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暗殺幼女  作者: 山田マイク
「エリートの卵たち」編
61/85

60 依頼内容


「前任のアンナ先生をイジメた奴を突き止めて欲しいの」


 "人形屋"を訪れたパーリからの依頼は、至極シンプルなものだった。


 パーリのクラスを任されていたアンナという教師がいた。

 アンナは教師からの評判の良い、とても熱心な女教師だった。

 また彼女は生徒だけではなく同僚の教師や学校側からも覚えがよく、権力の小さい地方貴族や貧乏貴族の地位向上に勤しむなど、勉学以外でも活動的な教諭であった。


 今から一ヶ月前。

 アンナが身体を崩して入院した。


 彼女たちの学校は中等部まで各クラスごとに食事を配膳する給食制度を採用しており、アンナはその日の昼食を食べた後、急激に体調を悪くしたのだ。

 彼女は発熱し、関節という関節が激しく痛んだ。

 そのままの症状が一週間続いた。


 その後、体調はようよう回復したものの。

 まだ体力面に自信がないことと精神的なショックから、当面、職場復帰は出来ない状態だという。


 パーリは、アンナを慕っていた。

 特進クラスでは落ちこぼれの部類であった彼女は、勉学や実技のことなど、様々なことを相談していた。

 それは学業だけではなく、将来のことや、時には恋愛のことまでも彼女に打ち明けていた。

 アンナは先生と生徒としてだけではなく、時には母親のように、時には姉妹のように、そして時には親友のように接してくれた。

 パーリは、アンナ先生のことが大好きだった。


 だから、クラスメートたちには内緒で、この事件のことを極秘裏に調べた。

 アンナの身に何が起こったのか。

 これは事故なのか、事件なのか。

 事故ならそれは誰の過失なのか。

 事件なら、その犯人は誰なのか。

 一人きりで、その調査を開始した。


 給食に問題があったのは間違いなかった。

 それなら、給食を作ったものにその責任を取らせるべきだとパーリは考えた。

 だから、まずは学内の食事を管理監督している事務局の保健課を調査してみた。


 すると、案外と早くに。

 問題は調理過程ではなく、調理後、即ち教室に差配されてから自分達が食するまでの間に生じたのだと判明した。

 当日に配膳された全ての料理には問題はなかった。


 何故、そのことが早期に解明されたか。

 それは、アンナの身体から、自然界には存在しない物質が検出されたためだった。


 即ち。

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 つまり、何かが腐っていただとか、調理に過失があっただとか、そういうわけではない。

 意図的に、細工がされていたのだ。

 致死量には及ばない量ではあったが、後遺症は残っても不思議では無い量でもあった。


 では何故、調理過程ではなく、差配した後だということが確定したかと言えば。

 それは、被害者が"アンナ一人"であったからだ。

 もしも犯人が調理師であれば。

 同じ食事をしたクラスメートは全員が服毒していないとおかしい。

 それは配膳をする前だとしても同じことが言えるから。

 犯人の目当ては、無差別ではなくアンナ個人であった可能性も高い。


 つまり、ここではっきりしたわけだ。

 アンナが、クラスの誰かから嫌がらせを受けていたということが。

 ちなみに。

 アンナは食事前に一度トイレに立っており。

 その間、誰かがアンナの給食に毒を盛ったと考えられるが。

 そのときの動きなど、誰も覚えていない。

 よくある日常の風景だ。

 一人一人の動きを把握している人間がいないのは、自然のことだと言えた。


 学院側は、この事実を公表していない。

 事実関係がはっきりするまでは緘口令が敷かれているらしかった。


 そして。

 パーリにはそこから先のことが、分からなかった。


 さすがに外部の人間が教室内にいたら分かるはずなので、このクラスに犯人がいるのは間違いない。

 しかし、彼女にはどの生徒が。

 なんの目的で。

 そのような非道なことをしたのか。

 出来たのか。


 皆目、見当がつかなかった。

 また、アンナからも、生徒から嫌がらせを受けているような素振りは無かったという。

 ただ、アンナの性格から言って、もしも特定の生徒(または生徒のグループ)からイジメや嫌がらせを受けていたとしても、それをパーリに話すとは思えなかった。


 ここまでが、パーリから聞いたことの顛末である。

 

 それにしても、と俺は思った。

 教師に毒を盛るなどというのは、既にイジメやイタズラの域を超えている。

 例え致死量では無かったとしても、それは重大な犯罪行為であるように思える。


 それでも斯様に、容易に隠蔽出来てしまうのだ。

 "学校"というのは不思議な場所だ。

 言わば殺人未遂事件の如き異常な事態が、外部に漏れて来ないのだから。

 もっとも、パーリの通うこのエリート学園では、余計にそういうものなのかもしれない。

 即ち。

 将来を約束されたエリートたちの未来は、何よりも優先される事案なのだ。


 パーリの学校は未来の士官候補生を育成することを理念に掲げられた、貴族のエリートが通う魔法専門の極めて高度な教育機関である。

 学業、運動能力、血筋、そして家柄。

 全てが備わった子供たちが集まっている最高学府。


 【王立ウェンブリー魔法学校】である。


 領主様の城に最も近い"第1地区"の城下町に建てられた、広大な土地と荘厳な威容を持つこの学校には、街だけではなく、国中から、そして国外からも優秀な人材が集められていた。

 

 彼女はそのクラスの中でもさらに選りすぐられた「特進科」である。

 ゆえに、そこの生徒たちも一癖も二癖もある人間ばかり。

 性格の悪いやつや、潔癖なやつ。

 だらしないやつや、頭の固いやつ。

 まるで動物園みたいに色んな人間がいる。


 そしてその個性的なやつらが。

 主に3グループに別れて、なんとなく、対立している。

 主張の強い人間たちが集まると、どうしてもこうなるらしい。


 ともかくこれだけ主張の強い人種だ。

 彼ら彼女らの中には。

 恐らく、アンナのことを良く思っていない生徒もいただろう。


 しかし、それでも。

 パーリには、クラスメートにそこまでの非人道的行為が出来る人間はいないと感じているらしかった。

 みんな、プライドが高くて、意地悪だったり性格が曲がってたりするけど。

 教師に毒を盛ろうというほどの極悪人はいないように、彼女には思えた。

 というよりは、そのように信じたい、という感じだった。

 そのためにも、是非とも真相が知りたい。

 パーリの希望はそこにあった。


 なので。

 パーリはそのことを、日曜の礼拝で訪れた折に、そこでシスターとして勤めている親戚筋で頼りがいのあるクリスティーナに相談した。

 学内の人間は信用出来ないと伝えた。

 するとクリスティーナは、それならうってつけの人間がいると、カワカミを紹介したのだった。


「カワぴょんさ、人の嘘を見抜けるんでしょ」


 人形屋に訪れたパーリは、俺に向けて、そう言った。(彼女は俺をカワぴょんと呼ぶ)


「だったらさ、うちの学校に来て、アンナ先生をあんな目に合わせた人間を特定してよ。んで、あの人の仇を討ってよ」


 そういうわけで。

 副学長の娘であるパーリのコネで、俺はこのクラスの臨時教員として特進クラスに赴任した。

 

 アンナに毒を盛った人間を特定し、相応の罰を与える。


 それがつまり。

 今回の、俺の"仕事"というわけだ。


 

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― 新着の感想 ―
[良い点] サスペンス推理みたいな感じになって面白くなってきたよ!
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