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暗殺幼女  作者: 山田マイク
「エリートの卵たち」編
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64 放課後


 その日の放課後。

 俺はヨタヨタと廊下を歩いていた。

 西日でオレンジに染まる景色の中、教室に向かっていた。


 俺はウィリアムを探していた。

 全寮制なので学園内のどこかにはいると思うが、闇雲に探してもまあ見つからない。


 なので。

 手っ取り早く探すなら()()()に聞くのが一番だろうと踏んで、ここにやってきたというわけである。


 がらり、と教室の扉を開いて顔を覗かせると、数人の生徒が残っていた。

 その中に、パーリがいた。

 彼女は俺を見止めると、話していた友達にちょっと待っててと言い置いて、こちらに向かってきた。


「カワぴょんじゃん! どうしたの、こんな時間に! つか大丈夫!? 腕、折れてない?」


 俺を見つけて、明らかにテンションが上がっている。

 うーん。

 可愛い子だ。


「うん。なんとか平気。つか、残っててくれて助かったよ。ちょっと聞きたいことがあったからさ。でもパーリちゃんこそ、こんな時間まで何してんの」

「別に。適当に駄弁(だべ)ってた。ほら、今度さ、文化祭あるし、あの辺のことをみんなで相談してた」

「文化祭? ああ、確か、"召魔祭"とかって」


 そう言えば、生徒や先生方が時々口にしていた。

 数週間後に、文化祭的な学校行事が行われると。

 それは【召魔祭】と冠されたもので、生徒たちがクラス単位で集まり、日々鍛練している"魔法"を使って様々な見世物を披露する舞台らしい。


「そそ。年一のイベね。いやさ、うちのクラスってああゆうの適当にやるんだけどさ、今回はどういうわけか、セリアの連中が張り切ってるみたいで。色々と口うるさいの」

「へえ。セリアちゃんが」

「そうなの。変な子よね。これまではあーゆーの、ほんと嫌ってたのに」


 ひとしきり愚痴った後、で、聞きたいことって? とパーリは俺に問うた。


「いやさ、ちょっとウィリアム君に用事があってさ。パーリちゃん、彼の居場所に心当たりない?」

「え? ウィリアムの居場所?」

「うん」


 俺が頷くと、パーリは怪訝そうな顔つきになり、それってどういう意味? と少し俺に詰めよった。


「どういう意味って、まあ、そのまんまだけど。パーリちゃんなら知ってるかなと思って」

「だから、どうして私がウィリアムたちの居場所を知ってると思ったワケ?」

「それはだって、パーリちゃん、ウィリアム君のことが好きっぽいから――んぐっ」


 そこまで言ったとき、パーリは慌てて俺の口を塞いだ。

 それから、後ろの友達の様子を牽制しつつ、俺を廊下に押し出した。


「な、何言ってんのよ! ど、どどど、どうして私が、ウィリアムのことを好きってことになんのよ!」


 廊下に出ると、パーリはヒソヒソ声で怒鳴った。


「あれ? 違うの?」


 俺がすっとぼけたように言うと、パーリは「違うわよっ!」とさらに詰め寄ってきた。


「私がいつあの男のこと好きって言った!? 何時? 何秒? 世界が何回回転したとき!?」


 パーリは子供みたいなことを言って、ムキになって反論した。


「あーごめん。もしかして、勘違いだったかな」

 俺は後頭部をさすった。

「いやね、俺はてっきり、パーリちゃんはウィリアム君のことが好きだから、ウィリアム君のことを信じたいから、だから彼の無実を確信したくて、今回、俺にこの仕事を依頼してきたんだと思ってたからさ」


 パーリは顔をしかめたまま、どういうこと? ともう一度聞いた。


「ねえカワぴょん。それってどういうこと? どうしてそんな風に思ったの? 私、そんな素振り見せてた? 私があいつのこと好きだなんて一言でも言った?それとも、もしかして、私の心を読んだとか? だったらサイテーなんだけど」


 パーリはそう捲し立てると、軽蔑の目で俺を見た。

 今の発言。

 すっかり自分の恋心を白状してるんだけど、どうやら本人は気付いていないようだ。


「読まなくても分かるよ」

 俺はにこりと笑った。

「キミのウィリアム君への態度を見てたらね。発言。目線。考え方。全部が恋する乙女だったよ。今日の自習時間だって、あれ、俺の心配をしてた訳じゃないでしょ。キミは、ウィリアム君のああいうところを見たくなかった。だからあんな風にムキになったんじゃない?」


 パーリはう、と小さく呻いて動きを止めた。

 図星だったようだ。


「それに、そもそもキミがアンナ先生に恋愛の相談もしてたって言ってたしね。この学校は全寮制でとても閉じた世界だ。教師もほとんどが女性。だからパーリちゃんが恋に落ちるとしたらこのクラスの誰かだろうって思ってね、んで、そうだとすれば、ま、彼だろうなと考えたわけ」


 パーリは無言だった。

 ただ、顔は真っ赤だった。


「いやいや、恥ずかしがることなんてないよ」

 俺は苦笑した。

「ガールミーツボーイ。女の子が男の子に恋するなんてのは、至極当たり前のことだ。世界中、みんなやってることなんだから」


 俺はそう言って、ぽん、とパーリの肩に手を置いた。

 するとパーリはいよいよ赤くなり、プルプルと小刻みに震えだした。

 それから「……だとし……も」と不明瞭に何か呟いた。


「えっ、何? なんか言った?」


 俺がそう問うと、彼女は勢いよく顔を上げ、キッと俺を睨みつけると、


「だとしても、恥ずかしいに決まってンでしょ! キザったらしくカッコつけてんじゃないわよ、このデリカシー皆無の唐変木野郎!」


 そう言って、俺にラリアットを喰らわした。


 

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