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02 渋谷の《落星の祈祷/Starfall Invocation》[BLB]

「おかしい……よな……?」


 渋谷のスクランブル交差点。その中央に描かれた巨大なアートを見て、僕は思わず、声に出して呟いてしまっていた。


 アスファルトの地面に描かれているのは、いかにもファンタジーな絵。


 満点の星空の中央、巨大な三日月を背負い、一羽の蝙蝠が飛び、その背後からまるで、星が落ちてきたかのような真っ白い閃光が大地に向けて放たれている。3匹の狼はその光に目が眩み、仰け反り、飛びすさり、苦しげな表情からは今にも「キャンッッ!」という犬科動物特有の甲高い鳴き声が聞こえてきそうだ。


 記憶に新しいアートだった。統率者デッキの除去枠入れ替えでお試しに突っ込んでみてたから、効果もフレーバーテキストも知っている。


 ブル~ムバロウの、3白白ソーサリー全体破壊除去。カードを〈贈呈〉すれば、破壊したクリーチャーから1体、自分のコントロールで場に出せる。追放とはいかないが、限定リアニ、コントロール奪取付きはなかなか面白いし、月光、落ちてくる星に撃たれたクリーチャーが正気を失い新たな主人の元へ行く、というカード全体のフレーバーもいい。いかにも、統率者で使って盛り上がってください、ってデザインにも見えるけど、コントロールデッキで撃って相手のアグロのエースを奪うのもなかなか爽快だろう。カラーパイ的にマナコストは3青白であるべきじゃない? って気はするけど。




 けど、おかしい。




 新宿にM10《稲妻/Lightning Bolt》を描いたヤツが……




 スタンのセットの、大して有名でもないカードを、渋谷に描くのか?




〝 清らかなる月光の中に潜むものなど何ひとつない。 〟




 僕は頭から疑問符を出しながらも、イラストの下にフレーバーテキストを書く。アートと合わせて見れば何かわかるかもしれない、と思ったんだけれど……何もわからないままだった。


 アートのタッチは、カードのイラストそのままだった。アスファルトの上でも大した欠損なく、普通に見られる。ひょっとしたら上から見たらなんかあるのかも、と思って、地下鉄出口の天井や、近隣のビルの窓から見下ろしてみたけど特に何もなかった。


 ……何か、意味があるのか? それとも、なかったのか?


 清らかなる月光の中に潜むものなど何ひとつない。フレーバーテキストをもう一度頭に思い浮かべる。いいテキストだけどM10の《稲妻/Lightning Bolt》に比べたら、シンボリックでメタ的な意味合いは薄いし、名フレーバーテキストとして上げる人も少ないだろうし……同じデッキに入るってカードでもないだろう。


 …………ダメだ、情報が足りなさすぎる。


 僕が、アスファルトの上に描かれたアートを見ただけで、それがいつどうやって描かれたかを推理できる名探偵だったら良かったんだけど……あいにく、嫌われないように統率者をプレイするにはどうしたらいいか、ってのと同じぐらいわからない。それに今はネットがない。MTG WikiにもScryfallにも繋がらない。情報はゼロだ。


「………………追うしか、ないか……」


 新宿の次はどこにあるだろう、と結構探して、この渋谷にたどり着くまで結局、3日ほど時間がかかっている。でも、今は時間だけなら無限にある。崩壊した世界にはもうきっと、僕と、この謎のアーティストだけになっている。そんな今、どれだけ時間がかかったって構いやしない。僕は、駅前に止めていた自転車に飛び乗り、次なるアートを探しに走った。


 頭の中に地図を思い浮かべながら、次なる目的地を定めつつ、僕はぼんやり考える。このアーティストにあったら聞きたいこと、言いたいことを。

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