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暗殺幼女  作者: 山田マイク
「エリートの卵たち」編
69/85

68 異変


 おかしい。


 パーリが近づいて来ない。

 最後に話したときから、俺に全く近づいて来ようとしない。

 最初はウィリアムへの恋心を冷やかしたことに怒っているのかと思ったがどうやら違う。

 彼女は俺がウィリアムと打ち解けているところを見ても、俺に話を聞きに来ない。

 怒っていようがいまいが、パーリからすれば"ウィリアムが犯人かどうか"というのは最重要の関心事であるはずだ。

 であるなら、俺への怒りなどどうでもよく、その結果を何よりも知りたがるはず。


 しかし、パーリは俺に話を聞きに来ない。

 それどころか、近寄ってすら来ない。

 いや。

 それだけではなく。

 彼女はここ最近、一人でいることが増えた気がする。

 休憩時間。

 実技の時間。

 登下校。

 前は絶対にカミラグループの誰かと行動を共にしていたはずなのに。

 時々、一人の時がある。


「と、いうわけなんだが、どう思う?」

 と、俺は聞いた。

「生徒の立場から見て、パーリちゃんに何か変わったことはないかな」


 そうっスね、とウィリアムは考え込んだ。

 彼には、既に俺の素性をある程度明らかにしている。

 無論、俺とパーリの関係も。

 彼女からは「必要があれば自分が依頼者であることを明かしても良い」と事前に承諾を得ている。

 とはいえ、それでも躊躇はした。

 パーリはクラスメートを疑っているわけだ。

 仲間を疑っている。

 それがバレたら、クラスにおける彼女の立場はない。


 それでも、俺はウィリアムにパーリのことを話した。

 俺はウィリアムを信頼した。

 彼は俺との話の中で、一度も"嘘"を吐かなかった。

 まだまだ未熟で子供(ガキ)だが。

 信用に足る男だと判じた。

 パーリは、なかなか男を見る目がある。


「あるね」

 ウィリアムは言った。

「つーか、多分、パーリは既にカミラのグループから外されてる」

「マジ?」


 俺は思わず眉を寄せた。

 うん、とウィリアムは頷いた。


「カミラは上手いんだ。一見すると今まで通り仲良くしてるように見せる。けど、徐々に孤立させて行くんだ」


 えぐいねえ、と俺は苦笑した。


「ウィリアム。キミから見て、どうしてパーリちゃんはグループから弾かれちゃったんだと思う」

「そりゃあ、カミラの機嫌に損ねる()()()をやらかしたんだろう。あいつはこのクラスのボスだ。家柄的にも最強だから、誰もあいつに逆らえない。王様なんだ」


 ふむ、と俺は唸った。

 

 このタイミングでカミラの気に障ったことと言ったら。

 やっぱり、俺のことしかないだろう。

 参ったねぇ、と俺は頭を掻いた。


「どうやら、俺が彼女たちを疑っていることが気にくわないようだ。つまり俺とパーリちゃんのことが、カミラちゃんにバレちゃったと」

「そうだろうぜ」


 ウィリアムは深刻そうな顔つきなった。


「先生が赴任したタイミングとパーリが弾かれたタイミング。これが偶然だとはさすがに思えない。カミラの権力は学校の内外で強力だからさ。きっと、カワカミ先生のこと、外部の調査機関にめちゃくちゃ調べさせてる」

「俺のことを?」

「ああ」


 ウィリアムは顎を引いた。


「カワカミ先生の本当の住所。経歴。職業。身分。家族関係。友人関係。もしかしたら年収なんかまで把握してるかも」

「そんなことが可能なのかい」

「マキナ家を舐めちゃいけないよ、先生」


 ウィリアムは肩をすくめた。


「何しろ領主様の直系の血筋だ。あいつが本気で調べれば、この街で分からないことなど何もない」

 

 なるほど、と俺は頷いた。


 とにかく、カミラはこのクラスの――いいや恐らくは、この学園全体から見ても絶対的権力者のようだ。

 しかしそうなると、一つ、疑問が浮かぶ。


 そんな圧倒的な力の持ち主であるカミラ=マキナに嫌われているはずのセリアという女生徒。

 頭脳明晰文武両道の天才少女。

 彼女は、絶対王政を敷ける女帝・カミラと対等に渡り合っているように見える。

 クラスメートたちは、その辺りをどのように受け取っているのか。

 

「うーん、その辺はよくわかんねぇなあ」


 その辺りのことを聞いてみると、ウィリアムは天を仰いだ。


「カミラはどういうわけか、セリアたちにはあまり踏み込まねぇんだよな。嫌ってるのは間違いねぇんだけどよ、徹底的に争うことはしないんだ。冷戦状態っつーか、水面下でいがみ合ってる感じっつーか」


 ふーん、と俺は頷いた。

 この辺がウィリアムの限界なのかな、と思った。

 彼は恐らく、このクラスの本当のところを把握できていない。


 このクラスの本当の(かお)

 即ち。

 女子の世界だ。

 

 それじゃあ、そろそろ女の子の意見も聞いてみようか。


「しかし、女子の世界は大変だね。男子より複雑で曖昧、そしてシビアだ。そうだろ? パーリちゃん」


 俺はそう言うと。

 教室の教壇に目をやった。


「パーリ?」


 ウィリアムは頭にハテナを浮かべて、首を捻り、俺の視線を追って教壇を見た。

 するとガサゴソと音がして、教壇机の下から、


「……なによ、私が隠れてるの知ってたの、カワぴょん」


 隠れていたパーリが姿を現した。

 それから「意地悪ね」と上目遣いで俺を見た。


「ごめんね。分かってたから、あえてここで話してたんだ」

 俺は愛想笑いを浮かべた。

「しかし、この度は大変だったね。カミラちゃんに目を付けられたみたいで」


 俺が心配を口にすると、パーリは「別に」と言って視線を外した。


「つか、このくらい覚悟してたし。カミラは自分の知らないとこで勝手に物事が運ぶの、チョー嫌がるから」

「……なるほど。想定済みってわけね」


 俺はそこで、表情を引き締めた。

 この子の決意を見た。

 パーリは、カミラとの決別を理解していた。

 カミラの怒りを買うと知っておきながら。

 俺の店にやってきたのだ。

 "貴族主義でエリートクラスの学園生活"という荒波を、たった一人で生きていく。

 パーリには最初から、その"覚悟"が出来ていたのだ。

 カミラと決別してでも、アンナに毒を盛った犯人を突き止めたいと考えたのだ。


 化粧をして。

 ダラダラと歩いて。

 おちゃらけてチャラチャラしていたのは、彼女の本質ではなかった。

 もう、子供扱いは出来ないなと俺は思った。


「それじゃあ、いよいよ後には退けないね」

 と、俺は改めて聞いた。

「こいつはどうしても"犯人"を見つけ出さないと。その為には、やはりあの二人の関係を聞いておかないとね。即ち、カミラちゃんはこのクラスの権力者でありながら、どうしてセリアちゃんには手を出さないのか。パーリちゃん、なにか知ってるかい?」


 パーリはここに及んでもなお、少し話しにくそうに口を閉じた。

 俺とウィリアムは、黙って彼女が口を開くのを待った。


 けれどもやがて。

 「それって、結構シャレになんないのよね」と、パーリは語り始めた。


 

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