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暗殺幼女  作者: 山田マイク
「首ハネのヴィーナス」編
54/85

54 衝動


「自分でも分かりません」


 と、アオイは答えた。


「ガロワ様との契約が切れ、私には"行動規範"が無くなりました。生まれて初めて、自由を得ました。しかし、それは私にとって、大きな鎖となりました。"何をやってもいい"と言われると、何も出来なくなってしまったのです。自由とはつまり、"何をするべきか"を自らの意思で決めねばならない、ということ。自分で選択をする、ということの連続。故に、そもそもが意思を持たない私は――本当に、何をすればいいのか分からなくなってしまったのです」


 ふむ、と俺は唸った。

 なるほど、確かに言われてみればそういうものかもしれない。

 自由というのは自らに()る、つまりそもそも本人に"主体"というものが無ければ、逆に動く術がなくなってしまう。

 

「ガロワ様との"契約"を失った私は、空っぽでした。何をすべきなのか。何をすれば良いのか。何も分からなかった。しかし、その中で、一つだけ頭に浮かんだ衝動があったのです」

「衝動?」

「はい。それはとても頼りなく、すぐに消え去りそうだったので、私は必死に探りました。私がやりたいこと。動機。それが即ち、私が私である唯一の証であるような気がして、何度も何度も探り、確認しました。そして、見つけたのです。私が今やりたいことを。私が今――」


 アオイはそこで一度、言葉を止めた。

 そして俺の方を見ながら、


「私が今、会いたい人を」


 と、言った。


 感情は無いけど。

 なんだか熱い視線。

 俺は反射的に、思わず目をそらした。


「つまりそれが、俺だった、ってことかな?」


 俺はこほん、と空咳をした。


「そうです」


 アオイは頷いた。


「空っぽだった私に、唯一残っていた衝迫。行動規範。それが、カワカミさん。あなたに会うことでした」

「そいつは、はあ、なんとも光栄なことだけども」


 俺は肩をすくめた。


「しかし、どうして、というのはまだよく分からないんだけど。どうして、アオイちゃんは、俺に会いたくなったんだろ」

「すいません。先程も言いましたが、それは私にも、分からないんです」

 

 アオイは無表情のまま、言った。

 うーん。

 結局、肝心なところは分からず仕舞い、か。

 しかし、そこには何か理由があるはず。

 俺とアオイの接点は、あの時のバトルのみ。

 だからきっと、あの戦闘、もしくはその前後のやり取りの中に、現在の彼女を突き動かす衝動の主因があるはず。

 えっと。

 あの時、俺とアオイちゃんはどんな会話をしたっけか。

 俺はしばし思案した。

 

 すると、店内には短い間、沈黙が落ちた。

 カチカチという螺巻き式時計の音しかしない。


「あの、少し話はズレてしまうかもしれませんが」

 ふと、アオイが口を開いた。

「今、私がしたいことが一つ、明確にあるのですが」


「したいこと?」

「はい。実は先ほどから、カワカミ様と話せば話すほど、胸の中でその欲望が大きくなってまして」

「うん。いいじゃん。それがキミがここに来た理由を知るヒントになるかも。それじゃあその、アオイちゃんの"やりたいこと"ってのを教えてくれるかな」

「はい。それでは」


 アオイは拘束具をつけたまま、居住まいを正し、言った。


「私は今、ここで、カワカミ様と"魂の契約"を交わしたいです」

「……は?」


 予想外の言葉に、俺は狼狽した。

 な、何を言い出すんだ、この子は。


「カワカミ様、お願いします。どうか、どうか――」


 戸惑う俺を余所に。

 アオイはさらに、膝を折り、平伏せんばかりの勢いで、こう続けた。


「どうか私の、新しい(あるじ)様となってくださいませ」


 

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