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第三話

 来る日も来る日も魔物退治。代わり映えがなく、それでいて緊張感のある日々は続く。

 ミサは当たり前のように軍服のスカートを揺らし戦場を跳躍していた。剣を振り、あり得ないくらいの数を一気に倒す。仲間たちからはその度に称賛されたが、彼女は当たり前のように頷くだけだ。


 もっと強くならなければ。


 ――そんなある日のことだった。ミサの前に再び彼が現れたのは。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 血の色をしたその青年は、黒く大きな猛虎と呼ばれる魔物の首を掲げていた。

 猛虎の討伐へやって来たミサは、その姿を見て息を呑む。自分たちの到着の前にすでに敵が倒されていることにも驚きはしたが、それより何より彼と再会したことが信じられなかったのだ。


「……あなた、どうしてそんなところにいるでありますか。魔物を討伐するのはミサたち兵士の仕事。一般市民であるあなたが討ってはならない決まりであります」


 そう。魔物というのはとても危険な生き物だ。ミサのように幼い頃から訓練を積んでいるならともかく、一般人が戦っていい相手ではない。

 だというのに平気で猛虎の首を抱える青年は、ゆっくりとミサの方へ振り返った。


「ああ、やっと会えた」


 まるでミサを探していたかのような口ぶりに、彼女は眉を顰める。一体何を言っているのだろう、この青年は。

 そう思いながらも彼に語り続けた。


「聞いているでありますか。魔物は危険であります。猛虎は習性からして一頭で現れる可能性が高い魔物でありますが、それでも安全性は保証できないであります。もしも腕に自信があったとしても討伐は禁止されているでありますよ」


「わかっているさ。でもこうしたら君に会えると思って」


「ミサを待っていたのでありますか。あの大犬の時の方でありますね。ミサに何か用があるなら、魔物討伐隊本部に行ってくれれば連絡が取れるであります。とりあえず今はお引き取り願いたく」


 まだ残りの猛虎が潜んでいるかもしれない。そんな状況で、彼と長話をするのは危険だ。

 ミサはそう思った。だから早く切り上げようとしたのに――。


「お礼が言いたかった。ありがとう」


 その血塗られた微笑みを見て、彼女はその場から動けなくなってしまったのだ。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「俺はスペンサー・クノール。以前は命を助けてもらったというのに挨拶ひとつできなかった。そのことを詫びたくて、ずっと君を探していたんだ」


 赤毛の青年はそう言ったが、ミサにはとてもとても信じられなかった。

 スペンサー・クノール。その名はこの王国中に知れ渡っているものだ。クノール王国の第三王子にして戦いを好み、己から戦場へ足を向ける『血塗れの王子』と呼ばれていたからだ。


 『血塗れの王子』は各国の戦争に赴き、その度に戦を勝利へ導いたのだと聞く。

 しかしミサはそれが目の前の彼だとは思えなかった。そんなまさかである。だって彼は以前、大犬に組み伏せられていたところを助けたのだ。大犬は凶暴な魔物であるし決して弱くはないのだけれど、それにしたって噂の『血塗れの王子』であれば楽勝だろう。

 それにミサのすぐそこに王子がいるだなんていうこともまるで嘘のようだった。


「そんな出鱈目な話を、ミサに信じろというのでありますか」


「信じろとは言わない。我ながらとんでもない話だからな」


 ミサはそんなことを言う彼を見つめながら、はぁとため息を吐いた。

 もう二度と会うことがないだろうと思っていた彼がそこにいる。それはなんだか変な感覚だった。


 確かに変だとは思っていたのだ。赤毛に赤瞳というのは、王族の特徴と一致する。

 けれど、『血塗れの王子』は人の戦場にしか現れないと聞いた。ならなぜ大犬の前に現れたのか説明がつかない。


「とりあえず隊長のところに連れて帰るであります。王家の者という証拠品があれば、きちんと提出していただくであります」


「証拠品はないな。猛虎の首を取った実力で認めてはくれないか?」


「大犬には負けていたあなたが、よく言うであります。それに魔物討伐隊でないあなたが猛虎を狩ることは絶対にやめてくださいであります。もしもまたやった時にはお咎めなしとはいかないでありますよ」


 彼の方をジロリと睨むと、スペンサー王子だと名乗る赤毛の青年はまるで知らぬ顔である。

 彼の意図がどうにも読めず首を傾げるミサは、今回はたまたま現場に出ていない隊長の待つテントへと戻った。

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― 新着の感想 ―
[一言] おおう、これまた興味深い始まり方ですね!
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