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二度目の転生は砂の冒険者~ステータスがチート過ぎてヤバい~  作者: 秋華(秋山 華道)
本編知里ちゃんと共に
33/33

世界の始まり

大魔王を見事に同時討伐し、夢と乙女ちゃんは元の世界へと帰って行った。

次はいよいよ俺の番だ。

俺は気合を入れた。

しかしその気合は、直ぐに打ち砕かれた。

最後のクエストミッション。

事前に知らなかったので、これが本当に最後のクエストなのかも分からないが、それはとても受け入れられるものではなかった。

ガンマ王国がツノギルドを通じて大陸全ての冒険者に告げたそれは、『オーガ王国にいるオーガ、オーク、ゴブリンの皆殺し』だった。

大魔王が倒れ、悪魔の山の行き来が楽になると想定してのものだった。

「くっそ!そんな事できる訳がないじゃないか!」

いや、仮に此処がゲーム内の世界であったとして、もうすぐ終わる世界だと分かっているのなら、できなくはないのかもしれない。

しかし終わると決まったわけでもないし、俺が創ったオーガ王国を俺自身の手で壊してしまうなど、正直死ぬよりも辛いと思えた。

俺は決心した。

もう戻れなくてもいい。

俺はオーガ達を守る方に回ると決め、唯一外部から人間が入ってこられる海上を、魔法によって封鎖した。

「いいのか?人間であるお前がこんな事をして?」

「俺はお前たちに約束したからな。戦わないで平和に暮らせる地を提供すると」

オーガの王ガザは俺を心配してくれていた。

俺が助けなくても、自分たちで戦う覚悟だったようだ。

でも俺は、人間も殺して欲しくないのだ。

なんとか和解させる事を考えていた。


その頃元いた世界でも、最後のイベントが開始されていた。

その内容は、魔人の大陸の西にある半島を舞台に、全てのプレイヤーが参加可能なバトルロイヤルというものだった。

ここにいる全ての人が戦い、最後に生き残った者が勝者というイベントだった。

もちろんここにもステータスオールカンストのNPCが参加しており、優勝はできないようになっている。

前回の大魔王を討伐したのもこのNPCだったから、転生するものはいなかった。

さて此処から先、元いた世界の事は、それを見ている別の俺が話をする事にする。

というか、知里ちゃんに渡した魔法通信の効果なのか、付与した千里眼の効果なのか、はたまたそれ以外の何かは分からないが、知里ちゃんのゲームキャラであるチサトの意識が俺に情報を伝えてくれているようだった。


優勝ができないようNPCが出場するバトルロイヤルイベントだが、ここに一人、このNPCを倒そうという者が現れた。

知里ちゃんだ。

「このクエスト、絶対にお兄ちゃんはクリアできないよ」

「大丈夫だって。タツヤはチートなんだよね。星をも破壊できるくらいの魔法が使えるのに、負けるなんてありえないよ」

確かに夢の言う通り、バトルロイヤルくらいならまず勝てないなんてあり得ない。

しかし知里ちゃんは知っていた。

此処にオーガ王国があり、オーガたちも同じ人類であるという事を。

「このルール、最後まで残っていた人類の勝利ってなっている」

「そりゃそうでしょ。プレイヤーにはエルフキャラもいれば、獣人キャラもいるんだし」

「でも人類だと、オーガやオーク、ゴブリンも含まれる」

「それの何処が問題なの?」

夢の疑問も尤もだった。

でもこの半島にはオーガ王国があるのだ。

ゲームの世界には存在しないが、転生した世界にはあるのだ。

何故なら、転生した俺が創ったのだから。

「そこにいるオーガたちは、もうお兄ちゃんの友達なんだよ。仲間なんだよ。そんな人たちをお兄ちゃんが殺せるわけがない。ゲームだから?もう無くなる世界だから?絶対に無理だよ」

知里ちゃんは少し涙声だった。

「そうは言っても、知里が戻ってどうなるの?大輔くんや息子は?」

「僕も夢さんに同意だ。もしかしたら戻ってくるかもしれないし、知里さんは戻らない方がいい」

夢に続き、カズミンも反対した。

この時会社の連中は、ドリームダスト本社のゲーム室に集まっていた。

皆話しながら、バトルロイヤルをプレイしていた。

「私は知里ちゃんに行ってほしい。本当は私が行けたらいいんだけど‥‥」

知里ちゃんの味方をしたのはウララだった。

ウララは義経だった頃の俺を好きになってくれた子だ。

妹であった、その後妻となった愛以外では、最も魅かれた女の子だ。

俺の為に頑張る時は、誰よりも上を行く事のあるゲーマーでもある。

「悔しいけど、あのNPCに勝てる可能性があるのは知里ちゃんだけなんだよね‥‥」

「うん。ウララちゃんありがとう」

「じゃあ私も知里ちゃん支持かな」

ウララの妹であるキララだった。

「はっはっはー!私はどっちでも良いが、その方が楽しそうだから推すのだー!」

今日子は相変わらずだった。

「私は今会社を預かっている身としては反対ね」

美鈴は反対するよな。

会社の指揮はずっと美鈴に任せている。

「まっ、こういう時はやっぱゲームで決めるしかないよね」

マコちゃんは‥‥忘れてたって言ったら怒るだろうな。

こうしてバトルロイヤルは、知里ちゃんを倒そうとする者と、知里ちゃんを守ろうとする者に分かれて戦いが始まった。


弱者はドンドンやられていった。

流石にプロゲーマーたちは強かった。

「雑魚はほとんどいなくなったわね。ここらで私と勝負よ!知里!」

「うん。夢ちゃん‥‥でも今の私にはかなわないって分かってるよね!」

知里ちゃんが、接近戦を得意とする夢に向かって行った。

「魔法使いで接近戦とか、舐められたものね!」

「ふふ。夢ちゃんならそういうと思ったよ」

立ち向かっていった夢の足元が突然爆発した。

「何?」

「罠をはっておいたのよ」

「まさかこんな時までー?」

この辺り夢は成長していなかった。

夢が最も負けている相手は知里ちゃんなのだ。

知里ちゃんは、相手を知れば知るほど強くなり負けなくなる。

夢と知里ちゃんが仲の良い証拠でもあるのだと思った。

「じゃあ次は僕の出番だね。嫁の仇は旦那が取るよ!」

今度の相手はカズミンだった。

日本のプロゲーマーの中で、最も安定した強さを持っているプレイヤーだ。

知里ちゃんでもほとんど勝った事のない相手である。

しかし絶対に勝つと決めた知里ちゃんの敵ではなかった。

「ちょっ!この魔法使いチートじゃねぇか!」

知里ちゃんというより、キャラクターの能力が二枚ほど上回っていた。

結局知里ちゃんは、NPC以外全てのプレイヤーを倒した。

「義経先生をお願いね。そしてまたいつか会える事を願っているよ」

「うん」

最後にウララを倒した知里ちゃんは、一旦ゲームの一時停止機能を利用し、ゲームルームから社長室へと移動した。

時間はもう夜の10時を回っていた。

社長室は以前俺が転生した時、爆発してグチャグチャになったが、綺麗に修繕してくれたようだ。

再びの爆発に備え、壁などを厚くもしてある。

知里ちゃんは覚悟を決め、一人その部屋に移ったのだ。

「ふぅ」

ゲーム機を立ち上げ、自分のキャラクターであるチサトでログインする。

一時停止状態を解除し、モニターには荒野に立つチサトが映されていた。

間もなく最強のNPCがチサトの前に現れた。


戦いはすぐに始まった。

この戦いは、ゲームルームのモニターで、多くの社員が観戦していた。

「知里ちゃん勝てるかなあ」

「勝つよきっと。だって知里ちゃんも私たち姉妹と同じように、義経先生が好きだからね」

「大輔さんには聞かせられないな」

「でも好きは一人じゃなきゃ駄目なんて事はない。あんただって今では私の旦那だけど、最初はウララさんが好きだったんでしょ?今はもう好きじゃないの?」

「いやそれは‥‥嫁としてそれでいいのか?」

みんな戦いと関係がない話をしていた。

「やっぱ知里が押されているわね」

「でもきっと勝つわよ」

「ウララさんがそう言うなら、そうなんだろうなぁ。知里とウララさんは、あいつに対しては似てる所あるから」

最初は知里ちゃんが押されていたが、徐々に戦いは五分になっていった。

「そろそろしかけるのだ?そうなのだ?どうなのだ?」

「今日子の言う通り、そろそろね」

知里ちゃんの魔力が底をつきかけていた。

今日子の言う通り、そして夢の言う通り、知里ちゃんが仕掛けた。

又も魔法使いなのに接近していったのだ。

「どうするの?知里」

知里ちゃんは無防備だった。

その無防備な突進に、NPCですら戸惑っているようだった。

『えっ?マジでそんな突進してくるの?あんた魔法使いだよね?』

そんな声が聞こえてきそうだった。

NPCの攻撃が知里ちゃんの左肩を貫いた。

知里ちゃんの顔は笑っていた。

異次元アイテムボックスからあの時のアレを取り出し、右手に握りしめた。

「充魔池ぱーんち!!」

知里ちゃんの体、主に右手を信じられないくらいの魔力が包んだかと思うと、その握りこぶしがNPCの心臓辺りをえぐり吹き飛ばしていた。

知里ちゃんの右腕もボロボロになっていたが、NPCの死亡判定により、知里ちゃんの優勝が確定していた。

その後すぐにNPCの体は復元されていたが、その辺りは計算通り、一瞬でも最後の一人となった知里ちゃんの勝利は揺らがなかった。

「行ってくるよみんな」

知里ちゃんは光に包まれ爆発し、その姿は社長室から消えていた。


その頃、オーガの長城の上で、集まる勇者や兵士を見下ろしていた俺は、知里ちゃんの勝利を確信した所で、無性にそれを祝いたくなった。

いつかやろうと準備していたモノがある。

大量に持っているトレントキングの魔石に安全装置を付け、異次元アイテムボックスにしまっておいたそれを取り出した。

安全装置が転送する先は、知里ちゃんと一緒に初めて砂のバイクに乗った時、上空で付けたチェックの場所だ。

俺は手にした魔石に一気に魔力を注入する。

するとすぐに安全装置が働き、その魔石はチェックポイントへと転送された。

それは爆発し、夜空を綺麗に照らした。

オーガの長城を見ていた冒険者や兵士も、その音で振り返った。

「花火でお祝いだ知里ちゃん」

砕け散った魔石が更に爆発し、本当に綺麗な花火のようだった。

俺は続けていくつも魔石に魔力を注ぎ込んだ。

オーガの長城付近は、時が止まったかのように皆がそれに見とれていた。


そんなわけで、その花火が効いたのかどうかは分からないが、ガンマ王国からの依頼が取り下げられたというニュースが直ぐに飛び込んできた。

それと共に、俺に魔法通信で知里ちゃんから連絡が入った。

「今どこ?」

「知里ちゃん、戻ってきてくれたんだね。ありがとう、ごめんね」

俺は、知里ちゃんに悪いと思う気持ちもあったが、やっぱり嬉しい気持ちが隠せなかった。

「私、最強NPCに勝っちゃったんだよ。ついうっかり本気だしちゃって。だからまたお兄ちゃんに助けてもらうね」

「えっ?いや?助けるっていうか、俺が助かるよ‥‥大切なモノはあるけど、誰もいない世界だから寂しかったんだ」

俺は何を言っているのか分からなかった。

もうこの世界で一人生きていくと決めて、一時鬱になって暗くなっていた世界が、知里ちゃんのおかげで一気に明るくなった。

ただそれを伝えたかった。

「じゃあお互い様だね。今度は、二人一緒に元の世界に帰る方法探そうね」

「ああそうだな」

なんとなくだけど、もう戻る方法は無い気がする。

知里ちゃんも分かっていて言っているようだった。

チートに益々磨きがかかり、なんとなく分かってしまうのだ。

だけど何事も可能性はゼロではない。

そういう目標があれば、まあ生きていく目標にもなるだろう。

俺は知里ちゃんとの冒険を想像し、既に楽しみになっていた。

「それでタツヤ、もう一つニュースがあるぜ」

横に来たガザはが嬉しそうに話した。

そりゃそうだな。

世界がオーガたちのこの王国を認めたのだから。

ルシフェル皇帝が手を回し、二大陸全てでオーガとオーク、ゴブリンの人権を認めさせたのだ。

これからはますます住み良い世界になっていくだろう。

「で、もう一つのニュースってなんだ?」

「別の大陸が発見されたんだとよ」

「おいおいマジかよ」

この世界は終わっていなかった。

ゲームは終わっても、この世界は続いていく。

シナリオなんてない。

イベントもない。

何処にでもある普通の世界になったのだ。

「で、知里ちゃん今どこ?とりあえず会いたいんだけど」

俺が魔法通信でそう言うと、後ろから声が聞こえた。

「お兄ちゃんただいま」

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