72 遊び
「さーて。何を聞いてくれるのかしらねぇ」
カミラのSっけたっぷりの声が聞こえる。
その周りで、クスクスと女生徒たちの笑い声もしている。
俺はこの状況に怯え。
戸惑い。
それから――
興奮していた。
誰もいない教室。
俺と、女子中学生のみ。
俺はたくさんの女学生に囲まれ。
手足を縛られて、目隠しをされ、椅子に座らされている。
「何を聞いても良いわよ、せんせ」
耳元でカミラの声がする。
息がかかるほど近くであることが分かる。
香水の良い匂いがする。
「な、何を聞いても良いんですか」
「うん。良いよ」
「ほ、本当になんでも」
「良いって言ってるじゃん」
俺はごくりと喉を鳴らした。
か、カミラちゃん。
わざとやってないか、というほど、艶っぽい声音で応えてくれる。
「じゃ、じゃあ、例えば下着の色とか、き、聞いてもいいのかな」
「えー? せんせ、そんなの聞きたいの?」
「ご、ごめん、だ、ダメだよね、そんなの、セクハラだよね」
「別にー? 良いんじゃない? ね? みんな」
「そ、そうなの?」
「ふふ。せんせーって、変態オヤジだね」
クスクスと笑う女子の声がする。
キモーい、と蔑む笑い声がする。
「えっと、ちょっと確認するね、うちは……ピンクだね」
カミラの声がした。
俺はごくりと生唾を飲み込んだ。
今の――今の言い方。
彼女は今、確実に自分のパンツを確認した。
つまり、スカートをたくしあげ、下着を俺の前で露にしたのだ。
「私はブルーだよー、ほらほら」
こ、この声はキアラちゃん!
「へっへー。あたしは見て、赤なのだ」
この声はレベッカちゃんっ!!
「なにそれ、エロくない? ……とかいって、私はほら、黒なんだけどさ」
この声音は、ベアトリーチェちゃんっ!!!
あの大人しそうなベアトリーチェちゃんが!
意外にも黒!!!
彼女たちはそんな調子で。
俺を囲んでパンツを見せ合い始めた。
しかし。
俺は、目隠しをされていて。
見えない。
視認出来ない。
それがまた――
超興奮した。
「パンツの色はもう良いでしょ?」
カミラの声がした。
「そろそろ本題に入りましょうか、カワカミせんせ」
声の元が右前方から背後に向かって移動している。
どうやら彼女は、俺の周りを歩いているようだ。
「そ、そうだね」
俺はへらへらと笑っていた顔を引き締めた。
「お遊びはこのくらいにしておこうか。それじゃあ、俺が今、一番君たちに聞きたいことを聞かせてもらう」
俺は真剣な声音に戻って、言った。
「君たち、それぞれのスリーサイズを教えてくれ」
キャー、と女生徒たちの小さな悲鳴が聞こえた。
それからキャッキャッと楽しげな声で、
「アニエス、あなたバストどれくらいなの? また大きくなってない?」
「なってないけど――って、ちょっとアリス、も、揉まないでよ!」
「つかさ、アリスこそ、ちょっとお尻大きくなったんじゃないの」
「失礼ね。ブランシュだって、ウェスト、太くなってない?」
「こ、こら、変なところをまさぐらないでよ!」
などと、天国みたいなやりとりを始めた。
嗚呼。
いつまでも聞いていられる。
女子って、なんで駄弁ってるだけでこんなにエンターテイメント性あるんだろ。
「黙りなさい」
と。
至福の時間に浸っていると。
突然、ぴしゃりとカミラの声がした。
すると、途端に女の子たちの言葉が止んだ。
「……せんせーさ」
カミラの声が耳元でした。
「いつまでそうやってふざけてるわけ?」
怒気を孕んだ声だった。
「え? ふざけちゃいけないの?」
俺は言った。
カミラはチッと大きく舌打ちをした。
「あのさ。あんまり舐めないでくれる? 言っとくけど、私は真剣なの。このゲームに負けたら、せんせーには本当に"毒"を飲んでもらうから。ジョークとかで済ませないから」
「うん。分かってるよ」
俺は躊躇いなく頷いた。
それから、カミラ以外の女の子たちに向かって、
「さあ、みんな続けて続けて。具体的には、誰の胸がどれくらい発達して、誰のお尻がどれくらい大きくなったのかな? 次からは、その辺りのこと詳しく話してくれるかな」
ふーん、とカミラ。
怒りのせいか、少し声が震えている。
「まーだふざけるんだ。良い根性してるね」
「いやあ、根性なんて要らないよ」
と、俺は言った。
「キミのような"子供"相手に、大人が本気になる必要なんてないしね」
その言葉で。
明らかに、空気がピリッと張りつめた。
「……せんせーってさあ」
と、カミラが言う。
「っとに、馬鹿なんだね。馬鹿なフリしてるだけかと思ったら、本物の馬鹿だったのね。私、マジで怒ってンだけどさ、それ、分かんない? 私が本気で怒ったら、せんせーどうなるか、分かんない?」
「さて。どうなるのかな?」
俺がとぼけたように言うと、それに被せるように、カミラは「死ぬのよ」と言った。
「私が本気になったら、せんせーはもちろん、せんせーの家族や友達、恋人、仕事仲間、全部、殺せるんだよ。皆殺しに出来る。それが私の権力なの。マキナ家に生まれた人間は、この街では神様なの」
「なんだ。そんなことか」
俺は短く息を吐いて肩をすくめた。
「……そんなこと?」
「まあ、そのくらいは分かってるからさ。貴族がその気になれば庶民を殺せる、なんて、そんなことはこの世界では常識だ。俺はその上で聞いてるんだよ。キミたちのスリーサイズを教えてくれってね」
俺はそういうと。
目隠しをされたまま、にこりと笑った。
「せんせー、せっかくこの私がチャンスあげてんのにさ。まともにやる気ないよね。何がやりたいの」
少し間をおいて、カミラが聞いてきた。
「何がやりたいか? そんなの決まってる」
俺は間髪を入れず、応えた。
「"おいた"をしたら謝る。カミラちゃんに、まずはその子供でも知ってるルールを分からせるのさ」




