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暗殺幼女  作者: 山田マイク
「首ハネのヴィーナス」編
50/85

50 参上


 アオイは俺を睥睨していた。

 その目は紅く染まり、感情は読み取れなかった。

 しかし、その意図は解っていた。

 彼女の手に握られた"鉄糸"。

 あれを引っ張り上げれば――俺の首は飛ぶ。


 アオイは、ゆっくりと腕を上げた。

 俺にはそれがやけにスローモーションに見えた。

 やっぱ、死ぬ間際というのはこういう感じなんだろうか。

 

 そして彼女は。

 何事か呟いたあと、その手に力を込めた。


 ――その刹那。


「ドッカーン!」


 聞き覚えのある幼女の威勢の良い声と共に。

 俺にトドメを刺そうと見下ろしていたアオイが、一瞬にして後方に吹き飛んだ。

 その時には既に首に巻かれた鉄糸は千切れており、俺は解放されていた。


「ニャハハ! あたし! 参上!」


 アオイの代わりに、よく見た顔が視界に入ってきた。

 倒れた俺を、顎下にピースサインをあて、ヤンキー座りをして覗き込んでいる。


 ああ。

 天使だ。


 その刹那。

 本気でそう思った。

 俺は思わず口の端っこを上げて、


「はしたないですよ、マチルダさん」


 と、言った。


「女の子なんだから、そんな不良みたいな座り方しないでください」

「うるせー。助けてもらっといてなんだその口の利き方は」

「だって、パンツ見えそうですし」

「カワカミなら見られてもいい」

「そういう問題じゃなくて」

「うるせーな。んなことより、言うことあんだろが」

「すいません。助かりました」

「おーよ」

「ありがとうございました」

「おーよ」

「もうちょいで死ぬことでした」

「ったく、テメーら、相変わらずマジ弱すぎなんだけど」

「お手数かけます」

「あとでチョコな」

「はい。ルルのやつを、たっぷりと」

「うし」

「しかし、よく俺のピンチが分かりましたね」

「言ったろ。あたしとカワカミは一心同体だって」

「あらま。そりゃ光栄です」

「おーよ」

「ちょっと疲れました。それじゃ、後は頼んでもいいスか」


 俺が頼むと、おー、と言いながらマチルダは立ち上がり。

 アオイの方を見た。


 他方。

 マチルダに吹き飛ばされたアオイは瓦礫の山から起き上がり、何事も無かったかのようにスタスタと彼女の方へ歩み寄った。

 相変わらず、ダメージの有無は不明。


 二人は満月を挟んで対峙した。


「よー。テメーが噂のトワイライト人形か」


 マチルダは腰に手を当てて言った。


「私は人形ではありません」

 アオイは無表情で答えた。

「そして、人間でも、ありません」


 マチルダはなにか言おうと口を開いたが、結局なにも言わずに、そのまま黙り込んだ。

 俺は少々、驚いていた。

 言葉を呑み込むマチルダを見るのは初めてのことだった。


 だがやがて。

 彼女は「……そっか」と短く応えた。


「あたしは馬鹿だから。頭が良くないから。よく分かんねー。よく分かんねーんだけど」

 マチルダは続けた。

「あたし、本当は、お前を殺したくない。お前が何者だろうと、殺したくない」


 マチルダは俯いた。

 そしてドレスの裾をぎゅっと握り、地面を見つめた。


「でも、あたしはお前よりカワカミの方がもっと好きだから。もっと大事だから。だから、カワカミを殺そうとするお前を殺さないといけない」


 ごめんな、とマチルダは言った。


 ずきり、と胸が痛んだ。

 身体中、痛いところだらけなのに。

 今のマチルダの言葉が、一番、痛かった。


 彼女にとっては。

 人形も人間も、等価値なのだ。

 生物と無生物の境界はどこにあるのかしらと、マリアナは言った。

 きっとマチルダも同じ気持ちなんだろう。

 だから殺したくない。

 存在が揺らいでいるのは。

 ()()()()()()()()

 どちらでもあり、どちらでもない"アオイ"という存在に。

 自分自身を投影しているのかもしれない。


 事実。

 アオイとマチルダはどこか()()()()


「一瞬で終わらせてやるよ」


 マチルダは瑪瑙の付いた短刀を、大鎌へと変化させた。

 そしてそれをクルクルと回して、踊るようにして肩に背負った。

 満月に。

 ドレスを纏い鎌を担いだ幼女の影法師(シルエット)が張り付いた。


「せめて、悪夢が短くて済むように」


 アオイは無言だった。

 キュィイイ、と、またぞろ、エネルギーを充填させ始める。

 しかし今度は。

 6つの腕、全てからその音が発せられている。

 全力(フルパワー)だ。


 どうやら彼女も。

 マチルダの力を見切っている。

 持っているエネルギー全てを、この幼女にぶつけるつもりだ。


抹殺(ディリート)します」


 アオイが言った。


「来い。アオイ」


 マチルダが言った。


 やがて。

 充填音は止み。


 全ての銃口から、榴弾(キャノン)砲のような光線が照射された。




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