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第八話

「ぶ、舞踏会へミサを連れて行くでありますか!?」


 ミサは碧眼を思い切り見開き、悲鳴のような声を上げた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 それはとある日の話だった。

 兵士として毎日忙しく働くミサは、突然、スペンサー王子から王宮へ来るようにと手紙で通達があったのである。

 いつもは自分から来てくれたのに……と少し不審に思いつつも会いに行ってみれば、こんな風に告げられた。


「ミサ。今度、建国千三百周年のパーティー――夜会がある。それにぜひ参加してほしい」


 彼女は仰天した。

 夜会と言えば、貴族が出席するアレに違いない。ヒラヒラのドレスを纏いダンスを踊るだなんて、ただの軍人でしかないミサにはとてもできないことだった。

 それに彼女は貴族が苦手だ。嫌いと言っても、いいかも知れない。


 実は最初王子にだっていい印象を抱いていなかったのだ。彼の人柄を知るうちその不信感は払拭されはしたが……さすがにたくさんの貴族の溜まり場であるところの夜会に出席するなんて、まず無理だった。


「どどど、どうしてミサが夜会に出るなんて話になったであります? だ、ダンスも踊れないでありますし、それに夜会に出席するなんて恐れ多すぎるであります……」


「わかっている」申し訳なさそうにしながらもスペンサー王子は言った。「でも今回ばかりは、君に出席してもらわなければならない事情があるんだ」


 ……これはもしかして、王命だろうか。

 ある程度強者になったことが認められ、爵位が与えられるのかも知れない。ミサはそんな考えに思い至って頭が真っ白になる。そうなれば最前線で戦うことは難しくなるのではないか。剣を振ることだけがミサの生きがいであると言うのに。

 でも、彼の赤い瞳でまっすぐに見つめられその炎のような美しさに圧倒されてしまい、彼女は何も言い返すことができなかった。


「――了解したであります。兵士仲間に伝えて来るであります」


「わがままを言って悪い。君との夜会を楽しみにしている」


「ということは、スペンサー様も出席なさるのでありますか」


「ああ。主役は王族だから。まあ俺はその中で一番おまけだがね」


 スペンサー王子の夜会での姿を勝手に想像してみた。

 貴族の男性は礼服というものを着るのだと母から聞いたことがある。しかしそれを実際に目にしたことはなく、きっとキラキラとした綺麗な服なのだろうなと思った。

 そういえば、ミサの衣装はどうするのだろう? 疑問に思って訊いてみれば、「君は軍服が似合うからそのままでいいよ」とのこと。本当にそれでいいのかは疑問だが、何せミサは一軍人として出席するに違いないから問題ないのかも知れない。

 そういうことで彼女の夜会の参加が半ば強制的に決まってしまったのだった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 兵士たちにはしこたま怒られた。

 いくらミサが活躍しっぱなしだからと言って、まだここの部隊に加わってから日が浅いのである。それだというのに建国パーティーに呼ばれたのだと言うのだから長年働いて来た者たちはたまらない。

 皆がミサに嫉妬の目を向けたのだ。


 しかしミサはなんとも思わなかった。

 元々ここが自分の居場所ではないことくらい知っている。だから嫌に思われて当然なのだろうし、だからと言って別に迷惑することもない。

 ただ、彼女は大きな不安を抱えていた。それを決して口にすることはなかったけれど、本当にあの時あっさりと参加を受け入れてしまって良かったのかと一晩中悩み続けたほどだ。でも、


「スペンサー様がいれば大丈夫。そうに決まっているであります」


 強い彼のことだからきっと、困った時はミサを助けてくれる。

 そんな風に自分の心を落ち着けて、夜会までの日々を過ごした。

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