家用車を選ばないのは酒の問題が一番だ。酒好きに旅行で酒を飲むな、は拷問でしかない。
「あと、駐車場の問題もあるしな。慣れない未知の場所では、都合よく駐車場を見つけることが出来るとは限らない」
「そ、そうですね」
「とはいえ、魅力的なメリットも確かにあるのが自家用車だ。これもまた、使い分けだな」
「はい。それじゃ、新幹線に乗れる駅に向かいましょう、的矢さん!!」