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暗殺幼女  作者: 山田マイク
「エリートの卵たち」編
73/85

72 遊び


「さーて。何を聞いてくれるのかしらねぇ」


 カミラのSっけたっぷりの声が聞こえる。

 その周りで、クスクスと女生徒たちの笑い声もしている。

 俺はこの状況に怯え。

 戸惑い。

 それから――


 興奮していた。


 誰もいない教室。

 俺と、女子中学生のみ。

 俺はたくさんの女学生に囲まれ。

 手足を縛られて、目隠しをされ、椅子に座らされている。


「何を聞いても良いわよ、せんせ」


 耳元でカミラの声がする。

 息がかかるほど近くであることが分かる。

 香水の良い匂いがする。


「な、何を聞いても良いんですか」

「うん。良いよ」

「ほ、本当になんでも」

「良いって言ってるじゃん」


 俺はごくりと喉を鳴らした。

 か、カミラちゃん。

 わざとやってないか、というほど、艶っぽい声音で応えてくれる。


「じゃ、じゃあ、例えば下着の色とか、き、聞いてもいいのかな」

「えー? せんせ、そんなの聞きたいの?」

「ご、ごめん、だ、ダメだよね、そんなの、セクハラだよね」

「別にー? 良いんじゃない? ね? みんな」 

「そ、そうなの?」

「ふふ。せんせーって、変態オヤジだね」


 クスクスと笑う女子の声がする。

 キモーい、と蔑む笑い声がする。


「えっと、ちょっと確認するね、うちは……ピンクだね」


 カミラの声がした。

 俺はごくりと生唾を飲み込んだ。


 今の――今の言い方。

 彼女は今、確実に自分のパンツを確認した。

 つまり、スカートをたくしあげ、下着を俺の前で露にしたのだ。


「私はブルーだよー、ほらほら」


 こ、この声はキアラちゃん!


「へっへー。あたしは見て、赤なのだ」


 この声はレベッカちゃんっ!!


「なにそれ、エロくない? ……とかいって、私はほら、黒なんだけどさ」


 この声音は、ベアトリーチェちゃんっ!!!

 あの大人しそうなベアトリーチェちゃんが!

 意外にも黒!!!


 彼女たちはそんな調子で。

 俺を囲んでパンツを見せ合い始めた。


 しかし。

 俺は、目隠しをされていて。

 見えない。

 視認出来ない。

 

 それがまた――


 超興奮した。


「パンツの色はもう良いでしょ?」

 カミラの声がした。

「そろそろ本題に入りましょうか、カワカミせんせ」


 声の元が右前方から背後に向かって移動している。

 どうやら彼女は、俺の周りを歩いているようだ。


「そ、そうだね」

 俺はへらへらと笑っていた顔を引き締めた。

「お遊びはこのくらいにしておこうか。それじゃあ、俺が今、一番君たちに聞きたいことを聞かせてもらう」


 俺は真剣な声音に戻って、言った。


「君たち、それぞれのスリーサイズを教えてくれ」


 キャー、と女生徒たちの小さな悲鳴が聞こえた。

 それからキャッキャッと楽しげな声で、


「アニエス、あなたバストどれくらいなの? また大きくなってない?」

「なってないけど――って、ちょっとアリス、も、揉まないでよ!」

「つかさ、アリスこそ、ちょっとお尻大きくなったんじゃないの」

「失礼ね。ブランシュだって、ウェスト、太くなってない?」

「こ、こら、変なところをまさぐらないでよ!」


 などと、天国みたいなやりとりを始めた。


 嗚呼。

 いつまでも聞いていられる。

 女子って、なんで駄弁ってるだけでこんなにエンターテイメント性あるんだろ。


「黙りなさい」


 と。

 至福の時間に浸っていると。

 突然、ぴしゃりとカミラの声がした。


 すると、途端に女の子たちの言葉が止んだ。


「……せんせーさ」

 カミラの声が耳元でした。

「いつまでそうやってふざけてるわけ?」


 怒気を孕んだ声だった。


「え? ふざけちゃいけないの?」


 俺は言った。

 カミラはチッと大きく舌打ちをした。


「あのさ。あんまり舐めないでくれる? 言っとくけど、私は真剣(マジ)なの。このゲームに負けたら、せんせーには本当に"毒"を飲んでもらうから。ジョークとかで済ませないから」

「うん。分かってるよ」


 俺は躊躇いなく頷いた。

 それから、カミラ以外の女の子たちに向かって、


「さあ、みんな続けて続けて。具体的には、誰の胸がどれくらい発達して、誰のお尻がどれくらい大きくなったのかな? 次からは、その辺りのこと詳しく話してくれるかな」


 ふーん、とカミラ。

 怒りのせいか、少し声が震えている。


「まーだふざけるんだ。良い根性してるね」

「いやあ、根性なんて要らないよ」

 と、俺は言った。

「キミのような"子供(ガキ)"相手に、大人が本気になる必要なんてないしね」


 その言葉で。

 明らかに、空気がピリッと張りつめた。


「……せんせーってさあ」

 と、カミラが言う。

「っとに、馬鹿なんだね。馬鹿なフリしてるだけかと思ったら、本物の馬鹿だったのね。私、マジで怒ってンだけどさ、それ、分かんない? 私が本気で怒ったら、せんせーどうなるか、分かんない?」

「さて。どうなるのかな?」


 俺がとぼけたように言うと、それに被せるように、カミラは「死ぬのよ」と言った。


「私が本気になったら、せんせーはもちろん、せんせーの家族や友達、恋人、仕事仲間、全部、殺せるんだよ。皆殺しに出来る。それが私の権力(ちから)なの。マキナ家に生まれた人間は、この街では神様なの」

「なんだ。そんなことか」


 俺は短く息を吐いて肩をすくめた。


「……そんなこと?」

「まあ、そのくらいは分かってるからさ。貴族(キミ)がその気になれば庶民(おれたち)を殺せる、なんて、そんなことはこの世界では常識だ。俺はその上で聞いてるんだよ。キミたちのスリーサイズを教えてくれってね」


 俺はそういうと。

 目隠しをされたまま、にこりと笑った。


「せんせー、せっかくこの私がチャンスあげてんのにさ。まともにやる気ないよね。何がやりたいの」


 少し間をおいて、カミラが聞いてきた。

 

「何がやりたいか? そんなの決まってる」


 俺は間髪を入れず、応えた。


「"おいた"をしたら謝る。カミラちゃんに、まずはその子供でも知ってるルールを()()()()()のさ」



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