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照乃の異変と諒

 それからも俺と照乃は色々なところへの旅行を楽しんだ。元々一人旅が好きな俺だが、無邪気で可愛い照乃との旅行は癖になる楽しさがあり、もはや照乃と一緒に行かないという選択肢はなかった。ただ、楽しい一方で気になることもあった。


「照乃、大丈夫か?」

「……あ、はい、大丈夫ですよ」

「眠そうだな、何だか最近眠くなるのが早くなってないか?」

「ふふ、的矢さんが積極的に私にくっついてくるからじゃないですか?」

「そそ、そんなわけないだろ!!」

「どうでしょうねえ、前は遠慮していたのに最近は結構受け入れている気がしますよ」


 照乃はそう言って、小悪魔的な笑顔を浮かべた。正直、言っていることはあながち間違いではない。照乃はこれだけ可愛くて、しかも甘えん坊だ。最初のうちは理性で抑えていたがそれも限界があるし、何より自分が照乃に段々と惹かれていっているのは否定しようがないのだから……


「ですから、気にせず楽しみましょう。ほら、飲み屋探しますよ」

「あ、ああ」

「……」


 だが、旅を重ねるにつれて照乃が眠くなるタイミングはどんどん早くなっていった。あくまで照乃は笑って誤魔化すが、もはや笑い事ではない。照乃も若い女の子だ、俺のハードな旅行に付き合って疲れが溜まっているのかもしれない。しばらく旅行は控えるか……


***


「田尾、どうしたんだ、何だか元気がないが」

「辺留……いや、何でもない」

「ちょっと前まではむしろ以前にもまして楽しそうだったんだけどな、遂に彼女でも出来たんじゃないかってくらい」

「はは、そんなわけないだろ」


 辺留を含め、会社の同僚には照乃と一緒に旅行に行っていることは内緒にしている、冷やかされるのが目に見えているからだ。しかしそうか、そんなに分かりやすかったか……


「まあ、何かあったら言えよ、相談に乗るからさ」

「分かった、ありがとな」

「……」


 何だかんだで辺留は良い奴だ、そう思いながら仕事をこなし、休憩時間に休憩室でコーヒーを飲んでいた時のことだった。


「あの……田尾君」

「紅宮、どうした?」


 紅宮諒(こうみや りょう)、同じ部署の子だ。同期だが本人が大人しい性格なこともあり、今まで積極的にコミュニケーションは取ってこなかった。といって仲が悪いわけではなく、可もなく不可もなくという感じだろう。


「何だか最近元気がないように見えて……心配で」

「ありがとう、紅宮は優しいな」

「そんなことは……ねえ、田尾君って旅行好きなんだよね?」

「そうだが」


 俺の旅行好きは有名だ、同じ部署の人間なら誰でも知っているだろうから特に驚くことでもないのだが……


「その……来週の週末、2人で旅行に行かない?」

「……ええ!?」

「ご、ごめん、驚かせちゃって。実は私も旅行が好きなんだけど、私ってこういう性格だからなかなか一緒に行く人を誘えなくて」

「同じ旅行好きな俺なら、誘いやすいってこと?」

「それもあるし……これが気晴らしになって元気になってくれたらって思って。ごめんね、何だか利用しているみたいな感じで」

「いや……気にするな、そんな風には思ってないよ」


 紅宮は周囲への気遣いが出来る優しい奴だ、多少の打算はあるかもしれないが決して悪意からくるものではないだろう。さすがに即決は出来なかったので保留にしてもらうことにし、仕事場に戻ると辺留がなぜか膨れっ面だった。


「おい田尾、休憩室で紅宮と二人っきりで何話していたんだ?」

「いや、別に。何だか元気なさそうだからどうしたのって心配してくれてな」

「何だ、そういうことか。うーむ、俺もちょっと体調不良になってみようかな」

「社会人にあるまじき台詞だな」


 そういえば、辺留は紅宮のことを気に入っているんだっけか。辺留だけではない、紅宮は同じ部署の男にかなり人気がある。可愛くて優しく、大人しい性格も男からすればお淑やかで『守ってあげたい』感がするのだろう。そう考えると、紅宮から旅行に誘われたってことは周囲からすれば相当に羨ましい話なのではないか?


***


「諒との旅行か……」


 あの後、今までとは比べ物にならないくらい紅宮から話しかけられ、『紅宮って言いにくいから、諒で良いですよ』と半ばごり押しで名前呼びになった。さすがに2人の時だけにしてくれと頼んだが(辺留に聞かれたら、何をされるか分からないからだ)。


 諒との旅行、確かに魅力的だ。同じ旅行好きとして気が合うだろうし、部署のアイドル的存在の彼女と一緒に旅行に行けるということ自体、世間的に見てもラッキーそのものだ。それに……


「ただ同じ趣味ってだけで、女が男を旅行に誘うわけないよなあ」


 自惚れかもしれないが、諒は俺に好意を持ってくれているんじゃないかと思う。今日も時々頬を赤らめていたのを見てしまったし、俺も諒のことは嫌いじゃないし魅力的な子だと思っている。でも……俺は……


「的矢さん」

「な……何だ、照乃か。どうした?」


 ノックもせずに俺の部屋に照乃が入ってきたので、びっくりしてしまった。何だろう、諒のことを考えていたからか、何だか罪悪感みたいなものが……


「急なんですけど、明日から旅行行きません?」

「え、でも今週は旅行は行かないって、2人で決めただろ?」

「そうですけど、すぐに行きたい場所が見つかったんですよ」

「まあ、今からでも宿は取れるだろうし、俺も予定はないけど」

「それじゃ決まりですね、準備して早く寝ましょう」


 何だろう……妙に急いでいるというか、有無を言わさぬ強引さがあるというか。照乃らしくないような気がする。


***


 翌日、俺と照乃は一泊二日の旅行に出かけた。今回は照乃のリクエストの地だが、今まで以上に照乃は色々と希望を出してきた。甘えん坊な照乃なだけに決しておかしくないのだが……


「なあ照乃……何かあったのか?」

「……いえ、何もないですよ。それより次はここに行きたいです」

「まあ、大丈夫だが」


 やはりおかしい、照乃は行く場所を決める際は俺の希望も聞いていた。何を聞いても照乃はのらりくらりとかわすだけで……どこかもやもやした気持ちを抱きつつ一日目の観光が終わり、俺達は宿泊先のホテルに来ていた。


「それじゃ的矢さん、先にお風呂入って下さい。私は充電していますから」

「別に急いでいないし、照乃の充電が終わってからでも」

「的矢さん、それは効率が悪いです。私だって、それなりに旅行には慣れてきたんですから」

「あ、ああ……」


 照乃の言っていることは筋が通っているだけに、頷くしかなかった。まあ、確かに俺も疲れが溜まっている。ゆっくり休んでから考えるべきかもな。


***


 翌朝起きて周囲を見渡すと、照乃はまだ寝ていた。早起きでいつも俺より先に起きている照乃にしては珍しい、やはり疲れが溜まっているのだろうか。


「照乃、朝だぞ」

「……おはよう、ございます」

「妙に眠そうだな、夜更かししたのか?」

「そういうわけでは……ないんですが」

「じゃあどうして……!!??」


 もしかしてと思い、俺は照乃の右手を確認した。いつもそこに照乃のバッテリー残量が表示されているのだが。


「充電、されてない……それどころか、減ってる?」

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