04 二つ目の失敗
半年ほどたったころ、リオン様は私を裏庭に誘うようになった。
人目から隠れたベンチが一つあるだけの場所だ。
本当ならそんなところ、行っちゃいけなかった。
でも、もう私はリオン様に恋をしていた。
麻痺もしていたんだと思う。
お昼ごはんを持ち寄って、たわいない話をして。
嘘でも、愛をささやかれれば、嬉しかった。
その頃にはリオン様と会うことが、学園に通う心のよりどころだった。
教科書が破られたり、汚されたり。
すれ違いざまに小突かれたり、足をかけられたり。
物が無くなったのも一度や二度ではなかった。
校舎の裏に呼び出されるのも日常茶判事だ。
女子生徒たちが入れ替わり立ち替わり呼び出しては、嫌みを言われた。
「ミア様がかわいそう」
「殿下に色目を使うなんて……」
言われたからと言って、特に何かを感じることも無い。
そんな言葉はどこにでも転がっている。
黙って聞いていれば相手はやがて満足していなくなる。
その日も、父の前に立っている気持ちで、それが通り過ぎるのを待っていた。
「貴女なんて愛人にもなれないわよ」
なしのつぶてに疲れたのか、女子生徒たちはそう捨て台詞を吐いた。
愛人との言葉に、私ははっとした。
そんな風に見えるのかと。
いや、そんな風にしか見えないだろう。
よく考えれば分かることだ。
リオン様には、ミア様と言う婚約者がいるのだから。
「カレン!」
ショックで泣きそうになっていたところへ、リオン様がやってきた。
慌てて逃げ去る女子生徒と私を見比べて、悲しそうな顔をする。
「何か言われたのかい?」
「いいえ、何も。良くあることです」
笑顔を作ったつもりだった。
でも、リオン様を見ると涙が出た。
「嫌がらせを受けていると聞いた……私のせいだね?」
そうじゃない、そう言いたかった。
「大丈夫、私に任せておいて」
リオン様はそう言って、行ってしまった。
呼びとめようとしたけど、頭が働かなかった。
暫くして、リオン様がミア様を呼び出し、その後大慌てで学園を後にした、と聞いた。