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暗殺幼女  作者: 山田マイク
「最強幼女、参上」編
7/85

7 死神


「ニャハ!」


 少女は白い犬歯を見せて笑い、無邪気にピースサインを顎の下につけた。

 お姫様のようなフリフリのドレスのような服を着ている。

 鬱陶しいほどにヒラヒラと無駄に生地がついており、まるでパーティーから抜け出してきたような格好だ。


 ただ黒い。

 鴉のように黒色のドレス。


「うーし! ほんじゃー殺すか!」


 女の子はそう言って、右ポケットをまさぐって短刀を取り出した。

 玉虫色に光る(ぎょく)のついた、掌ほどの小刀だ。

 武器と呼ぶのも烏滸がましいような拙い代物。


 殺す、と彼女は宣言した。

 つまり、やはり賊であることは間違いない。


 間違いないようだが――どうにも迫力がない。


 まるで()()()遊びだ。


 しかし。

 なんとも奇妙な光景だ。

 こんな森深くの深夜に。


 フードの若者と。

 月を背負った黒尽くめの女の子が一人。


 ふいに背筋がぞくりとして、レッグストアは身震いがした。

 目の前の女の子は本当にただの子供で。

 迫力もなにもない。


 それなのに。

 何故か分からないが。


 ゾッとした。


「どうです。見覚えはありますか」


 じゃり、という足音がして目を向けると、護衛の男が立っていた。


「い、いや、よく見えない。が、男も子供も見覚えはない気がする」

「そうですか」


 護衛は腕を組み、値踏みするように顎を上げた。

 それから、ふふん、とせせら笑う。


「単なるお伽噺だと思っていたが」

 と、護衛の男は言った。

「このオーラ。この圧力。そして、この幼児の如き姿。この期に及んでもなお信じられぬが――どうやら実在するようだ」 

「し、知っているのか? パルテノ」


 レッグストアは身動(みじろ)ぎして、護衛の男――パルテノを見た。


「ええ。私もこの目で見たのは始めてですが。我々の世界では有名な寓話ですよ」


 パルテノはにやりと口の端をあげた。


()()()()()()姿()()()()()。そして瑪瑙(めのう)のついた大鎌を振るい、出会ったもの全てを抹殺する、とね。真実かどうかは知らないが、裏の世界では(まこと)しやかに囁かれていた。ただし、ハッキリとした証言はなし。何しろ、出会った人間は全て死んでしまうわけですから」


 パルテノはくくっと笑った。


「口伝以外に標なし。まさに“伝説”というわけです」


 レッグストアは顔をしかめた。

 死神?

 大鎌?

 そんなもの、どこにもないではないか。


「よ、与太の類いでは無いのか。こんな童女が、よもやそんな」

「私も今、この目で見るまでは信じておりませんでした」


 パルテノは幼女を指差した。


「しかし、間違いない。私の本能がそのように訴えている。暗殺者としての本能が、目の前の女を殺せと」


 うっせーなー、と幼女はうんと伸びをした。


「ったく、ジジイってのは話が長くてムカつくんだよ。おい。カワカミ。こいつら、二人とも殺して良いんだな?」


 はい、とフードの男は頷いた。


「ただ、出来れば彼奴の抱えている鞄は無傷で」

「は? 聞いてねーんだけど」

「出来ればでいいです。どうやらあの身体(から)の大きな男は相当な手練れな様子。マチルダさんに余裕が無ければ、どちらでも構いません」


 フードの男が言うと。

 幼女は「あ?」と眉根を寄せた。


「よゆーが無ければってどーゆー意味よ。よゆーに決まってんだろ。あんなくそジジイ」

「はい。そう思います」

「ま、強さは100点満点で75点ってとこだな。まーまーだ。だからあの鞄は取り返してやる。よゆーでな」

「はい。ありがとうございます」


 男は頭を下げた。

 すると幼女はえっへんと薄い胸を張った。


 場違いにのんびりとしたやりとりに。

 レッグストアはしばし呆気にとられた。


「うし! じゃーやるぞ! 75点!」


 幼女はパルテノを指差した。


 しかし、次の瞬間。

 強烈な殺意のオーラを感じて、身を凍らせた。


「レッグストア卿、下がっておいてください」


 発しているのはパルテノだった。


「……随分と舐められたものだな」


 パルテノは腰を落とし。

 マントを脱いだ。


 そして両手を広げると、それを反時計回りに回しながら、何事か呟いた。

 すると、その指先を象るようにして暗闇の虚空に魔方陣が顕現した。

 

「しかし、今宵は幸運だ。このような極上の獲物に出会えるとは。伝説の死神。その寓話を、ここで終わらせてやる」


 パルテノの手が鈍く光った。

 彼はその掌を、相手の方に向けた。


 強烈な風が吹いた。

 とてつもないエネルギーが、パルテノを覆い始める。

 圧力と重力が、彼を中心に渦を巻きながら集中していく。


 幼女は強風に黒髪を靡かせながら「ニャハ!」と無邪気に笑った。


「来い! 75点!」


 その刹那。

 レッグストアには、彼女の(かお)が死神のように歪んで見えた。







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