農林中金はどうして赤字なのか? 「アホな」運用方法と稼げる農業の「罠」
◇農林中金の「構造的な赤字」
筆者:
本日は当エッセイをご覧いただきありがとうございます。
今回は農林中金が大赤字であることと、その資金が「狙われている」ことや「稼げる農業」の酷さなどについて語っていこうと思います。
何と3四半期分で合計1兆4000億円の赤字という尋常ではないものとなっています。
質問者:
えぇ……どうしてそこまで赤字が出せるんですか?
中々そんなに赤字になることって無いと思うんですけど……。
というか農林中金ってそもそもどういう組織なんですか?
筆者:
簡単に言えば農協などが統括している農業協同組合や漁業協同組合などの組合員から集めた預金を運用しているようです。
総資産の規模は100兆円を超えると言われており非常に多額の資金を取り扱っている組織です。
ところが、リスク管理の観点から慎重に融資を行っているためか本来の銀行としての役割はあまり果たしておらず、その資産と比べて貸出の割合は20%以下となっているようです。
農業融資に至っては2016年と少し古いデータですが、全資産の0.1%しか無いとも言われているほどです。
そこで残る膨大な資産をどこに投資しているのかと言うと主に国内外の国債に投資していたんですね。
債権と言うのは利率が上がることによって評価価値が下がりその分評価損を計上しなくてはいけません。
昨今の国内外の利上げによって評価損が大きく出てしまっているという事です。
質問者:
でも、思ったんですけど国債なら満期まで持っていればその金額の分普通に回収できませんか?
どうして、評価損を毎度計上しているのでしょうか……。
筆者:
ここが農林中金が赤字になっている“肝“とも言える部分なのですが、
農林中金はどちらかというと「投資ファンド」に近い存在でして、
四半期・半期・年単位での時価評価を余儀なくされるんです。
こうした機関投資家の場合、個人投資家のような「満期までもって元を取ろう」という判断は構造的にできないということです。
25年2月7日の記事では、
『農中は、金利上昇で外債など債券の含み損が24年3月末時点で2兆1923億円に拡大。売却で損失を確定させるとともに、増資で投資余力を確保して運用資産の入れ替えを進める方針を決めた。
24年12月末までに米欧国債を中心に利回りが低い運用資産を約12.8兆円売却した。債券の含み損は同12月末時点で1兆5701億円に減少した。』
などとあります。
本来であればアメリカ国債の「利率」のみを見れば良い方ですが、
「債権評価額」も加味すると非常にマズイ損益になるわけです。
質問者:
あー、だから債権を整理しないといけないわけですか……。
筆者:
正直なところ「利上げがされていなかった」という時代が欧米や日本で長いこと続いていたために「甘く考えていた」という事なんでしょうね。
評価損は損失計上は農林中金の純資産を減少させ、信用力の低下を招き、お金を集めにくくなります。
今回の損切りと増資に踏み切ったのもそのためだと思います。
質問者:
株式に比べると債権はそこまで動向を見なくても大丈夫そうなイメージがありますから、放置してしまったことが良くなかったという事ですか……。
筆者:
破綻可能性が低い満期保有目的含み損ぐらい目を瞑ってもいい気がするのですが、
構造上そうもいかないんです。
「一般人の感覚で投資」をしてしまったことが農林中金の最大の敗因と言えます。
逆に自己責任での投資判断の下、時価評価に左右されることなく長期的な時間軸で忍耐強く投資を行うことができるのは個人投資家の強みとも言えますね。
◇農林中金損失の穴埋めに米の値上げ分が使われているという都市伝説
質問者:
この農林中金の損失の穴埋めのために米の値上げをしているというお話がネットの間で囁かれているのですが、それについてはどうなんでしょうか?
筆者:
確かに損失の話が出るタイミングぐらいで、僕たちの買っている店では値段が2倍とかになりましたけど、
それはちょっと無いんじゃないかなと思います。
JAのシステムは農家から農作物を取り込む際に概算金を最初に支払い、その後実際の取引状況を踏まえて本清算で調整される仕組みになっています。(地域によっては本清算が支払われない場所もあるようです)
つまり、農協が「思ったよりも高く売れたぞ」となればしっかりと農家さんに還元されるシステムになっています。
農家さんのお話ですとネットの楽天市場などで売る際にも手数料を取られると同じぐらいしか残らないということなので、世間で言われているよりも農協と言うのは「悪」と言える団体ではないと僕は考えています。
質問者:
それならどうして価格がこんなにも上がってしまったのでしょうか……。
筆者:
それが「分からない」ところが怖いところなんですよね。
僕の推定では小売店が24年8月にあった「南海トラフ地震臨時情報」を「チャンス」と捉えて、上げたままそこまで下げない状態で今に来ている感じなんじゃないかなと思います。
また、1割弱の米が「行方不明」という記事もありましたので、もしかしたら海外などが買い占めている可能性もありますね。
質問者:
日本人が日本のお米を買えないだなんて悲惨過ぎますね……。
筆者:
でも、市場原理に完全に任せている状況で、必需品のために買うしかない。
しかも農業を「輸出できるように稼げる」方向性を国が打ち出しているんで、
国民の生活は苦しくなりますが、値段は上がっていくのではないかと思いますね。
エンゲル係数はすでに限界に近いと思うのですが、政府自民党はこれに対して「放置している」と思われても仕方の無い政策ばかりをしています。
質問者:
筆者さんはいつも国が農家の方々を公務員として雇う事によって農家の所得を保障しつつ、市場の農作物を安定化させるべきだというお話をされていますよね……。
筆者:
日本国は赤字になっても国債を発行できるために本来であれば問題は無いわけです。
25年2月7日にはIMFが「いますぐ財政再建をするべき」とか間抜けなことを言っています。
しかし日本においてはGDP比率の債務残高以外の指標が良いわけですから、
海外からいくら言われようとも「問題無い」データを揃えて主張していけばいいわけなんです。
でもそれをせずに「国家の黒字」を目指して、
言わば「借り先の人を働かせて(増税)で自分の借金を返済させる」ぐらい今の国は滑稽なことをやっているという事です。
仮に財政再建が必要なのだとしても医療保険年金・社会保険制度で100兆円も必要なので、ここを抜本的に見直すことをまず第一に思うんですけどね。
制度そのものを廃止、自己積立、自己責任にすることが「財政再建」を本当にしたいのであれば必要なはずですがそれをする気配もありません。
◇小泉進次郎氏が「改革」を狙っている
質問者:
話は戻りますけど、農林中金や農協については今後どうしていったらいいんでしょうか?
皆さん何かしら不満があるのでその矛先になっている感じがあると思うのですが……。
筆者:
その「改革」を狙っているのが小泉進次郎氏などです。
小泉氏は24年の総裁選では農業分野について「改革」を公約として打ち立てています。
具体的な内容としましては
・農林中金の融資の拡大
・農林中金の財政健全化
・補助金依存型の「補助金漬け農業」から、より市場原理に基づいた持続可能な農業経営へ。輸出拡大のための予算に。
・水田農業の高収益化を推進し、農業・農村の活性化を目指す
とこのような感じです。
正直なところ、一番上の「農林中金融資しろ」という面以外においてはほとんど賛同できない感じです。
先進諸国で輸出が出来ている国々は買い取り制度又は補助金を多額につぎ込んでようやく行っているわけです。
「補助金なしに輸出」というのは「狂気」に近い話であり、
農業の発展と見せかけた農家の解体と言わざるを得ません。
お父さんの純一郎氏同様で「建前だけは良さそうで日本を解体させる」ような施策を推進する事に長けていらっしゃるようです。
質問者:
農林中金改革は「めくらまし」と言う感じですか……。
しかも、小泉進次郎さんはまだ若いですし、将来は総理大臣になる可能性もありますから実現可能性も高そうですよね……。
筆者:
最悪なのは「農林中金の財政健全化」のために海外の取締役を大量に入れられるようにしつつ、海外の株を買い漁ることです。
これによって円安誘導になります。
更に、「稼げる農業」が難しく融資は結局増えるとは思わないので、「改革」や黒字になるというのはそういう事だと思いますよ。
若い方で就農したい方には損覚悟でバンバン貸すことに注力して、「実質的に補助金を農林中金が行う」ぐらいで良いんだと思いますよ。
現状の農林中金は本来銀行業として必要な「信用創造」をするどころかむしろ「農家からお金を回収」しているだけに過ぎませんからね。
質問者:
農業のシステムで農協が「悪者」になっているのももしかして「解体した上で農業で輸出」を目指しているからですか?
筆者:
それもあると思います。
先ほども申し上げましたが、農協がそんなに悪いと思わないんですよ。
農家がネット販売などで直接消費者に販売する場合と変わりません。
包装、出荷、決済、運送などの手数料や手間は農協を通じた販売と大差はなく、むしろ農協のシステムはそのようなコストを一括して引き受けることで、農家の負担を軽減しているので解体するのは危険です
農林中金も農協も解体して「市場原理で稼げる農家」「輸出できる農家」以外は潰れてもらうのが狙いなのだと思います。
◇「個人自給率」を上げるしかない
質問者:
日本向けの農家が潰れていき、価格は上がっていく――なんだか暗くなるようなお話ばかりなんですけど、どうしたらいいんでしょうか?
筆者:
基本的な路線を見ていると今後日本人が日本の農作物を食べるためには「自分で家庭菜園していくしかない」と僕は予測しています。
マンションのベランダ菜園や室内菜園といった例え庭が無かったとしても工夫をして育てておられる方が動画サイトなどでも多数ありますので勉強をすることが大事だと思います。
質問者:
それって結構手間がかかって大変のような気が……。
筆者:
健康系統のお話の際に毎回申し上げていることとして、
「どこにリスクとコスト」を取るかによると思います。
自分で作るのであればどういう種で作ったのか無農薬かどうか分かります。
安全な食事を少しでも自分で作り「個人自給率」を上げることが大事だと思います。
僕の家はサツマイモや白菜などは自分で作って食べたりしているので食料安全を自らある程度確保できているという事です。
ただ、どういう病気にかかるかかからないかについては予測できないので、
様々な面でコストを計算するのは難しいです。
質問者:
確かに海外製品だとどういうのを使っているのか全く分かりませんからね……。
健康を損ねれば医療費もかかりますし、本当にどこに力点を置くかどうか価値観次第という事になるんですね……。
筆者:
健康だと病院にも行かないのでコストもかかりません。
何より一番大切な「健康寿命」を守ることが出来ますから、
僕は何よりも評価しているんですけどね。
生きていることが苦しいという方だとこういう考え方も受け入れにくいと思うので本当に価値観次第だと思います(健康に気を付けていても病気にかかる時はかかりますし)。
ということでここまでご覧いただきありがとうございました。
今回は農林中金は農業団体に貸し付けをせず、事実上の「ファンド」のような活動をしており国債の評価損で大きな赤字を抱えていること。
日本の農業政策が補助金や農家の公務員化の方向では無く「稼げる農業」「補助金なしの輸出する農業」によって日本の農業そのものが衰退していくという事。
国民個人が健康的な日本産の食品を食べたければ「個人自給率」を上げることが大事だと。
をお伝えしました。今後もこのような政治や農業について個人的な意見を述べていこうと思いますのでどうぞご覧ください。