11 共同戦線
リオン様に背を向けて一週間。
リオン様が今もあの裏庭に足を運んでいることは知っていた。
親切な人がすれ違いざまに教えてくれたから。
リオン様に心で謝りながら、私は一人、ヒューイ様とミア様を追いかけていた。
ヒューイ様とミア様には申し訳ないけれど、リオン様を助けるためと思って、頑張った。
死ぬ気でやれば、出来ないことは無い。
と言うのが奥様の言葉だ。
同じ教室の生徒たちが、一人また一人と、私からヒューイ様たちをかばうようになった。
それでも私は、ひたすらヒューイ様を追いかけ、絡みついた。
そうして一ヶ月。
お二人の周りの生徒の殆どが敵になった。
そして、私はとうとう生徒たちに捕まって、囲まれた。
彼らは私を馬車に乗せて、どこかへと連れて行った。
―――あぁ、きっと殺される。
そう思ったけど、違った。
馬車から降ろされ通されたのは、立派なお屋敷の応接室だった。
いつもなら乱暴に私を押しのける生徒たちも、今日はそんなにひどくない。
不思議に思っているところに現れたのは、ヒューイ様とミア様だった。
「無理矢理連れてきてしまって、悪かったね」
「でも、学園だと、ちょっと話しにくいことなの」
ヒューイ様とミア様はやっぱりいちゃつきながら、そう言った。
状況が良く分からない。
きょろきょろと所在なくしていると、生徒の一人が教えてくれた。
私を取り囲んだ人たちは、母と奥様の根回しで私のことを親から伝えられた人たちだった。
みんな私のことは嫌いだったけど、リオン様のことは尊敬できる。だからこんな風に終わらせるわけにはかないって、協力を申し出るつもりだったと言う。
ミア様たちには伝えるつもりはなかったが、半月ほど前に話し合っているところを偶然聞かれてしまい、この状況になってしまった。
「この一ヶ月、君のことを観察させてもらった。私に対する情熱は、演技とは思えなかったよ」
豪快に、ヒューイ様が笑った。
「本当に! とっても素晴らしかったわ!」
ミア様も、ご機嫌だ。そして私を見据える。
「わたくし、はっきりと感じましたの。カレン様の本気を。だから……わたくしたち決めましたの」
「へ?」
何を?
「カレン様、リオン様を助ける仲間に、わたくしたちも入れていただけませんか?」
「え、え、あの、でも」
どうして、と言う言葉は続かなかった。
ヒューイ様とミア様は顔を見合わせてから、私に向かってほほ笑んだ。
「殿下は、わたくしにとって幼馴染で大切な人。恋人や、それ以上の愛をはぐくむことはできませんでしたが……もう家族でしたの」
ミア様はそう悲しそうな顔をした。
「わたくしの父と母は恋愛結婚でした。わたくしも殿下と、父と母のような家庭を持ちたいと思っておりましたから、ずっと考えていましたの。このままわたくしも殿下も恋を知らないまま結婚をしていいのかと……」
それから、こぼれんばかりの笑顔になる。
「そんな時ですわ。殿下とカレン様が見つめあっているところを見たのは。わたくしとても嬉しかった。殿下が恋をしているって! ですから、わたくしは殿下の初恋を応援したかったのです。ですが……」
また一気に暗い表情になる。
「わたくしは方法を間違ってしまったのです。殿下ばかりを見て、カレン様のお気持ちを考えず先走ってしまった。……お父様や陛下に申し上げる前に、カレン様に声をかけるべきだったと……ヒューイ様にも怒られてしまいました。ですからこれは、わたくしの罪滅ぼし……」
罪滅ぼし?
悪いのは私なのに?
ミア様だって、絶対に傷ついていた筈だ。
「ミア様は何も悪くないです。悪いのはみんな私なんです。リオン様にちゃんと断わらなかったから!」
「断われるはずないよ……だって、フレイア嬢はリオンを好きでしょう?」
言ったのはヒューイ様だ。
「君こそ、これでいいのかい? 私はミアが好きだったから、こうなって嬉しいけれど、リオンには少し後ろめたい気分なんだ……出来れば、君にもリオンにも幸せになってほしいと思っている」
皆がその言葉に、大きく頷いた。
「私たちも悪かったわ。貴女は学園のこと何も知らなったのに」
「貴女が校庭で転んだのを見たの。なのに手を貸さなかった」
「学園に来た日から無視して、何も教えてあげなかった」
囲んでいた生徒たちがそう言って、口々に謝ってくる。
「私は……、リオン様がリオン様らしく、幸せを掴める状態になってほしい。そう思います」
私は、いつの間にか泣いていた。泣きながら、そう言っていた。
ミア様が、思い切りの笑顔で頷いた。
「分かっています! 陛下や、学園への根回しは任せてください! みんなで幸せになりましょう!」
ミア様、 なんか奥様達に似ている……