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最終回

「ああ、終わったんだねぇ」

 作務衣姿の森田は、三人掛けののソファに、体を丸く埋めるようにして座っていた。


 楠田桂が発した緊急報告で、サポートチームをはじめ関係者が静かに押し寄せた部屋から楠田、森田、中谷、友加は別の部屋に移動させられていた。


「いくちゃん、ありがとう、本当にありがとう」

 楠田が親友の隣に座り、その手を両手で握りしめ、頬に涙を伝わせ、鼻水をすすりながらお礼を言っている。

 ふたりが手を握り合っているソファに向かいあう二脚のシングルソファには、小袖を尻端折りした中谷虎蔵と、筒袖と短袴の国東友加が脱力して座っている。


「うん、大変じゃなかったなんてとても言えないけど、友加ちゃんが来てくれてからは結構楽しかったんだよ。一カ月ほどだったけどね、二年分を取り戻したよ、ありがたいね」

「そうなの?そう言ってくれるのは嬉しいけど」


「いやね、品子さんが、お勤めを果たして帰っておいで、っていうような手紙を友加ちゃんに書いていたでしょう? あれを読ませてもらって、ああ、なにか仕事があるのかも、じゃあ、そのあとは帰れるかもしれないから気持ちを切り替えたほうがいい、ってはっきり考えられるようになったのよ」

「そうなんだね。

 私にメモを書いたのはいつだったの?」

「ああ、あのときね、友加ちゃんが来る前も、この部屋は見えるだけは見えてたんだよね、でも、入れなかったんだね。

 友加ちゃんの話を聞いて、すぐにケイちゃんにどうしても伝えなくちゃと思ったのね。手で触れるんだから書けるかもしれないと思って、筆で書こうとしたら、筆どころか手が入るじゃないの。

 それで、思い切って踏み込んだら入れちゃって。いや、一体何だったのかなぁ」

「ふーん、そうなんだ、わかんないけど、それはきっと、すっごく聞かれるよ?うちのつれあいのお仲間とかに」

「ああ~、そうだねぇ、あるよねぇ。レポートだけで済むわけないか」


「友加と中谷君、お疲れさま。

 中谷君、友加を無事に返してくれてありがとう」

「いえ、とんでもありません。自分は指示に従っただけです」

「ええ、でも、友加の母親としてお礼を言わせて」

「はい、光栄です」


「和兄の部下なんですって? 大変ね。まあ、和兄に会うのは大分先のことだから」

「はい、やはりもう府警には?」

「うーん、そうよね、まあ、イロイロあると思うけど、とりあえずは面接による事情聴取だよね、普通。録音と録画は覚悟しようね」

「はい、当然です」


「友加、夏休みは少し長くなるわよ。

 この後、公安からお迎えが来て、三人別々に面接による事情聴取になると思うわ」

「え?別々?」

「ええ、終わったらまた会えます。でも、基本は別々のはずよ」

「ふーん、そうなんだね」

「おとうさんの同僚だよ、たぶん」

「ふーん」

 ちょっとイヤかもしれなかった。だって友加のレポートに返事をもらえなかったのだ。



 二学期も始まって二週間、友加は高校生というわけで、事情聴取と健康診断、経過観察も早く終わった。家庭に返すことで得られる精神的安定を考慮、父の宗吾がついて京都に帰って来た。


「友加さん、ようおかえり」

 品子は、涙をこらえて友加を見詰めていた。

「お役目ご苦労であった」

 と、師匠兼祖父。


 しばらく居間でお茶をいただき、夕飯まで久しぶりの自室で過ごすように言われた。

 普段は、友達とメールのやりとりなどしない友加だったが、学期が始まってから何通かの気遣うメールが届いていた。ベッドに横になって、東京の母のところに行っていた、来週から登校するという趣旨のメールを返しているうちに、いつの間にか眠っていたようだった。


 夕食には、恐ろしく渋い顔の、長兄和兄、次兄恭介、父宗吾が揃い、雰囲気は最恐だった。この環境でよくもグレずに成長したものだ、と、友加は自分に感動する。

 面倒なので、ただ黙々と箸を動かす。

 三人とも、ただ、若い娘にどう話しかけたら泣かせないでいられるかわからないだけなのだが。



 次の週、夏休み明けに提出するように言われていた進路希望票を持ち、職員室に入る友加の姿があった。

 憧れの時代劇女優を真似た髪型は友加の中で終わったようだった。きれいに肩の位置で切り揃えた黒髪は、友加に少しばかりの丸みを与えていた。


With all memories of Corona Days, Granite


国東友加のお話をお読みいただき、ありがとうございます。

高校3年の夏休み、進路に迷う主人公に突然訪れたタイム・トラベル。令和の支援を受けて、辛くも帰還


千駄木界隈に居たのだから、ちょっと弥生坂、このころなら前田屋敷の脇を上って見渡せば、江戸城にお天守があった風景が見られたのに、チャンスがなくて残念


今となっては、すでにコロナも思い出扱いかもしれませんが、作者としては、よくぞ3人がコロナを享保に持ち込まなかったものだと一安心です


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