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転生したらラヴニカだった件 その⑥

「え、トミクさん、いなくなっちゃってるんですか?」




 僕が素っ頓狂な声を出すと、ザレックさんは首を横に振った。


「いたよ。オルゾヴァを元気に飛び回ってるさ。ただ――」


 ザレックさんの顔が、悲痛な面持ちに沈んだ。


「オレのことは何一つ、覚えちゃいない」


 ふう、と大きく息を吐く。


「はあ……それは……なんていうか……」


 なんて声をかければいいかはわからなかった。ザレックさんによれば、僕の前に来たもう一人の転生者によって、ラヴニカがこんな姿になったそうだけれど……どう受け止めればいいんだろう? ボーラスがアモンケットにしたようなことを、そいつは、ラヴニカにしたってこと? でも自分を崇めさせてはいないしな……。


「…………なんで、なんでしょう?」


 僕は首をひねる。そいつのやりたいことがよくわからない。スパイク、って名乗ったんなら別に、背景世界なんて来たくはなかったんじゃないか? それでも不本意にやってきてしまって、どうでもよくなってる? そもそも……ヴォーソスの呪いってのは……?


 たしかに、MTGの背景世界に銃はない。コラボセットを除いて、イラストやカード名にはっきり、現実世界の銃を連想させるカードなんてたしか、1枚ぐらいしかなかったはず。たぶん、コンセプトとして銃は出さない、的なのがあるはずだ。年齢制限を高めたくないだろうから、ってのもあるだろうけど…………。


 マジックは、プレイヤーが魔法使いになって相手の魔法使いと戦うゲームだ。そこに銃を持ち込むなんてそれこそ、ハードSFの世界に魔法を持ち込むような無粋。その制限を、縛りを、呪いというなら呪いなんだろう。


 けどスパイクはその呪いを解いた。


 転生チートで次元を改変して、ラヴニカの科学技術レベルをほぼ、現代にまで高めた、もしくは現代地球と融合した? どっちにしても、どうして? スパイク的になんの得がある? 単なる暇つぶし? 


「知らんよ。俺だけが元のラヴニカを覚えてる理由もわからん」

「……プレインズウォーカーだから、でしょうか?」

「かもな。真相はスパイクに聞かないとわからんが」

「彼は……今、どこに?」

「どっちかというと俺は、それをオマエに聞きにきたんだが」

「……と、言われましても……」

「知り合いじゃないのか」

「はい……たぶん……」

「……たぶん?」

「ああ、いえ、その、顔を見てないので。ですけどまあ……こんなことをしそうな知り合いは、元の世界にも、いなかったです、はい」


 僕の地球での数少ない知り合いの顔を思い浮かべる。そいつらがラヴニカに転生したとしても……こんなことはしないだろう。ジェイスとヴラスカのやりとりを至近距離で眺めるとか、シミックの研究所で改造してもらうとか、そんなどうでもいいことに熱中するはず。というか、まず、スパイクって自称はしないはず。みんなカジュアル帯の統率者メインの連中だったし。


「ほんとかよ? 心当たりもないのか?」

「はあ、まあ……」


 首をひねりながら答えると、ザレックさんは大きなため息をついた。大きく口を開いて何かを言いかけ、やめ、またため息をついて立ち上がった。


「…………なにか飲むか?」

「あ、冷たい水があれば」

「……ふん」


 ステンレスっぽい大きな冷蔵庫からペットボトルの水を出して、そのまま放ってくれる。背中にいかにもイゼットっぽい蓄電器を背負った、赤と青の鎧っぽい服を着た人が投げてくれる「いろはす」のボトルはなんだか少し、特別な感じがした。


「いただきます」


 水を飲みながら改めて部屋の中を眺める。連れてこられたザレックさんの家は、なんだかおしゃれな感じだ。コンクリート打ちっ放しな感じの内装は、彼の猛々しいイメージには少し合わない気がしたけれど……これも、スパイクによる次元改変の結果なんだろうか。


「なあ……オマエのことは……ジョニー、でいいのか?」


 ザレックさんはキッチンに背中を預け、缶ビールを開けながら言った。ファンタジーなガントレットをはめた手が、アサヒスーパードライを持ってるのは結構おかしかった。


「あ……ジョニーでも、いいですけど……本名は宇賀神、宇賀神勇将(うがじんゆうしょう)と言います。あの、ザレックさん、聞きたいんですけど」


 MTGって知ってますか、と聞こうとした僕をザレックさんが手で遮った。


「ウガジン? 親戚にゴブリンでもいるのかって名前だな……ジョークだよ、わりい。なあウガジン、先に俺の質問をさせてくれ。オマエも、転生魔術師? なのか?」

「あー……その、転生? ってのではないと思いますけど……まあ似たような……」

「転生ってどういうことだ? オマエはプレインズウォーカーじゃないのか?」

「あー、えーと……」


 …………なんて説明したらいいんだ?


「…………元の世界で死んだのをきっかけに、別の次元に行って、その時、特別な力を得る……ことが、あります。プレインズウォーカーの灯と、少し似てますけど……次元の行き来はできません」

「ウガジンの次元ではそういうのが、よくあったのか」

「よく…………よくは、ない、と思いますけど……でも、僕と、そのスパイクがラヴニカにいるってことは、その……あーーー……えーと、あの、ザレックさん、いいですか、あのー……」

「なんだよ、説明しにくいことなのか」

「じゃなくて……」


 マジで、なんて説明したらいいんだよ……。


「えーと、おとぎ話……って、わかりますか。子どもが寝る時にするお話で、実際には起こらないこと」

「……ああ、まあ……わからない、ってことは、ないが……」

「転生魔術師ってのは、そういうお話、だったんです。実際にあるわけがないおとぎ話。でもみんな知っている。そういう」

「…………ふーむ…………?」

「でもまあ、こうして、いるわけですけど……しかも、スパイクと合わせて、二人。ザレックさん、僕からも質問、いいですか?」

「いいや、まだだウガジン。それで、オマエにも力があるんだろ? スパイクみたいな」

「それは……あの、すいません、わかんないです、まだ、その、試してなくて」

「今試せ」

「は、はい?」

「スパイクの野郎をどうにかして、ラヴニカを元に戻さなきゃならん。俺はそのために動く。ウガジン、オマエの力が必要だ。アイツの言うとおりに動くのは業腹だが、それ以外に道がない」

「そっ、それは、あの、ニ……ニヴ様に、言った、り……?」

「アホ抜かすな。元のラヴニカを覚えてるのはオマエや、プレインズウォーカーの俺だけだ。あのドラゴンにこのことをバラしてみろ、絶対確実に、100%、オレたちを止めるだろうな。アイツは今、マナ融合発電機構にご執心なんだよ。核融合の要領でマナを融合させると、ラヴニカ全部を合わせた魔力よりとんでもないコトになるんだと。ったく、そんな力があっても何に使うか決めてもねえ上に、失敗すりゃ中央丸ごと吹き飛ぶだろうにお構いなしだ。そんなわけであのドラゴンに頼るのはナシだ。ギルドパクトの呪文もアテにできん。あれはラヴニカに働く呪文で、このラヴニカ――こうなっちまったラヴニカ――には、効かんだろうよ。だから、オマエの力が必要なんだ。地球から来た、転生魔術師のオマエの力が!」

「だ、で、でも、その、わかんないんですよ、そ、そんなの、やったことなくて!」

「今ここでやれ!」

「む、無茶言わないでください! ぼ、僕がいた世界には、魔法とか、マナとか、そういうのはなかったんですよ!」

「はあ!? ……じゃあなんでスパイクの野郎は使えたんだよ?」

「知らないですよ……でも、じゃあ、その、わかりました、試します」


 僕は大きく息を吸って……はいて……何かしら精神集中的なポーズをとった方がいいかも、と思ったけど、やめといた。もう一度深呼吸して、そして。




「…………ステータス……」


 


 沈黙。




 沈黙。




 そして。




 17年の人生で1番の気まずさが僕を襲い、その後。




「よくわかった」




 2人で僕の力を検証した後、ザレックさんがニヤリ、笑って言った。




「それじゃあ一丁、スパイクの野郎に反撃といこうか」




 その笑顔はさながら、クリーチャーが溜まった盤面を見る4ターン目のコントロールデッキ使いのようだった。


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