ステータスの種
ゲームをプレイしていた頃の話。
レベルが100に達すると、もうレベル上げによる強化はできなくなる。
そこからはステータスを地道に上げるしか、根本的に強くなる方法はなくなるわけだ。
そのステータスを上げる方法の一つに、ステータスの種というのがある。
これを食べる(使用する)事でプレイヤーのステータスが上昇するのである。
手に入れる方法はいくつかある。
一つは課金というか、運営会社が経営しているインターネットスーパーで買い物をする事。
1品3万円以上の買い物をすれば、ランダムでステータスの種が貰えるというものだ。
ランダムというのは、ステータスの種には種類があるという事。
どのステータスを上げる種なのか、貰ってみないと分からない。
これはあくまで金儲けであるゲーム運営だから可能な方法である。
でもそれだけでは当然プレイヤーは納得できない。
多少金で強さが左右されるにしても、ゲームプレイである程度対抗できてこそゲームとして成立する。
そんなわけでゲーム内でも手に入れる方法はあった。
それは、ミカエル王国領にある最果ての森で出現する魔物『トレントキング』を倒す事でドロップする。
しかしそのドロップ率はとにかく低い。
ゲームをやってい頃は、だいたい3日に1個くらいの割合だった。
つまりこちらの世界の時間で言えば、1ヶ月以上かけて1個手に入るかといった感じになるだろう。
それだけ落ちないレアアイテムだから、プレイヤーは色々と試してなんとかドロップ率を上げられないかと思考錯誤した。
それでなんとか分かったのが、ステータスの『運』を上昇させる事と、精霊の森で木の精霊ドリアードの加護を受ける事だった。
この2点は若干ではあるがドロップ率を上げられるという結論に至った。
我が社のメンバーも検証に携わっていたが、ほぼ間違いないという結論に至った。
で、おそらくこの世界にも最果ての森は存在するだろうし、きっとステータスの種もドロップするだろうと思う。
ただ、当然ドロップ率は低いものと思われる。
しかしだ。
俺はあまり深く考えていなかったが、よくよく考えればゲームの頃よりも今の方がドロップ率がかなり高くなっているように思えるのだ。
だから素材の森で回収した素材が圧倒的に多かったのだ。
最近集めていた素材も、思った以上に簡単にそろえられた。
ゲーム内での2時間はこの世界での1日なのに、12倍本当はドロップ率が悪く感じるはずなのに、むしろドロップ率が圧倒的に上がっているように思える。
これってもしかしたら、俺の運ステータスも当然チートだからではないだろうか。
もしそうなら、ステータスの種も割と簡単に集められるかもしれない。
もしも集められるのなら、それを大量にアベルに食べさせる事で一気に強くする事も可能になる。
決戦予定は既に5ヶ月を切っている。
装備の力を借りてようやくマスタークラスといったアベルが、勇者として魔王に勝つ為には、この種を大量に食べて、せめて魔王クラス、できれば大魔王クラスになってもらうしかない。
俺の計算では、三千個のステータスの種が集まれば、十分戦える可能性が見えてくる。
残り150日で考えると1日20個ならできない数ではないと思える。
なんせ俺には7体の砂のゴーレムがあるからね。
アベル自身の成長だってあるわけで、5ヶ月もあればレベル100のカンストくらいにはなると思われる。
この世界にそんな概念が存在しているかどうかは分からないけどね。
まあとにかく、まずはステータスの種が存在するのかどうか、それを確かめる事にした。
まずはミカエル王国の北東にあるイースランドの町に瞬間移動魔法で移動した。
そこから更に東へ移動する。
この辺りはドラゴンクラスの強い魔獣もいるので、地上を行くのはかなり厳しい。
一度行ってしまえばチェックを入れる事で楽に行けるようにはなるけどね。
ドラゴンクラスの魔獣が沢山探索魔法に引っかかる中、俺は更に進んだ。
すると一気に強力な魔獣の気配はなくなり、トレントキングが探索にひっかかり始めた。
「いたか」
まずは第一段階突破だ。
後はこいつがステータスの種をドロップするのか、そして本当にステータスアップの効果があるのか。
確かめる必要があった。
俺は森の奥深くまでくると、7体砂のゴーレムを作った。
効率よく狩る為、今日は全員出動だ。
トレントキングは、数を狩る事が目的の魔物だからさほど強くはない。
とはいっても、レベルで言えば70から80で、今のアベルが初期武器で挑めば負ける可能性もあるくらいの強さはある。
「まっ、俺の砂のゴーレムはドラゴンクラスの強さがあるから、瞬殺できるんだけどね」
八方に散ってトレントキング狩りが始まった。
1体倒すと、早速ステータスの種がドロップした。
これは幸先がいい。
割と楽にドロップする事も分かったし、後は効果があれば光が見えてくる。
とりあえず6種全ての種を集めるまでは狩りを続けよう。
ちなみにステータスの種の種類であるが、力の種、耐性の種、操作の種、魔力の種、運の種、早さの種の6種である。
この中で一番欲しいのは力の種だろうか。
魔王を倒せるだけの力がないと、他がどれだけ良くても勝てないからね。
その後はドロップが続かなかった。
2個目が落ちたのは30分後だった。
「このペースなら頑張ればなんとか集まりそうだけど、5ヶ月これをやり続けるのは苦しすぎるぞ?」
俺は文句を言いながらも狩りを続けた。
5時間狩りを続けて、ようやく12個6種が揃った。
赤い種が1つ、青い種が3つ、緑の種が1つ、橙の種が3つ、白い種が2つ、黄色の種が2つだった。
砂のゴーレムは狩りを続けたまま、本体は一度これらの種を試してみる事にした。
全種を順番に食べて、どのような変化が起こるのか知る必要がある。
どの種を食べたらどのステータスが上がるのかも知っておきたかった。
食べてみた。
結論から言えば、どの種を食べたらどのステータスが上がるのか、直ぐに分かった。
明らかに感じるからね。
これで狩りを続ける事は決定した。
この日から、トレントキング狩りの毎日が始まった。
最初の1ヶ月ほどはかなり辛かった。
思った以上に集められず、苦しいので休む日も多々あった。
しかし徐々に周回ルートが確立していき、効率もドンドン上がって行った。
手に入れた種は、ツクヨミが時々勇者へと送りに行った。
いきなり三千個食えと言われても困るだろうし、強くなっていけばより強力な魔物と戦って経験値を得られるからね。
そんなこんなで魔王が復活すると予想される時まで2ヶ月を切った時、俺は約三千個のステータスの種を集めていた。
内二千個は既に勇者へと渡っているはずだ。
ツクヨミからレッドギルドに依頼してあるので、まず確実にわたっているはずだし、アマテラスに確認もしてあった。
「三千個か。よく集められたもんだ。これでおそらく魔王は倒せるだろう」
多少不安もあった。
耐性の種と運の種が割り合い的に多かったので、攻撃力が思ったほど伸びなかった事だ。
まあそれでも予定通りの数だし、数的には十分足りている。
これで全ての問題が解決したと言ってもいいくらいだった。
残り千個もツクヨミに任せ、レッドギルドを通じて勇者へと送った。
ドロップ率は、約1%だった。
トレントキングの魔石が、異次元アイテムボックスに三十万個あった。
もう二度とこんな事はしたくないと思った。