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暗殺幼女  作者: 山田マイク
「エリートの卵たち」編
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番外編 メッセージカード


「こちらに、カワカミという御方がいると聞いてやってきました。私はウェンブリー魔法学校で教師をやっているもの……で……?」


 店内の光景を見て、アンナはフリーズした。


 店の真ん中で。

 黒い服を着た成人男性――カワカミが、椅子に縛り付けられ、目隠しをされた状態で座っていたのだ。


「さあて、それじゃあおじさん、質問しちゃおうかな」


 すわ事件かと慌てて駆け寄ろうとしたアンナであったが。

 カワカミがそのような台詞を発したおかげでなんとか踏みとどまった。

 彼のだらしない表情を見て、どうやら危険性や緊急性は無さそうだと判じた。

 そして同時に、彼女は混乱した。

 それでは。

 それでは、これは一体、何をしているのだろうか。

 

「あ、あの、カワカミさん」


 様々な思案をしながら、アンナはごくりと息を呑み、ようようそのように言った。

 しかし、カワカミはそれどころでは無いようで、でへへ、と下品な笑い声を漏らした。


 ∇


「でへへ……いいかい、これは実験だからね。俺の"能力"が、視界を遮られた状態でどこまで通用するのか、の実験だ。だから正直に答えなさい」


 俺はじゅるりと涎を垂らした。

 興奮していた。

 俺は学校内で行われたカミラとの遊戯において。

 人間というのは目隠しをされ、拘束されると、想像力が刺激されることに気付いた。

 閉じられると発達する。

 それこそが人間の能力なのだ。

 アオイは今日、どのような下着を履いているのか。

 それをどのような表情で話すのか。

 そして、俺はこんなはしたない格好で聞かされるのか。

 それを思うと、とても高揚した。


 というか。

 俺は自分の性癖に気付いたのだった。


「キ、キミは今日、どんな下着を着けているんだい?」


 俺はつんのめるようにして聞いた。


「し、下着、ですか」

「そうだ。正直に答えるんだ。じゃないと実験にならないからね」

「え、えっと、今日は何色だったっけ」

「うんうん。ちゃんと確認してね。なんならスカートをたくしあげて視認してもいいんだからね」 

「わ、分かりました」

「そう、素直でいい子だね……って、あれ? アオイちゃん、なんかいつもと声ちがくない?」

「オ、オレンジですっ。オレンジ、でしたっ」


 聞き覚えのある声が聞こえてくる。

 ここに至り。

 俺はようやく気付いた。


 この声はアオイではない。

 これは――アンナ先生だ。


 俺は慌てて戒めを解き、目隠しを取った。

 するとそこには、スカートをたくしあげてパンツの色を確認する、アンナの姿があった。


 考えもしなかった光景に、俺はフリーズした。

 なぜ――なぜ、この人が店にいるのか。


「あ、アンナ先生!? な、なんでこんなところにいるんスか!?」

 

 彼女は年齢不詳なほどに容姿が若く、幼い。

 何故アンナがここにいるのかはともかく、とりあえずこのような場面を店の誰かに見られたら不味い――


 「何をなさっているんですか」

 

 などと思っていたら。

 背後から恐ろしく冷たい声がした。

 俺は思わずひゃっと小さく悲鳴をあげて、両肩を上げた。


 振り返ると、アオイが無表情で立っていた。

 表情はないけど。

 めちゃめちゃ腹を立てているのが分かった。


「い、いや、これは違う、俺は実験としてやろうと、ていうか、どうしてここにアンナ先生が」

「私、カワカミ先生に色々と教えてもらおうと思って」


 アンナは顔を赤らめ、もじもじしながら言った。

 まだスカートを上げたままで、だ。 


 俺はアオイのほうをちらと見た。

 彼女は怒りのオーラをいよいよ燃え上がらせている。


「アンナ先生。ちょっと落ち着きましょうか。あとスカート下ろしましょうか。つか、顔を赤らめるのもやめて」

「ああそうか。そう言えば、カミラさんから聞きましたよ。カワカミ先生、この"下着当て遊戯"って、カワカミさんがクラスの女の子たちともやっていたゲームですよね。もしかして、これに何か教育者としての本質が」

「い、いや、だからその」


 俺は慌てた。

 アオイのボルテージが上がっていく。

 キュイイィィイ、という不穏な充填音が聞こえる。


「ああ、そうそう! そういえば、クラスのみんなからメッセージカードを託されてるんです」 

 

 アンナはそう言うと、肩掛け鞄からカードの束を取り出した。


「えーと、それじゃあ読み上げますね。カワカミ先生、エッチだけど良いやつだったね。これはレベッカさん。セクハラエロ教師なとこを除けばアリだったよ。これはベアトリーチェさん。パンツの色、よく当てたよね。これはキアラちゃ――むぐ」

「とりあえず、今すぐ黙りましょうか」


 俺はアンナの口を塞いだ。


 どうやら。

 アンナ女史。

 彼女は、かなりの天然らしい。

 

「ま、まあ、単なる誤解だから。アオイちゃん、俺、教え子に手を出すとかやってない……から?」


 アオイに目をやると。

 彼女はすっかり"変形"しており。

 俺に向けて、銃口を向けていた。


「……懲戒免職です」


 アオイはそのように呟くと。

 腕からビーム光線をぶっ発射(ばな)した。


 風圧で店内がめちゃくちゃになる中。

 ひらひらとたくさんのカードが舞った。


 その中の一枚には。

 真っ赤なキスマークと共に、こう記されてあった。


【またいつかこのクラスに遊びに来てね、カワぴょん先生】



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― 新着の感想 ―
[良い点] 非常に楽しませていただきました!!!!
[良い点] 最初から一気に読みました! 読んでいて楽しめましたー!人間とのドラマが垣間見えて良かったです。
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