第二話
ミサは青年を治癒術師のところまで送り届けると、すぐさまその場から立ち去った。
そして戦勝祝いの夕食を食べるために食堂――と言っても簡易のテントであるが――に向かいながら考え込む。
「それにしてもあの人、どうしてあんな危険なところにいたのでありましょう? あそこら辺は人の気配はない大草原で、巻き込む心配がないからこそあそこを選んだはずで、商人にしたって事前に通行規制をしたから通らないはずでありますし……」
先ほどの青年がどうして魔物に襲われていたのか、それが不可解なのだ。
大犬は凶暴である。だから広場に駆り出して討伐しており、そこには討伐隊以外誰も足を踏み入れさせないようにしていたはずだった。一般人が巻き込まれると危険だからだ。
この国では最近魔物が大量発生しており、その危険さは広く知れ渡っているから、わざわざ通行規制を乗り越えて草原を突っ切るような無謀な商人もいまい。ではあの青年は一体何のためにあそこにいたのだろう。
でも討伐隊の一員でしかないミサが深入りできる問題ではなさそうだった。
とりあえず治癒術師によって回復させられた後、地方の警備員に引き渡されることになるだろう。そこで詳しく話を聞くのだ。だからこちらが関われる隙はない。
ごく稀にではあるが戦場に間違って入り込んでしまったというケースはなくもないし、今回もその類だろう。そう思って忘れようとしたが、どうにもあの真紅の美貌がミサの頭から離れてくれなかった。
「…………」
考え込みながら食堂へ向かうと、そこには隊員たちがすでに勢揃いしていた。治癒術師のところへ行った分、少し遅れたらしい。
「おおミサ。待ってたぞ」
「今日もミサのお手柄だったな」
「よっ、戦乙女!」
そんな風にして彼女を歓迎したのは、ミサと同じ軍服の男たちだった。と言ってもミサの軍服は女物なので微妙にデザインは違うのだけれど。
ミサはこの部隊の中で一番活躍していた。次の隊長はミサになるだろうと言われるほどの実力だ。もしかすれば魔物討伐隊から抜擢され、もっと上等兵になってゆくゆくは近衛に入れる可能性もあったが、ミサは生まれ育ったここから離れるつもりは毛頭ない。
「皆さんありがとうであります。今日の大犬は少しきつかったでありますが、皆さんのおかげで乗り越えられたであります」
そんな風に言いながら晩餐を楽しむ。
あの青年のことはあえて言わなかった。言っても仕方のないことだし、他の皆にとっては興味のないことだろうから。
「次も頼むぜ」
「期待してるからな」
「はいであります。このミサ、さらに精進していくであります!」
どうして強くならなければならないのかはわからないけれど、今は亡き母がそれを望むのならミサはそうするというだけだ。
その結果どんなことが起こるのかなんてミサにはどうでもいいことだった。