準備万端でいざ新大陸へ
知里ちゃんと再開を果たしたその日は、話もそこそこに俺の屋敷で休んでもらった。
そうとう気を張って疲れていたのだろう。
目が覚めた後もずっと寝ぼけていた。
そして翌日、しっかりと睡眠もとった知里ちゃんと俺は、一緒に朝食を取っていた。
「ずっと霧のかかる場所をさまよっていたのか」
「うん。それで霧が晴れた後、瞬間移動魔法の移動先に私たちのギルド跡が増えてるのを見つけて、それで飛んできたんだよ」
「その話からすると、多分知里ちゃんの転生先は新大陸だな」
霧が晴れたタイミングからも、おそらく間違いないと思われる。
「そうなんだ。所でお兄ちゃん、今更なんだけどなんでそんなにちっちゃいの?なんでマスクしてるの?」
「えっ?ああ、これには深い事情がありまして‥‥」
俺は自分が転生してきてからこの体になるまでの話をした。
マスクについては、顔を隠す為もあるけれど、右目が邪眼になっているので外からは見えない方が良いという理由も話した。
ちなみにこのマスク、中からはちゃんと見えるようになっている。
と言っても普段は魔法により全方位視野を得ているので、目は千里眼で見る時以外は飾り状態なんだけどね。
「そうなんだ。でもこれから一緒に冒険するとして、ちっちゃいお兄ちゃんも可愛いけど、一緒に歩きづらいよね」
「そうか?そうだなぁ。これから一緒に冒険するとなると、此処まで身長差があるのはバラスが悪いか」
一緒に冒険して世界を共に歩く事は知らない間に決まっていた。
まあ知里ちゃんと俺は以心伝心なのだ。
「じゃあ知里ちゃんが姿を変えて子供になればいいんだ!」
我ながらナイスアイデアだ。
きっとちっちゃい知里ちゃんも可愛いに違いない。
「えー‥‥姿を変えるなら、お兄ちゃんが大きくなればいいんじゃない?」
「おいおい、それだと魔力が溢れちゃうから駄目だって」
「違うよ。年をとれば魔力が大きくなるけど、姿を変えるだけなら問題ないよね」
言われてみれば‥‥確かに。
「しまったー!その手があったか!」
必死に砂の分身で頑張ったのはなんだったのだろうか。
「じゃあこれからはそうすっかねぇ‥‥」
そう言いながらも、砂の分身には既に愛着がわいていたので、その戦い方は続けようと考えていた。
俺は姿を変えてみた。
「マスクは付けたままなんだ」
「邪眼の関係上マスクは外せないかな。マスクをつけた俺が本人で‥‥」
俺は砂の分身を作った。
「マスクをつけてない俺が砂の分身な」
「でも邪眼も魔法で何とかなるんじゃないの?お兄ちゃんチートなんでしょ?」
知里ちゃんの言う通りだった。
俺は目のビジュアルを補正してマスクを外した。
「うん。お兄ちゃんだ!」
知里ちゃんが嬉しそうな顔をしてくれるだけで、俺は心が和むのを感じた。
「そうそう、俺の砂の分身な、他も色々あるんだぜ!」
俺はちょっとイキってそう言いながら全員並べた。
「私もあるんだ」
「ああ。もしも転生してきていたら、これに気が付いてくれるかもってね。ちなみにギルドカードまであるんだぞ」
俺は異次元アイテムボックスから知里用ギルドカードを取り出して見せた。
「ホントだ。でもBランクだね。名前も知里だし」
そう言いながら、知里ちゃんは自分のギルドカードを見せてきた。
「ランクSSSだぁ?」
「うん。魔王討伐イベントまではSSだったんだけど、とどめを刺したのが評価されたみたいだね」
なんだかうらやましくも感じた。
目立ちたくないけど、やっぱランクって高い方が満足感あるよね。
「名前はチサトか。懐かしくも感じるな」
「ゲームだとずっとチサトでやってたからね」
そうなんだよな。
俺が転生して知里ちゃんと出会った頃は、『ダスト』って名前でやってたんだけどな。
でも彼氏ができて、いつの間にか『チサト』を使うようになっていた。
尤も、俺の知らない別ゲーではずっとチサトだったらしいけど、チョッピリ悔しい気持ちになったのを覚えている。
「ところでお兄ちゃん、メチャメチャチートステータスって言ってたけど、今はどれくらいまで抑えられているの?」
「そうだなぁ。魔王討伐イベントで悪魔倒しまくったせいでまたヤバい領域に入ってきているんだよなぁ」
「そうなの?つまりまだ魔力は余ってるのかな?」
「おうよ。余りまくりでなんとかしないとヤバいくらいだ」
それを聞いた知里ちゃんは嬉しそうだった。
その笑顔だけで、俺はチートステータスで良かったと思えるよ。
「だったらさ、お兄ちゃんが自分にかけたっていう常態魔法、私にもかけてよ」
「ふむ。面白いな」
試してみないとできるかどうかは分からないが、最悪アイテムに魔力を注ぎ込んでおく手もある。
それに俺の魔法で守られていたら知里ちゃんも安心だ。
俺が見た所、知里ちゃんは大魔王クラスではあるけれど、この世界には同レベルの者もいるわけだし、死なないわけでもない。
もしもずっとこの世界で二人で生きていくなら、どちらも欠けるわけにはいかないのだ。
今既に目の前に知里ちゃんがいる以上、俺はそれを失いたくない。
「じゃあ試してみるな」
「うん。一応付与する効果は先に教えて。いらないのはサクるから」
サクるってのは、捨てるとか除去するとかそういう意味ね。
「じゃあまず最初は、死んだら自動蘇生する魔法からいくか」
「分かった。それはお願い」
俺は知里ちゃんに魔法をかけた。
「おっ!いける!」
「流石チートお兄ちゃん」
「じゃあ次は自動回復な!」
俺は知里ちゃんに一つずつ確認しながら、次々と常態魔法を付与していった。
「えっと今度は、トイレに行かなくてもいいようになる自動排便魔法を‥‥」
ちょっとこれはデリカシーの無い事言わないといけないから、やめておくべきだったかな。
そう思ったが、知里ちゃんは全く気にしていなかった。
「それは便利!お願いするよ!」
「ああ‥‥」
魔法を付与する時色々想像が必要だから、少し恥ずかしかった。
そんなこんなで俺にかけている魔法の8割くらいを知里ちゃんにも付与できた。
「自分にかけるのと大きな魔力消費の違いはなかったな」
「どう?魔力抑えられそう?」
「ん~まだ納得できるところまで減り切ってないけど、魔法を使わない戦いはかなり慣れてるし、なんとかなるだろう」
「分かった。また何か思いついたら言うね」
俺は自分がこちらに転生してきた時の事を思い出していた。
こんなふうに必死に自分に魔法をかけていたのだ。
まさかこの魔法を、再び今度は他人に使う日が来るとは思っていなかった。
「後は‥‥そうだ。こっちの世界でもステータスの種が集められるんだ。もしまだ今よりも強くなりたいなら、集めてきてやってもいいぞ」
「でもアレ、ほとんど落ちないよね」
「ふっふっふ。お兄ちゃんはチートステータスだから、ドロップ率も桁違いなのだ!」
「そなんだぁ。でもとりあえず今の所はいいかな。冒険していて必要性を感じたらその時はお願いするよぉ」
「了解」
まあ俺はいくらでも砂の分身で集められるし、今は思考も14あるから5人くらいで集めさせておくか。
ちなみに知里ちゃんの思考は、1つしか増やせず2つが限界だった。
この魔法は本人のレベルというか能力に依存するようだった。
朝食も食べ終わり、俺達は今日から冒険に出る事に決めていた。
まずは新大陸を見て回る。
何があるかは分からないが、ゆっくりと旅を楽しむつもりで行く予定だ。
「では新大陸に行く前に、ちょっと最果ての森に砂のゴーレムを5体程置いてくるわ。俺思考が14あるから5体程度なら全く問題ないし、ステータスの種を集めておける」
「そんな事もできるんだね。だったら私も砂のゴーレムを1体作っておこうかな」
「それは良いと思う。じゃあすぐにおいてくるから待ってて」
俺は瞬間移動魔法で最果ての森へ行くと、5体の砂の砂のゴーレムを置いてすぐに戻ってきた。
ほんの2秒ほどだった。
「早!」
「ゴーレムの魔砂を5体分おいてくるだけだからね。ゴーレムにするのはその後でも良いし」
砂のゴーレムの核は一定量のゴーレムの魔砂であり、それが砂をコントロールして人型を成す魔法なのである。
ちなみに魔砂とは、ゴーレムの魔石を砕いて砂状にしたものね。
つまり砂のゴーレムは、この魔砂を消滅させるほどの魔法でない限り、倒される事はまずない。
ただし攻撃に魔法は使えないので、倒せる敵もせいぜいドラゴンクラスが良い所だろう。
「じゃあ私もゴーレム作ろう!」
「ゴーレムの魔石は持ってるのか?」
「うん。ゲームは結構頑張ってたからね。無いアイテムは数えるほどしかないよ」
流石に知里ちゃんだ。
トップレベルのプロゲーマーなんだからね。
「えっと、この魔石どうやって砕こうかなぁ」
「貸してみな」
俺は知里ちゃんから魔石を受け取ると、手で握って粉々にして見せた。
「ホントにチートだねぇ‥‥」
本当に。
魔石は剣で攻撃すれば割れたりもするが、粉々に砕き砂状にするとなるとかなり大変だろう。
高レベルのハンマー武器でたたけばなんとかなるだろうが、飛び散るので魔砂作りには向いていない。
基本は専門の工房で処理する事になるわけで、当然高い金を取られる。
ギルドに依頼した場合はそれ以上に金がかかるだろう。
それにそもそも砂のゴーレム自体チートの俺が考えたオリジナルだ。
魔砂自体は存在するが、そんなに当たり前にあるものでもない。
「じゃあ試してみるよー!」
魔力的には俺と知里ちゃんでは差が大きい。
だけどできる事は結構近い。
何故なら、転生前の会話で似たようなキャラを求めていたし、実際その通りに転生しているようだからね。
「できたよ!」
「いや、流石知里ちゃん。マジで凄い」
ゴーレム作りは想像力が必要だ。
正直俺はテンプレキャラをちょっといじるくらいのゴーレムしか作れない。
或いは既にモデルがあるものね。
しかし知里ちゃんの作ったゴーレムはとても強そうで綺麗な人だった。
「これ、マイヒメだろ?」
「よく分かったねぇ」
マイヒメとは、転生前の世界であるプロゲーマーが使っていた戦闘用機体の名前だ。
少しバレエダンサーをイメージさせる綺麗な女性型をしている。
とは言えあくまで機械ロボットであり、人ではない。
しかし知里ちゃんの作ったマイヒメは、何処からどう見ても人であり、とても綺麗で可愛かった。
「戦闘用ロボットを人間にしてしまうとか、俺にはない発想だよ。でもなんでマイヒメなんだ?」
「う~ん‥‥人間に近い機体てマイヒメくらいしかなかったし、戦い方をイメージしやすいから使いやすいかなって。旋風斬!とかね」
言われてみて気が付いた。
ゴーレムを動かすのって、なんとなく戦闘ゲームの操作に似ているのかもしれないと。
そういうイメージで知里ちゃんにゴーレムを使わせたら、かなり強くなるかもしれないと思った。
ちなみに『旋風斬』ってのは、マイヒメの必殺技の名前である。
「そっか‥‥じゃあこれで準備完了かな?ギルドカードはどうする?」
「きっと新大陸でもギルドはあるよね」
「まああるだろうけど、こっちのギルドと連携するとなると先になりそうだけどな」
「いいよ。こっちはこっちでコレがあるからね」
知里ちゃんは自分のSSSランクカードを見せつけてきた。
「はいはい。では知里ちゃん連れてってくれ!」
知里ちゃんは当然の事ながら、新大陸にチェックを何ヶ所も入れている。
森や山で生きてきたらしいので、まだ町に行った事はないみたいだけどね。
「いくよぉ」
こうして俺達は新大陸の冒険へと足を踏み出した。