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第四話

「ミサがいい男を連れて来たぞ」


 戦場から戻る途中、仲間の隊員たちがそう大騒ぎした。

 金髪碧眼で体型もほっそりとしているミサは男からは多少の人気がある。しかし彼女自身が戦い以外に何もしようとしないので、いくら男が言い寄ったところで今までは突っぱねるだけだった。

 なのにそんなミサが隣に男を連れ歩いているのである。まあ誤解を受けても当然と言ったところか。


「それとはわけが違うであります」ミサは慌てて弁解した。「この方が、猛虎の首を取ったであります」


 男たちがどよめいた。そして一気に視線が青年に集まる。

 青年は薄く笑っているだけで何も言わない。ミサはそんな彼に代わって説明した。


「以前、大犬の討伐の際、倒れているところをミサが発見し治癒術師の元へ連れて行ったであります。その時の青年であります。面識があるのはその一度だけ。その時のお礼が言いたかったそうでありますが……」


「それで、猛虎の首を?」


「そのようであります。危険極まりない行為なのでやめるよう言い聞かせたでありますが」


 もしも本物の『血塗れの王子』だったとしたら、聞いてくれるかどうか。

 『血塗れの王子』は、本来は戦場になど足を踏み入れるはずもない王族でありながら戦いを得意とする男である。もちろん周りの者には独断で隠れて行くので、大層迷惑と心配をかけているそうだと噂話で聞いた。その真偽は知らないし今まで興味もなかったのだが、どうやら無関係ではいられないらしい。

 そのまま大勢の隊員たちに囲まれ、ミサは青年を連れて隊長のテントに足を踏み入れた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 隊長は当然、ミサが男を連れていることに驚いていたが、やはり赤毛赤瞳という特徴に気づいたのだろう、顔面蒼白になっている。

 確かに急に王族の特徴を持つ人物が現れたら仰天するだろう。ミサも同じだったが、顔色を変えぬようなんとか堪えている。


 それからしばらく青年に事情を聞いた。

 彼が語ったのは、自分が『血塗れ王子』スペンサーで間違いないこと、戦場へ行く途中で大犬と遭遇し戦ったが負けそうになったこと、ミサに助けられたこと。

 そしてミサにお礼を言いたいがために近頃はずっと魔物の出る場所を渡り歩いていた、などなど……。


 無論のこと隊長は彼の処遇に困った。本当に王族なのだとしたら、大ごとになる。

 スペンサー自身は「ミサに褒美を取らせたい」と言い出す始末だ。ミサとしては褒美なんてとんでもなかった。


「国民の役に立っていれさえすればミサは充分であります。ですから、褒美はたいへん嬉しく思うでありますがお断りさせていただくであります!」


「遠慮はいらない」


 遠慮などではなく、心の底からいらないのであるが、どうやら彼には伝わらないようだった。

 少し迷惑に思いつつもミサは、彼とまた再会できたことが嬉しかった。ここ最近胸に溜まっていたモヤモヤが晴れ、なんだかスッキリしたのである。

 ……少しくらいなら付き合ってあげてもいいかも知れない。


「なら、あなたが本当に『血塗れの王子』だとしたら、件を教えてほしいであります」


「君に庇われた俺が、君に教えることなんてあるのか?」


「それはわからないでありますが、何せ百戦錬磨の『血塗れの王子』様。学ぶことはあると愚考するであります!」


 ミサはもっと強くならなければならない。それに、話に聞く『血塗れの王子』の戦いぶりを見てみたいとも思った。

 彼女のその提案をスペンサー王子は余裕で受け入れてくれた。そして「また今度、戦場に連れて行くよ」と約束して見せたのだ。


 ここまで言うならきっと本物なのだろう。

 そう考え、ミサは身分の高い者へ向ける敬礼をした。


 こうして戦乙女ミサは初めて、人間の戦場へ臨むことになった。

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