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5.古谷虎蔵

令和から助っ人がふたり

こちらは友加とほぼ同時に令和から消え、より早い時間に送られてきています

友加のバックアップができるよう、江戸に馴染むようにセッティングされているという次第

 事情聴取が終わり、佐竹が小者をつれて戻ろうとした。と、小者が佐竹に囁きかけ、友加の方に来た。

 男は、友加より背が高く、まげを結うには短い髪の毛を後ろでひとつに括っている。藍の麻小袖の後ろを、松葉色の帯に挟んで尻端折しりっぱしょりりし、着物の下からは帯によく似た色の股引ももひきが膝の上までを覆う。素足に藁草履をはいているが、草履が脱げにくいように布紐を鼻緒に括り付け足首に回して縛ってある。

 友加に声が届く間合いを測って膝をつくと、小さな声で囁きかけた。


「京都府警刑事四課、古谷虎蔵ふるやとらぞう国東和兄くにさきかずえ班長の部下です」

「え?」

 古谷は、じっと友加を見詰める。


 友加は、紘子を振り返り、

「知り合いにございます」

 紘子はおっとりと頷いた。

「虎蔵か、久しぶりだ。達者のようで何より」

「はい、お懐かしい。森田さまもおいでです。鑑識の」

「ああ、そう。こんなところでお会いできるとは」

「お会いなされるのであれば、案内いたします」

「よろしく頼む」

「それではまた、折をみて」

「うむ、よしなに」


 古谷は頭をさげ、佐竹に従って寮を出ていった。



 事情聴取も終わり、軽く湯漬けをいただいたところで、友加は紘子に説明を始めた。

「あの者は、京で市中警備に任じられているわたしの兄の部下であると言っております」

 刑事四課はマル暴、組織犯罪を担当する課だ。

「国東さまの兄上は、洛中警護人なのですね」

「はい、何といいますか、民同士でおこるさまざまなイザコザの内、そうですね、紘子さまは賭場とか流れ者というようなことはおわかりでしょうか」

「そうですね、賭場というのは、サイコロや花札を使って賭け事をする場所だったでしょうか」

「はい、その通りです。

 そのような場所には、全員が打ち合わせて、そうとは知らない客から金を巻き上げる、いや、えーっと、賭けの結果を操って、たとえば大店の放蕩息子などを誘い込んで負けさせ、親のところまで金をとりに行くというようなことをする者たちがおります」

「そうなのですね」


「紘子さまには縁のないお話で、お分かりでないのは当然です。

 えー、っと、兄の仕事は、そのように集団で人を騙して、暴力で金を取り立てるようなことを生業なりわいとしている民を取り締まることにございます」

「そうでしたか、兄上も相当な使い手なのですね」

「はい、それはもう」

 それはもう、全国レベルでの相当な使い手だ。いっそ剣士として世界レベルかも。オリンピック種目に異種間剣士試合がないのが残念レベルだ。脳筋気味ではあるが、たとえ相手が斧使いでも、剣の柄尻で鳩尾を突いて落とすくらいはやりそうな男である。


「あの者は、古谷虎蔵と名のりました。

 わたしは兄の部下については知りませんが、あちらがわたしを知っておりました」

「そうでしたか」

「古谷は、江戸にいる、森田幾絵を知っているとのことで、森田は、わたしの母の友です」

「わかりました、国東さまにお知り合いがあってようございました」

 紘子はにっこりとする。優しい人だ。

「森田に会わせてくれるとのことでした」

「わかりました、はやくお会いできるといいですね」


「紘子さま、一緒においでなされませんか。お傍を離れるのは不安です」

「さとが何と言いますか」

「中谷から連絡が来ましたら、きっとさと殿を説得いたしますゆえ」

「国東さまがおいでなら、外歩きもできますね」

 紘子はふたたび微笑む。邸から外へ出られないといっても、京の実家や江戸の上屋敷なら庭を歩くだけで気晴らしにもなるだろう。だが、狭い寮では気が詰まる。近場ならぜひ連れていきたいものだ。


 その日の夕刻、古谷が男ふたりに荷車を引かせて再び寮にあらわれた。

「国東さまのお荷物にござります」

 そう言って、荷を友加に与えられた部屋へと運んだ。それは、布団と蚊帳に始まり、大小の刀、夏用の着替え、夏座布団などだった。驚くさとへ、古谷が腰を低くして口上を述べた。

「この先で迷っている荷車を見まして、声を掛けたら国東さまのお名前を。

 はい、それでご案内いたしまして」

「そうでしたか、ご苦労でした」

 さとはとにかく返事をして、袋にはいった大小を受け取り、刀掛けを探しだして丁寧に収めた。


 荷物運びの男たちが頭をさげ、荷車を引いて去る。友加は中谷とともに庭に回り、事情を聞いた。

「森田さんからです。とりあえず森田さんに報告したら荷物を山盛り持たされまして。手紙とお金もお預りしています」

 中谷はそう言って、和紙に包まれた手紙と、立派な印伝細工の袋一杯のコイン、いや銭というべきか、を渡した。

 友加が和紙を開いてみると、あきれたことにコピー用紙にボールペンで字が書いてあった。

 手紙には、できるだけ早く会いにきなさい、幾、とだけ書かれていた。

「会いに来なさいって書いてあります。明日行けますか?」

「ええ、ごく近いところで、慈恵院と言います。尼寺の別院ですけど、いまは森田さんが身分のある女性のためのお助け処のようなものをやっておられます」

「はあ、幾先生、いつからこっちに?」

「友加さん、それもありますから、明日早めに。ここで話しこむのはちょっと」

「あ、そうですね、では明日。

 紘子さまとさと殿もお連れしたいのです。どうもキナ臭いのです」

「わかりました。武家の奥方ですから、尼寺へお参りするということでどうでしょう」

「はい、それでお願いします」


ただいま事態はドツボに向かって前進中

純情な(相手から見れば騙しやすい)娘に思わぬ助っ人まで追加で登場、だましている側はウハウハ


用語説明:寮

この時代では、別邸というほどの意味

時代劇では、引退した先代がご先祖様のお墓参りをするのに便利、という感じで、長年仕えてくれた老夫婦を使用人として、ともに老後を養いながら住んでいる、という感じで出てきたりします

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