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この缶コーヒーが冷めるまえに

作者: 高月うみ

 彼の横顔はいつも凛としている様に見える。手渡した缶コーヒーを飲む姿も、煙草を吸っては息を吐く仕草さえも。

 深夜の住宅街は漠然とした暗闇に包まれている。自分たちの足音以外に何もきこえない。その暗闇のなかで私と彼は温かい缶コーヒーを片手に歩いていた。

 特に何かをするわけではないのに、週に2、3回彼から連絡が来て0時前にぶらぶらと住宅街を散歩をする。私はずっと彼のことが好きだけど、多分、彼は私のことをひとりの友人以上には思っているようには見えなくて、それでもふたりで会う機会が多くて期待してしまう自分がいることも確かだ。


 彼のどこが好きなの?と訊かれたら、私はほんの少し困る。眼鏡を指先であげる仕草や、話していると穏やかな気分になれるところや、私が無言になると歌う声がすきだなんて誰にも言えないし、自分のなかで大事にしたい感情だとも考えているから。


 缶コーヒーを飲みながら、夜空に浮かぶあの星は星座なのかどうかふたりで悩んでいたら流れ星が一瞬見えて目の前を流れていった。

 「今流れ星見えたよ、見えたよね?」

 「え?どこどこ?」

 「あっ!ほら!また見えた!」

 右手で夜空の指差しながら、左手で手招きして、ーこっちこっち!一生懸命に伝えたけれど、

 「んー!見えなかったなあ」

 そう言われて、彼にも見せたいと思ってはしゃぎすぎてしまった自分が恥ずかしくて。ーそっかあ、残念だったねえ。とかなんとか言いながら髪の毛の先を指先でくるくるとまわす仕草をしてとっさに誤魔化した。


 「俺さ、やっぱり穂乃果ちゃんのこと好きだわ」

 「え?何を突然」

 「突然だけど、前から思ってたんだけどなあ」


 まだほんのりと温かな缶コーヒーを握りしめ、私は突然の告白で顔が熱くなっていくことを感じた。ー私も。今ならその言葉を言えば済むのに、言葉を発することを忘れてしまったかのように何を言えばいいのか分からずにいると、彼が沈黙をやぶるように歌を歌いだした。彼の横顔を見上げると、その横顔はやっぱり凛としていた。この缶コーヒーが冷める前にきちんと彼に告げよう。ーずっと、私も好きです。と。

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